カリフォルニア州サンフランシスコにあるペロシ下院議長の自宅周辺で対応にあたるFBI。
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- 10月28日に連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長の自宅が襲撃された事件は、アメリカではすぐに2021年1月6日の議事堂侵入事件と比較して語られるようになった。
- ただ、こうした単独攻撃はいろいろな意味でより危険だと、過激思想に詳しいある専門家はInsiderに語った。
- 個人は今や「こうした政治的暴力を実行する権利が与えられている」ように感じていると専門家は話している。
10月28日にカリフォルニア州サンフランシスコにある連邦議会のナンシー・ペロシ下院議長の自宅が襲撃された事件は、アメリカではすぐに2021年1月6日の議事堂侵入事件と比較して語られるようになった。専門家、アナリスト、政治家らは今回の襲撃事件を強く非難している。
ただ、過激思想に詳しいある専門家によると、今回の単独攻撃は2021年の議事堂侵入事件以上の危機を予兆しているという。
「1月6日(の議事堂侵入事件)以来の事件です。国としての位置づけを再認識させるものだと思います」とWestern States Centerのシニア・アドバイザー、エリック・ワード(Eric Ward)氏はInsiderに語った。
「太陽が再び昇るのと同じくらい、分かり切ったことです」
当局によると、28日未明に男(42)がペロシ下院議長の自宅に押し入り、駆け付けた警官の前で夫のポール・ペロシ氏(82)をハンマーで殴打。ポール氏は病院へ搬送されたという。当時、ペロシ下院議長はワシントンD.C.にいた。ポール氏は頭蓋骨を骨折したが、手術を受け、完治する見込みだ。
報道によると、男はペロシ下院議員を探していた。CNNは男が「ナンシーはどこだ、ナンシーはどこだ」と叫んでいたと伝えている。
容疑者の動機は、2021年1月6日に暴徒化したトランプ大統領(当時)の支持者らが連邦議会議事堂でペロシ下院議長を探し、彼女や他の議員を脅迫した事件と不気味なほど似ている。
「下院議長で大統領職継承順位3位のナンシー・ペロシ氏が1月6日の暴徒たちの主な標的だったことをわたしたちは知っています」とニューヨーク大学の歴史学とイタリア学の教授ルース・ベン・ギアト(Ruth Ben Ghiat)氏はInsiderに語っている。
「ポール・ペロシ氏を負傷させた襲撃者はナンシー・ペロシ氏を探していました。1月6日の仕事をやり遂げたかったのでしょう」
ナンシー・ペロシ下院議員と夫のポール・ペロシ氏。
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捜査はまだ続いているが、容疑者がソーシャルメディアで複数の陰謀論や極右思想のアカウントをフォローしていたことがその履歴から分かっている。
「ただ、ペロシ下院議長の夫の襲撃はこれまでよりも一層危険なものです。1月6日の議事堂襲撃事件のような組織的な襲撃ではありません」とワード氏は話している。
「わたしたちの住んでいる環境を変えているのは個人です。人々は今、こうした政治的暴力や自らの偏見に基づく行為を自分ひとりの力で実現させ、実行する権利が与えられていると感じているのです」
アメリカではここ数カ月、政治家らに対する単独攻撃が相次いでいる。7月にはプラミラ・ジャヤパル(Pramila Jayapal)下院議員を自宅前で脅迫した疑いで、武装した男が逮捕。6月にも連邦最高裁のブレット・カバノー判事を自宅付近で殺害しようとした疑いで、武装した男が逮捕されている。つい先週もアリゾナ州知事選の民主党候補ケイティ・ホッブス(Katie Hobbs)氏の選挙事務所に押し入ろうとした疑いで男が逮捕された。
こうした"過激派予備軍"は、自分たちの怒りを爆発させるのにもはや大きな集団の安全性を必要としていないと、ワード氏は指摘する。
「彼らは環境の安全性を確保しているのです」と同氏は話している。
ワード氏によると、連邦政府が迅速かつ徹底的な対策を講じない限り、こうした文化的変革は改善されそうにない。
「政府は他の誰もが見ているものを認めようとしません。陰謀、偏見、暴力の促進によって煽られたアメリカの民主主義に対する戦争が起きているのです」とワード氏は語った。
(翻訳、編集:山口佳美)