マイクロ波化学が完成させた実証設備。
提供:マイクロ波化学
電子レンジで冷凍食品やお弁当を温めるように、あらゆる材料を温めることができたなら——。
化学産業の現場を、電子レンジと同じような手法で加熱する新しいプロセスでイノベーションしようとしている企業がある。大阪大学発ベンチャーのマイクロ波化学だ。
何かに熱を加えようとする場合には、例えばガスなどの燃料を燃やしたり、電気ストーブのように電熱線に電気を流したりすることで熱を発生させ、外部から熱を加えるのが一般的だ。
これに対して、マイクロ波化学では、電磁波(マイクロ波)を利用して物体内部の分子を激しく振動させることで、「電子レンジ」のように物体内部から加熱する。
11月1日、マイクロ波化学はこの技術を活用して、プラスチックリサイクルの一種である「ケミカルリサイクル」で欠かせない「熱分解」という工程を実現する国内初となる大型汎用実証設備を完成させたことを発表した。
ケミカルリサイクルを省エネで実現
小型実証機を用いてケミカルリサイクルした再生ポリスチレン (左:分解オイル/中:回収スチレンモノマー/右:再生ポリスチレン)
提供:マイクロ波化学
世界では「脱プラスチック」の動きが加速している。
プラスチックは、原料として「石油」を大量に消費し、焼却処分をする際には二酸化炭素が排出されてしまう。さらに、海洋マイクロプラスチックの原因になることなどから、使用量の削減や代替素材の使用、リサイクルが進められている。
ただ、プラスチックリサイクルの基礎知識2022によると、日本では廃棄されたプラスチックの6割が火力発電用の燃料として焼却処理されている現実がある(2020年段階)。これではプラスチックの大量消費社会から抜け出すことは難しい。
そこで注目されているのが、回収した廃棄プラスチックを原料に近い段階にまで化学的に分解して再利用する「ケミカルリサイクル」と呼ばれるリサイクルだ。
ただし、日本でケミカルリサイクルを実現できているのは、廃棄プラスチック全体の3%程度。
また、既存のケミカルリサイクル技術では、化石燃料などを消費して外部から加熱するプロセスが必要であり「エネルギー消費や二酸化炭素(CO2)排出、コスト、安全性に課題があるとされてきた」(マイクロ波化学)という。
マイクロ波化学は、ここにマイクロ波を用いた同社の加熱手法を適用することで、従来の熱分解プロセスと比較して大幅な省エネが実現可能だとして、技術開発を進めてきた。
大規模実証でリサイクルに革命を起こせるか
マイクロ波化学では、2021年9月に1時間に5キログラム程度の廃プラスチックを処理できる「小型実証設備」を完成させていた。今回、そのさらなる大型化、汎用化に取り組み、1日あたり約1トンの処理能力を有する設備を完成させた。
高温になった材料のマイクロ波の吸収を調べる装置。
提供:マイクロ波化学
マイクロ波化学は、高温になった材料がどの程度マイクロ波を吸収するのかを正確に把握する技術を開発。
同社の広報は「この技術を大規模設備に導入することで、設計制度が向上。分解したい材料とその温度に適したマイクロ波を照射することで、より効率よく加熱・分解することが可能になりました」とBusiness Insider Japanの取材に応じた。
2022年度内には、今回完成させた実証設備を本格稼働し、汎用樹脂を中心にれまでの検証スケールからさらに処理量を増やしてスケールアップ実証を進めていく計画だ。
その後、年間1万トンへとさらにスケールアップし、2025年までに化学メーカーなどと共同で社会実装を目指すとしている。
(文・三ツ村崇志)