Stephen Lam/Reuters
近ごろのマーク・ザッカーバーグは、メタの広告事業に対するアップルの脅威について聞かれると敵意を隠そうともしない。
「アップルのATT(App Tracking Transparency:アプリ追跡の透明化機能)の大幅な変更や、昨日の(アップルの)発表でも分かるように、何らかのそういったポリシーを彼らが今後も継続していくつもりなのは確かです。これは明らかに大きなリスクであり、問題をはらんでいます」
ザッカーバーグは10月26日に発表したメタの四半期決算説明会でそう述べた。同社は2四半期連続で減収となり、その主な原因としてまたしてもアップルの名を挙げている。
アップルがプライバシー設定に加えたいくつかの重要な変更が、メタの中核をなす広告事業の根幹に打撃を与えている。その重要な変更とは、前述のATT、App Storeの「Reviewガイドライン」の改訂とブースト広告に関する変更のことだ。
ブースト投稿もアプリ内課金
アップルは2021年にATT機能をリリースし、アプリがユーザーを追跡する際にはユーザーの許可を求めるようにした。さらに2022年10月下旬にはApp Storeの「Reviewガイドライン」を改訂し、ソーシャルメディアアプリの投稿を拡散するような広告の購入はアプリ内課金として扱うべきであり、そのため30%の手数料の対象となるとした。
Facebook、Twitter、Bumble、Tinderなど、クリエイター向けアプリや出会い系アプリの多くでは、ユーザー個人が自分のプロフィールやライブストリームなどのコンテンツをフィード上でより多くの人に届けるために、アプリ単体で簡単に広告を購入できるようになっている。
広告主は通常、専用の広告管理アプリケーションやデスクトップのウェブサイトを通じてアプリの広告を購入しているため、これらの取引はアプリ内課金として扱われない。
Twitter、Bumble、Tinderなどのアプリはすでに「ブースト」投稿をアプリ内課金として扱っているが、Facebookを運営するメタはこれを保留している——そう話すのは、モバイルマーケティングアナリストで投資家のエリック・スイフェルトだ(Insiderは各社にコメントを求めたが回答は得られなかった)。
ウォールストリート・ジャーナルは2022年8月、アップルがブースト投稿によるFacebookの売上の一定割合を受け取る権利を持つべきかどうかについてメタと話し合いを行ったが、合意には至らなかったと報じた。
アップルが今回改訂したガイドラインの中で「ソーシャルメディアアプリの投稿に対する『ブースト』の売上」という文言を使ったのは、おそらく偶然ではないだろう。
Insiderの取材に応じたモバイル広告の専門家は、FacebookやInstagramのiOSアプリで購入したブースト投稿は、おそらくメタにとってごくわずかな収入しか生まないだろうと語る。メタはこれに関する情報を財務諸表で開示していないため、モバイル広告市場のうち、この種の広告からどの程度の収益をあげているかは定かではない。
だが一方のアップルは、自社のアプリ内で購入されたFacebook広告から9000万ドル(約133億円、1ドル=148円換算)もの追加収入を実現しうる、とデータ管理会社ロタメ(Lotame)は分析している。
これに関しアップルの広報担当者は、アプリ内でのデジタル商品・サービスの販売は、アプリ内購入プロセスを経なければならないことをApp Storeのガイドラインで明確にしていると発言している。また、新しいガイドラインでは、NFT(非代替性トークン)の販売もアプリ内課金として扱うとしている。
「個人または組織が投稿やプロフィールのリーチを増やす目的で課金する『ブースト』は、デジタルサービスとなります。そのため、当然アプリ内課金が必要です。
これは以前からそうでしたし、それで成功しているアプリの例は多くあります」(アップルの広報担当者)
アップルは広告業界の破壊者
ターゲティングと測定を抑制するプライバシーポリシーの変更から、人知れず進めている広告事業の拡大まで——広告業界に対する近年のアップルの破壊力は並ではない。
規模は小さいながらも利益率の高い広告事業はアップルのサービス部門に含まれており、ハードウェアの売上が鈍化するに従って、アップルにおける重要度が増している。
「広告事業を成長させたいと思ったら、そのためにいくつかの業界を焦土化することも厭わない。それがアップルのやり方です」と、ロタメの最高執行責任者(COO)マイク・ウーズリー(Mike Woosley)は言う。
アップルが2021年に行ったATTプライバシーポリシーを変更したことで、Facebook、YouTube、Snap、Twitterの2022年の売上から総額約160億ドル(約2兆3700億円)が消失するとロタメは予想している。一方、調査会社オムディア(Omdia)の分析では、アップル自身の広告部門の売上は同期間に43%増の53億ドル(約7800億円)になると予想している。
アップルはこの10月、App Storeに2つの新しい広告フォーマットを導入した。一部の専門家は、アップルは今後時間をかけてより多くのアプリやサービスに広告を適用し、広告ネットワークを広げていくつもりなのではと読んでいる。メタの広報担当者も次のように述べている。
「アップルはデジタル経済の中で他社を切り崩しながら、自社のビジネスを成長させるべくポリシーを変更し続けています。以前は開発者の広告収入のシェアを取ることはないと言明していましたが、現在は明らかにその方針を変えています」
先ごろウォールストリート・ジャーナルが開催したカンファレンス「Tech Live」に登壇したアップルのソフトウェアエンジニアリング担当上級副社長クレイグ・フェデリギ(Craig Federighi)は、ATTの仕様変更は同社の広告事業とは「全く関係ない」と述べた。
確かに、アップルの広告収入は現在App Store内の検索広告が主であり、メタのソーシャル広告とは必ずしも直接競合していない。それにメタに関して言えば、広告主が広告支出を控えているのは景気後退やTikTokなどとの競争激化が主な要因だ。
一部の業界関係者の間では、今回の新しい「ブースト」ポリシーは、アップルがiPhoneアプリ広告のエコシステム内にさらなる“料金所”を設置する前触れなのではないかとの観測も密かに広がっている。また、そうなると反トラスト法当局に目をつけられる可能性が高いと見る専門家もいる。
広告技術コンサルタント会社アドプロフス(AdProfs)創業者のラットコー・ヴィダコヴィック(Ratko Vidakovic)は次のように話す。
「すべての広告費の分け前にあずかろうとすると、実装が難しくなるだけでなく、アプリ開発者にも納得してもらいにくくなりますし、競争当局に対して弁護するのも苦しくなるでしょう」
[原文:Apple has a chokehold on Facebook. All signs suggest it's going to keep squeezing harder.]
(編集・常盤亜由子)