Dimitrios Kambouris/Getty Images
※11月2日初出の記事ですが、ブルームバーグ(Bloomberg)の社内メールを通じて同社のスタンスを確認できたため、11月9日にアップデートしました。
ツイッター(Twitter)の買収を完了したイーロン・マスクが早くも経営改革に乗り出した。
自ら最高経営責任者(CEO)に就任、従業員総数約7000人のうち25%をリストラする計画を打ち出したのに加え、アカウントが本物であることを示す「青色の認証済みバッジ」を維持したいユーザーに課金する考えを明らかにした。
いずれもソーシャルメディアなどで物議を醸しているが、最後の認証済みユーザーへの課金はとりわけ報道機関やその関係者の間で議論のタネになっている。
報道機関は所属記者の認証済みバッジを維持するために、新たに設定される月額費用を負担するのだろうか?
Insiderが報道機関14社に問い合わせたところ、その多くからは現時点で明確な回答を得られなかった。
ニューヨーク・タイムズ(Newe York Times)とワシントン・ポスト(Washington Post)、ヴォックス・メディア(Vox Media)の3社はコメントを拒否。
NBC、アクシオス(Axios)、さらに当メディア運営元のInsiderなど8社からは返答がなかった。
CNNからのコメント
明確な回答を寄せた報道機関はCNN。課金は完全に「ノー」。
同社広報担当によれば、「CNNが全ての従業員の認証済みバッジ維持コストを負担する可能性は極めて低い」という。
ツイッターが本当に認証済みユーザーへの課金を導入した場合、テレビ局なら負担を考えるかもしれない。それでも、おそらく対象となるのはごく一部の従業員のアカウント、例えば人気番組の看板キャスターのように、ソーシャルメディアでの発信や反応が訴求力につながるケースに限定されてくるだろう。
ブルームバーグは編集長通達
ブルームバーグも「ノー」だ。
Insiderが入手したニュースルームのスタッフ向けメールによれば、ジョン・ミクレスウェイト編集長は以下のように通達している。
「現時点では個人アカウントの(認証済みバッジを含むサブスクリプションサービス)『ツイッター・ブルー』月額料金を必要経費に計上することはできません」
なお、ブルームバーグの社内メールの存在を最初に報じたのはメディアスタートアップのセマフォー(Semafor)のマックス・タニ記者。
スタートアップの対応
一方、あるスタートアップは月額料金を間違いなく負担するとの回答を寄せた。有料ニュースレターを運営するパック(Puck)だ。共同創業者兼編集長のジョン・ケリーは、認証済みバッジの維持費用をマーケティング予算の延長と位置づける。
「数千人規模の記者を擁する最大級の報道機関まで含めて、ほとんどのメディア企業にとって、費用負担は(ツイッターの有用性に比べれば)大した金額ではありません」
とは言え、広告収入の低迷と迫り来る景気後退という厳しい状況に直面する中で、メディア企業はレイオフ(一時解雇)を含めたコスト削減に取り組んでおり、認証済みバッジ維持のための月額負担は予算オーバーの可能性もある。
マスクは11月1日、「青いチェックマーク(認証済みバッジを指す)のある人、ない人に関する現在の領主と小作人みたいなシステムはでたらめだ」「人民に力を!月額8ドル(約1200円)で青いバッジを」とツイートした。
ツイートにある課金計画は、440億ドル(約6兆6000億円)という巨額買収の資金回収を目指してサブスク収入を積み増すための真剣な改革案なのか、それとも、マスクが常日頃から嫌悪感を隠さない大手メディアの記者たちを苛立たせるための手の込んだ煽(あお)りなのか。はたまたツイッターのエンジニア集団の能力を試したいだけなのか、真相はいまのところ不明だ。
メディアの記者や編集者たちは、セレブや有名企業、人気ブランドと同様、ツイッターのパワーユーザーの一角に数えられ、認証済みユーザーに占める割合も大きい。
一方で、ツイッター公認の「ブルーチェック」は一種のステータスシンボルにもなっていて、独りよがりのジャーナリストに対する蔑称としても使われる。
メディア企業にとって月額負担は「大した金額ではない」とするパックには、ハリウッド担当のマシュー・ベローニ、メディア担当のディラン・バイヤーズ、政治担当のジュリア・ヨッフェら著名ジャーナリスト12人が所属し、全員分の認証済みバッジ維持費用を支払うかどうかは「議論の余地もない」問題だと編集長のケリーは言い切る。
パックはいわゆる「クリエイターエコノミー」型のジャーナリズムを採用し、所属するジャーナリスト個人のブランド力・発信力を軸にニュースを発信している。各ジャーナリストはニュースレターを執筆してサブスク収入を得るとともに、パックの株式を保有する(のでその価値を増大させるインセンティブが働く)。
報道機関とツイッターの関係性
なお、認証済みバッジの月額費用負担をめぐる今回の議論は、企業に所属する記者は自らのSNSアカウントで何をどんなスタンスで投稿すべきか、あるいは、編集部や報道局の管理職は所属記者たちの投稿に対してどんなコントロールを利かせるべきなのか、長年解決されずに議論されてきた問題にも関わる。
多くの報道機関は近年、所属記者たちにツイッターの積極活用を推奨してきたが、その浸透に伴って過剰な論争が起きたり、相次ぐ個人攻撃により深刻な精神的ダメージを受けたり、問題が多発している。
ニューヨーク・タイムズのように、記者に対してツイッターに費やす時間の削減を推奨する方針に舵を切る報道機関も出てきた。
認証済みバッジの維持費用を企業側が負担するのか、負担しないのか、その判断はツイッターと報道機関の距離感に関して何らかの示唆を与えることにもなるだろう。
(翻訳・編集・情報補足:川村力)