社会の分断が進んだのは、ソーシャルメディアが私たちを引き離したからではなく、ソーシャルメディアが私たちを引き合わせたからかもしれない。
Vicky Leta/Insider
アメリカ人は政治的にも社会的にも深く分断されている。分断した両極の人々が同意できることがわずかながらあるとすれば、その一つは「お互いに同意できない」ということだろう。
気候変動、ワクチン、犯罪率、フォードのF-150とトヨタのプリウスなど、本来なら右も左も関係ないはずの問題でどんな立場をとるかを見れば、その人が赤(共和党)なのか青(民主党)なのかだいたい言い当てられる。今やあらゆることが政治的な選択になっていると言えそうだ。
これまでは、「格差の拡大はソーシャルメディアのせい」という見方が常識化していた。タイミング的にも符合しているからだ。TwitterやFacebookが台頭した後で、「MAGA(アメリカを再び偉大な国に〔Make America Great Again〕の意)」や「BLM(Black Lives Matter)」といった現象が生じた。
しかし科学的に見ると、この告発を立証するのは驚くほど難しい。この問題の研究者たちは、エコーチェンバー、つまり誰もが同じ考えを持つバブルの中に引きこもる「フィルターバブル」が本当の問題だとは考えていない。
研究によると、私たちが自分の好むデジタルサークルの外に出ても、私たちの意見はあまり変わらない。しかし、どんな情報や考え方に触れても、私たちの見方はいつの間にか固定化してしまうのだ。
そこで、新たな仮説が生まれた。もしかしたら問題は、ソーシャルメディアが私たち全員を同じ考えのバブルに追いやったことではないのかもしれない。私たちが何世紀にもわたって暮らしてきたバブルを、ソーシャルメディアが消滅させたということなのでは?
アムステルダム大学のコンピューター科学者であるペーター・トーンバーグ(Petter Törnberg)が開発した新しいモデルによると、ソーシャルメディアは2つの単純な理由でわれわれの精神をねじ曲げ、対立する2つのトライブ(種族)にまとめてしまうのだという。
第一の理由は、ソーシャルメディアを使えば普段は話をしないような、ランダムな地元以外の人たちと接することができること。第二の理由は、見ず知らずの人やその奇妙な考えに対して、一番身近に感じられるものに引き寄せて反応するようになることだ。
その結果、私たちはイデオロギーの境界線がくっきり引かれた2つの陣営に振り分けられ、もはや自分と信念を異にする人たちの人間性を識別することができなくなってしまう。
たったこれだけのことだ。この2つをデジタルの大釜に入れてシミュレーションを行うと、分裂が始まる。トーンバーグはこれを「二極化が二極化を生む」と表現する。「(極と極の)谷が開いていって、片方に寄ろうとする圧力がますます強くなり、傾きが生じてくるわけです」
すべての人の心をつなぐ情報スーパーハイウェイを建設すると、すべてのデジタルプリウスがすべてのデジタルF-150に衝突する。そして市民社会は崩壊する。
原因はフィルターバブルではない
いま起きている分断を簡単に説明できると考えるのは、直感的であり、安心もできる。
いわく、アメリカのユートピアだとされた戦後期は激動の終焉を迎え、みんなで一緒にボーリングをすることをやめ、3大テレビネットワークに見切りをつけた。それに代わって人はFacebookを使い、友人グループ以外の人を憎むようになった。結局のところ、現在の分断はTwitter的なものの台頭と、地方紙や全国ネットのテレビニュースの衰退から始まったのだ——。
しかし、Facebookがどんなにユーザーのフィルターバブルをなくしたいと思おうが、私たちの溝を深める原因はフィルターバブルではないことを社会科学が示している。
レジーナ大学の行動科学者ゴードン・ペニークック(Gordon Pennycook)の説明によれば、フィルターバブルは「オンラインよりもオフラインでのほうが起こりやすいため、ソーシャルメディアが原因で人々が意見の相違に理解を示さなくなることはない」ということだ。
もちろん、アメリカは常に分断されてきた。1対1のレベル、つまり個々の問題や信条というレベルではそこまで遠く離れていないのに、国家レベルで見るとその溝はかつてないほど拡大し、より不安定なものとなっている。
トーンバーグが二極化の問題に関心を持ったのは、このようなミクロなスケールでの乖離がないためである。トーンバーグは物理学者であり、物理学者は、水滴が雲になったり、原子が物質になったりするような、ミクロスケールの変化がマクロスケールの現象にどう結びつくかを考えるのを好む。「だってミクロの乖離がないのに、マクロでは乖離があるんですよ」と彼は言う。
では、何が変わったのか?
かくして対立に引き込まれていく
第一に、ソーシャルメディアによって、私たちが自分たちをグループ分けする方法が変わった。政治的な信条や個人的な好みをめぐる対立は、以前は地域によって分かれていた、とトーンバーグは指摘する。
以前は小さな町に住んでいようが大都市に住んでいようが、好きなものに応じて親近感を持って集まり、政治的な違いはごまかすことができた。確かに、ポーカー仲間のボブは共産主義の話題では首をかしげるところがあった。でも彼は家庭的で、地元のキッズサッカーチームのコーチをしていたから、政治的なことは避けて付き合っていられた。
すべてがローカルだった時代には、社会的な線に沿った区分けは、必ずしもイデオロギー的な線に沿った区分けを意味してはいなかったのだ。
しかし、ソーシャルメディアが普及し、デジタルニュースにアクセスできるようになると状況は一変した。地理的にも思想的にも遠く離れた人たちとつながるようになり、社会的な優先順位を政治的な所属とひとくくりにするようになった。
今や人々は、1つの政治的立場とそれに付随するすべてのものに同調するだけでなく、他の立場にいる人々を人間以下の存在として誹謗中傷するようになった。ポーカーのサイトで知り合ったワクチン反対派のボブは顔の見えない怪物であり、彼の考えにあなたはことごとく反対する。これは社会科学者が「感情的二極化」と呼ぶもので、より単純なイデオロギーの二極化とは対照的である。
「私のモデルは、これが完全に恣意的であることを証明しています。ますます多くのアイデンティティ、相違、対立が党派間の対立に引き込まれていくのです」(トーンバーグ)
研究者の中には、その行き着く先はセクト主義、つまり2020年の大統領選直前にサイエンス誌に掲載された論文にあるように、「別の政治集団に対して、ある政治集団と道徳的な同一化を採用する傾向」だと危惧する者もいる。これは、民主主義を掲げようとするのであれば、最も危険なものだと論文の筆者らは言う。
エンゲージメントをアイデンティティに結び付ける
加えて、ソーシャルメディア上に投じられるあらゆる新しいアイデアに対する人々の反応もあると、トーンバーグは指摘する。
私たちは、ネット上で嫌悪感を抱く人々の不快な発言に遭遇したからといってネガティブな社会的影響(社会科学者はこれをバックラッシュ効果と呼ぶ)を受けるわけではない。実際、比較研究では、新しいアイデアに触れても人は自分の意見をあまり変えないことが示されている。
プリンストン大学の研究チームは2021年、右寄り/左寄りのニュースをオンラインで消費することの影響について調査した。この調査では、350人以上の保守派に(左派の)ハフポストを1年以上読ませ、同じ人数のリベラル派に(右派の)Foxニュースを読ませ、コントロールグループと比較した。すると、みな時事問題についてより多くの情報を得たものの、自分の意見を変えた被験者はほとんどいなかった。
では、ソーシャルメディアという過熱した環境で何が起こるのか。トーンバーグによれば、私たちは新たな政治的アイデンティティを持ち、同意できる他者を少しずつ探すようになるのだという。
私たちは、同意できない考えから逃げているのではない。同意できる考えの上に、一緒になって浮かんでいるのだ。こうなる一因は、FacebookやTwitterといったプラットフォームが、私たちの視線を広告に釘付けにしたい、私たちがどんな広告を好むかを知る手がかりになるデータをもっと得たいと考えていることにある。
手っ取り早くそれを実現するには、エンゲージメントをアイデンティティに結び付けてしまえばいい。SNSのステータスを更新し、ツイートし、セルフィーを投稿するといったアクティビティのすべてが、私たちがどのグループに属しているかを浮かび上がらせ、相手との戦いに私たちを引き込むのだ。
「私たちがすべてを自己顕示という枠で捉えてしまうのは、このためです。その結果、アイデンティティに基づく政治が行われるのです」(トーンバーグ)
仮に二極化を進めたいと思ったら、まさにこうした環境を作るだろうとトーンバーグは考えている。
すべては計画通り
そういうことなら、修正するのは簡単だ。ソーシャルメディアという名のガスを止めて、熱が冷めるまで、よりローカルなつながりを維持すればいいじゃないか。
だが残念ながら、ソーシャルメディア企業の経営者たちはそんなことに興味はない。ソーシャルメディアによって引き起こされる政治的なアウトプットは、システムのバグだけではない。それは機能でもあるのだ。
FacebookやTwitterで、私たちは見知らぬ人たちの考えに触れられるだけではない。過激主義はソーシャルメディア企業にとって好都合なので、その中で最も声の大きい人たちを優遇する。「(ソーシャルメディア企業は)人々が怒るようなコンテンツを提供することで、二極化を有効活用しています。そうすることでエンゲージメントを高めているのです」と行動科学者のペニークックは言う。
中絶問題や気候変動といった深い政治的対立は、いまや社会的な親近感や個人的な嗜好と密接に結びついている。
Brandon Bell/Getty Images
アメリカの二大政党内の先鋭化の度合いには違いがあるが、これもトーンバーグのモデルに出てくるソーシャルメディアに煽られた過激主義を使えば説明がつく。
「共和党は白人男性が大多数を占める同質的な集団に分類され、民主党はそれ以外の人々の一団として機能しています」(トーンバーグ)
その違いは研究でも裏付けられている。デューク大学のチームは2018年、Twitterでリベラルなボットをフォローした共和党員はより保守的になり、保守的なボットをフォローした民主党員はほんのわずかにリベラルになることを発見した。
トーンバーグの理論からは、この混乱を解決する方法までは引き出せない。トーンバーグ自身も「あくまで学術文献でしかない」と認めている。ソーシャルメディアと二極化の問題に詳しいある著名な研究者は、このモデルは実証的なものではないため検証が難しいという。再現しようがないからだ。
そもそも、二極化は正すべきものでもないのかもしれない。たとえ二極化が収まったところで、人々が権威主義者に投票したり、暴力を擁護したりすることは防げないとする新たなエビデンスもある。たとえ分断が小さくなってもディストピアに行き着くことに変わりはなく、多少居心地がよくなるだけだ。
いま私たちが直面している二極化が根本的な問題なのかどうか、もしかしたら突き詰めて考えてみるべき時なのかもしれない。その点は誰もが同意できるはずだ。
[原文:Social media polarized America by making a big mistake: It introduced us to each other.]
(編集・常盤 亜由子)