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ある最新の研究で、女性は男性と比べて中年期以降になると職場で「良い人」だと思われることが少なくなることが分かった。
「Journal of Organizational Behavior and Human Decision Processes」で発表された論文によると、キャリアを持つ男性も女性も年齢とともに能力やスキルが高まると考えられているが、女性だけが年齢とともに「温かさがなくなっていく」と思われているという。
今回の研究では、キャリア女性が男性と比較してどのように見られているか、そしてそれが年齢とともにどのように変化するかを検証している。この実験のため、1600人のアメリカ在住の参加者を募り、3つの調査が行われた。
「女性の場合、型にはめられて差別されることが中年期に最も多くなります」と、今回の論文の共著者の一人である、カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス(Haas School of Business)のジェニファー・チャットマン(Jennifer Chatman)教授は述べる。
チャットマンは、フォーチュン500に入るような企業で取締役などの重要なポストに女性が「まだまだ足りない」理由は、この調査で説明がつくのではないかと語る。
「調査の結果、中年期は女性にとって特に不安定な時期だということが分かっています。その時期の女性はステレオタイプな女性像から外れていると見られることが多く、それが結果的に低い業績評価につながりやすくなります。キャリアの中盤は組織の中でトップの座にふさわしい人材となるべく育てられる時期ですから、このことは非常に重要です」とチャットマンは言う。
「型にはまった偏見によって女性の仕事ぶりが低く評価されるようなことがあれば、女性が組織の幹部職に就くための教育を受けたり、実際にCEOのような地位に就くという可能性は低くなるでしょう」
女性は男性よりも絶対に優しいはずだという期待
今回の3つの調査のうちの1つでは、2020年から2021年にかけて、アメリカ在住の999人が、キャリア男性と女性について意見を述べるという実験に参加した。
参加者には、テック企業に勤務するプロダクトマネジャーという設定で、スティーブ・ウィルソン(Steve Wilson)、またはスー・ミラー(Sue Miller)のいずれかの名前で架空のプロフィールと画像が配布された。
半数の参加者には46歳のスティーブまたはスーのプロフィールが渡され、彼らが29歳の頃にどうだったかを想像するようにと指示された。残りの参加者には29歳のスティーブまたはスーのプロフィールが渡され、46歳になった彼らを想像するようにと指示された。実験参加者は、そのプロフィールの人物について「強引さ」や「優しさ」といった特性を評価した。
この調査で分かったのは、男女ともに成年期から中年期にかけて仕事の能力が上がると見なされている一方で、「温かさ」に関しては中年の女性と男性とで見られ方に大きな違いがあるという点だ。中年期の女性は、男性よりも「温かくない」と見られていたのだ。
チャットマンは、女性の方が「人々に受け入れてもらえる行動の幅が狭い」ため、年齢とともに自分に自信を持つようになり、堂々とした態度を取るようになると、「それだけであまり感じの良くない人物だとみなされてしまう」と言う。
「温かさというのは特に女性に顕著な属性だと見なされているため、女性は男性よりも絶対に優しいはずだという期待があります。そのため、本来あるべき『良い人像』から外れると不利になり、人々の反発を招くことになるのです」
こうした偏見は、男性が「狩猟」と「保護」の役割を担い、女性が「子育て」を担っていた「狩猟採集時代」にまでさかのぼるとチャットマンは言う。
「今では時代遅れとなった役割分担から生まれたこのようなステレオタイプは、的外れであるにもかかわらず、根強く残っています。
問題なのは、仕事がこうした男女に期待される役割と密接に結びついていることです。男性の場合、彼らに対するステレオタイプな期待と仕事で期待されていることの間にはギャップがありません。
ところが、女性が有能であることは女性に対するステレオタイプな期待に反するため、そもそも職場で女性に期待されることとは相容れない矛盾が生じます」(チャットマン)
チャットマンの今回の研究では、自己主張の強い女性は好感度が低く横柄だと見なされるという昔ながらの偏見が裏付けられる結果となった。
メタ(Meta)の元COOシェリル・サンドバーグは2013年の著書『Lean in—— 女性、仕事、リーダーへの意欲』の中で、2003年にコロンビア・ビジネススクールとニューヨーク大学で行われた実験を紹介している。
この実験では、ハイディという名前の、外向的で成功した女性起業家の履歴書を複製。複製された履歴書のうち、一部はハイディの名前のままで、残りの履歴書の名前はハワードという男性のものに書き替えられた。
こうして用意されたハイディの履歴書とハワードの履歴書をビジネススクールの学生たちに読んでもらったところ、学生らはハイディもハワードも同じように有能だと答えたが、ハワードのことは好ましい性格でチームプレーができる人物だと評したのに対し、ハイディのことは自己主張が激しく負けず嫌いな人物だと判断したという。
女性の活躍を阻む「男女に対する認識のずれ」
別の調査では、中年女性が「感じが良い」「温かい」とみなされないと、仕事の業績評価でも低い評価を受けるという結果が出ている。この調査では、2003年から2018年にかけて、アメリカのビジネススクールの教授126人の授業評価を、5万9600人のMBA学生のレビューを用いて追跡した。
中年の女性教授は、「思いやりがある」「優しい」「助けてくれる」などの項目で年齢の若い女性教授よりも低い評価を受け、年齢が上がるにつれて評価が低下した。それに対して男性教授の評価は、年齢が上がるにつれて上がる一方だった。
チャットマンは、今回の研究で得られた知見にもっと関心を持ってもらうことが、こうしたバイアスを解消するうえで役に立つと考えている。組織に対しては、女性が批判的なコメントをすると、男性が批判をした時よりも批判的だと見なされることがないように、男性と女性に対して同じ行動基準を設けて判断すべきだとアドバイスする。
業績評価からバイアスをなくすことは、職場における男女平等の実現に向けた一歩でもある。
「業績評価は非常に性別に左右されやすいものです。つまり、業績評価は男女別のステレオタイプを呼び起こし、その比較の中で女性は負けてしまうのです。
男性と女性を評価するにあたり、もっと中立的な条件を見出し、さらに公平な競争の場を作るべきだと思います」(チャットマン)
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・大門小百合)