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イーロン・マスクよるツイッター(Twitter)の買収が正式に完了した。不満を抱いたユーザーの中には、すでにツイッターからの大移動を口にし始めた人もいる。しかし、彼らは一体どこに行くのだろうか?
2022年10月27日、オープンソースのソーシャルネットワーク「マストドン(Mastodon)」では、ハッシュタグ「 #TwitterMigration 」がトレンド入りし、ツイッター買収決定後の数時間で数千人の新規ユーザーを獲得したという。
一方、ツイッターの元CEOジャック・ドーシー(Jack Dorsey)が支援する分散型ソーシャルメディアプロトコル「ブルースカイ(Bluesky)」は、ウェイティングリストを開設してからわずか48時間で3万人の新規ユーザーを獲得した。
さらに新しいソーシャルメディアが台頭してくる余地もある。ツイッターからはユーザーだけでなく人材も流出することが予想される。そのため一部のベンチャーキャピタルは、これはツイッターに代わる企業を支援する絶好の機会だと考えているようだ。
ベンチャーファンドM13のパートナーであり、支援すべきソーシャルメディアの新規参入企業を積極的に探しているアンナ・バーバー(Anna Barber)は、「今後6カ月間は、次のプラットフォームを立ち上げる絶好のタイミングだと思います」と語る。
新しいソーシャル・プラットフォームを支援するうえで、そのプラットフォームによる本人確認と、責任あるコンテンツモデレーションはバーバーにとって譲れない条件だ。
「私たちは、公の場で語り合い、人々が互いにつながりを感じられるようにする機会を得ました。これらはすべて公共財とも言えるものですが、その根底には巨大な経済的機会もあるのです」(バーバー)
M13はスタートアップを発掘するだけでなく、社内のベンチャースタジオを使ってゼロから何かを作り上げることも考えているとバーバーは言う。
もちろん、フェイスブックやツイッターのような巨大プラットフォームが支配する業界に参入するのは、簡単なことではない。プライバシーコンサルタントであり、ソーシャルメディアアプリ「ブライト(Bright)」の創業者でもあるタリン・ウォード(Taryn Ward)は、「今大きな波が来ている」と語る。ブライトは強固なユーザー認証と広告に頼らないビジネスモデルで、害の少ないオンラインコミュニティをつくろうと計画している。
ウォードは2年前、12歳の娘がTikTokの有害なコンテンツにハマったのを見てブライトの開発を決めた。
「情緒不安定と有害情報のはざまにある脆弱性を突いたんです」(ウォード)
ウォードは友人や家族から35万ポンド(約6000万円、1ポンド=170円換算)を調達し、公衆衛生の専門家、データプライバシーに詳しい弁護士、科学者、元軍人の諜報員からなるチームを結成した。デモの開発とウェイティングリストの開設までは終わっており、現在は2023年初頭を予定しているローンチに向け、プレシードラウンドで150万ポンド(約2億5500万円)を調達しようとしている。
2022年4月にイーロン・マスクがツイッターの買収を発表すると、当時は創業したばかりでプロダクトもまだなかったにもかかわらず、ブライトへの注目が爆発的に高まったという。
「SNS買収のトレンドが来ていると思った技術者たちからブライトのウェブサイト宛てに、有象無象の問い合わせが入るようになったんです」(ウォード)
エンジェル投資家からのオファーもあった。だがこともあろうに、その投資家はラッパーのイェことカニエ・ウエストが買収を検討していた右翼的なSNSパーラー(Parler)とウォードのブライトを比較したという。ウォードはそこで話を打ち切り、オファーを断った。もっとポジティブでインクルーシブなコミュニティを創造するというビジョンを共有できる投資家と組みたい、と彼女は考えている。
ベンチャーファンドのニュー・エンタープライズ・アソシエイツ(NEA)のパートナーで、自身もツイッターの元幹部であるアン・ボルデツキー(Ann Bordetsky)は、困難はあるものの、ソーシャルメディアの世界を破壊的に変えようとする創業者たちにとっては今が好機だと考えている。というのも、Z世代が既存のソーシャルネットワークから離れつつあり、世代交代が起きているからだ。
「長く君臨したフェイスブック、インスタ、ツイッターは弱体化し、その優位性や関連性を失いつつあります」(ボルデツキー)
ボルデツキーは創業者たちと話す中で、過去6年間よりも、直近6カ月の方が消費者向けソーシャルメディアにイノベーションが見られると感じている。NEAは最近、この分野の企業を複数社支援したという。
ツイッターではマスクが大規模なレイオフを検討していると報じられているし、メタ(Meta)は株価が下落してストックオプションの魅力が薄れているため、ソーシャルメディア系人材を探すには絶好の機会だとボルデツキーは言う。
「こうした企業から人材が流出しているので、この分野で頭角を現している企業には信じられないくらい有利でしょうね。メタからエンジニアを引き抜くなんて以前なら至難の業でしたが、今ならだいぶやりやすくなっているんじゃないでしょうか」
ベンチャーファンドIVPの投資家であるユーリ・リー(Youri Lee)も「巨大なSNSプラットフォームは衰退しつつある」として、次なるスタートアップの有望株を探している。まだ投資するには至っていないが、創業者たちと話をする中で有望だと感じているのは例えば、招待制のブロックチェーンベースのソーシャルネットワークであるファーキャスター(Farcaster)などだ。
「コミュニティの感覚をもう一度取り戻せる新しいプラットフォームづくりがしたいんだと、みんな燃えているんですよ」(リー)
投資家や創業者の関心が高まっているとはいえ、メタやツイッターに対抗しようと思えばスタートアップにとっては苦しい戦いになる、投資家は警告する。
前出のバーバーは、TikTokとスナップ(Snap)以降この業界にまともな競合が現れていないことを考えると、「ちょっと魔法みたいな考え方というか、非現実的で楽観的な見通し」を保つ必要があると話す。だが不可能を可能にするのがベンチャーキャピタルの得意とするところだと、バーバーは付け加えた。
(編集・大門小百合)