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アメリカでは、新型コロナウイルスの波が押し寄せるたびに、企業は従業員の職場復帰の時期を先延ばしにしてきた。同時に、従業員は「大退職時代(Great Resignation)」の売り手市場で有利になった立場を活かし、企業に対してより柔軟な働き方を求めるようになった。
しかし流れは変わりつつあるのかもしれない。アップルは2022年6月、社員に週3日の出社を義務付け、これに抗議する1000人以上の社員が署名活動を行った。10月にはバンク・オブ・アメリカが、「オフィス内で業務を行う必要がある」従業員は毎月限られた日数しかリモート勤務を許可しないと通告したとロイター通信が報じた。
景気の悪化により労働市場が冷え込むにつれ、企業が働き手を職場に呼び戻す力が強まる可能性もある。もし今後もテレワークの継続を希望するなら、上司にどのように伝えるかを今から考えておくのもいいだろう。
ビジネスパーソン向けのコーチングプラットフォームを提供するベターアップ(BetterUp)で臨床試験設計を担当するサラ・グリーンバーグは、顧客とともにフレキシブルな勤務スケジュールを立て、上司を説得するためのサポートを行っている。
ただ、説得に際して顧客には、「管理職は誰かを支援したい、誰かの成功を応援したいと思うから管理職をやっている」のだと念を押している。つまり、上司は部下が優秀な人材であってほしいと願っており、部下が成果を上げれば上司自身の印象もアップする。そこにうまく働きかけるよう説得しよう、ということだ。
そこで本稿では、グリーンバーグをはじめとするキャリアの専門家や心理学者に加え、ドロップボックス(Dropbox)の元幹部など企業の幹部に、どうすれば上司にテレワークを認めてもらえるのか、その説得方法について聞いた。
説得力ある根拠を考える
あなたがテレワークで働くと、会社にとってどんなメリットがあるのだろうか?
上司にテレワークに賛成してもらうことは、ビジネス上の提案に賛成してもらうことと何ら変わりはない。結局は説得力が欠かせないし、リモートワークを許容しても問題ないという根拠を示すことが大切だ。
テレワーク限定の求人サイト、フレックスジョブズ(FlexJobs)の元キャリアサービスマネジャー、ブリー・ワイラー・レイノルズは、テレワークは従業員と雇用者の双方にとってメリットのあるものだと語る。
「テレワークのほうが集中力は高まるので、生産性や効率が上がることはよくあります」
他にも、子どもを学校に迎えに行ったり、ヨガのレッスンに参加したりできる柔軟性があれば、社員のストレスも軽減される。人は楽しめるものに取り組むほうが成果が出る傾向があるため、会社側にもメリットがある。
また勤務形態にある程度の自由度を与えると、その裁量性がモチベーションにつながると指摘する専門家もいる。通勤する社員が少なくなれば、オフィスチェアやコーヒー、スナックの提供といった経費も節約できる。
実績が良くなったという証拠を示す
ドロップボックスの元幹部、エイドリアン・ゴームリーは、テレワークを始めてから業績が良くなったという証拠を提示すべきだと述べる。
何年間もテレワークでチームを率いてきたゴームリーは、その実績が今後も維持でき、同僚とうまく仕事を続けていけるプランを用意しておくのもいいという。上司との相談に向けて、できるだけの準備をしておくに越したことはない。
テレワークで上司の信頼を勝ち取る
管理職は部下をコントロール下に置くことを好む。マインドジム(Mind Gym)のCEOであるオクタビウス・ブラックは、もし上司が長期のテレワークを渋っているなら、という仮定で次のようにアドバイスする。
「その疑念を解くべく、テレワークをしていても、上司の役に立ち、ビジネス上の課題を解決し、上司の考えを深めるような気の利いた質問を投げかけることが大切です」
上司と積極的に信頼関係を築き、たとえ意見が対立しているように思えても、決して敵ではないことを自覚するべきだ、とブラックは述べる。そのためには努力を惜しまず、相手の立場に立って考えることが必要だという。
「テレワークをしていてもチームに貢献できていると示せれば、上司も職場にいないことを徐々に気にしなくなるものです」
組織の価値観とテレワークの適合性を説明する
リモートワークの希望を伝える際、会社の理念や価値観、方針の概要に用いられている言葉を引用するとさらに説得力が増す、と前出のグリーンバーグは語る。
例えばネットフリックス(Netflix)のように「自由と責任」を重んじる企業なら、上司には「見張られていなくても、私には仕事をやり遂げる責任感があります。そもそも、そうした人格があるからこそ入社できたのだと自負しています」と説明するのがいいだろう。
テレワークを「実験」として売り込む
上司には、たとえリモートワークを続けても必要に応じて仕事環境を見直す意欲があることを伝えよう。期間を限定し、結果が出れば続けさせてほしいと伝えるのもいいだろう。
ウォートン・スクールの組織心理学者で、『Parents Who Lead』(未訳:リードする親たち)の著者であるスチュワート・フリードマンは、テレワークを「実験」として提案することを勧めている。
そうするメリットは2つある。まず、無期限でなければ上司も安心して認めてくれる可能性が高い。2つ目に、「実験」と捉えることで、その期間は皆が良い結果を出そうと団結することができるとフリードマンは言う。
また、提案をする上では視野を広く持ち、上司に率直に「どうすればうまくいくと思いますか?」と聞いてみること。そして自分、上司、同僚など関係者全員にとって都合がいいかどうかを再確認すること、とフリードマンはアドバイスする。
健康上のリスクを抱える人と同居している場合
ビヘイビアル・ヘルス・コンサルティングサービス(Behavioral Health Consulting Services)の創業者であるアシャ・テリーは、健康上のリスクがある人と暮らしているなら、上司に相談する前に人事担当者に連絡することを勧めている。
あなたが出社すればその人がコロナウイルスの危険にさらされる、となればテレワークに賛成してもらえる可能性が高い。自分の生活状況を明確に説明し、求められたら証拠を提出できるように準備しておくことが肝心だ。
これについては、会社側から職場への復帰を求められるまで説得を待つのではなく、今すぐ人事に掛け合うったほうがいい。
上司も人間であることを忘れない
多くの従業員が忘れているようだが「上司も人間だ」とテリーは言う。上司にだって感染リスクはあるし、ひょっとすると本人も出社することに不安を感じているかもしれない。上司に相談する際には、これを心に留めてアプローチするのがいいだろう。
「上司の人柄やリーダーシップスタイルに関して、あまり決めつけないことです。そこを探っていくことで、上司も部下ももっと広い視野に立って付き合えるのではないでしょうか」
[原文:Here are the best ways to convince your boss to let you work from home forever]
(編集:野田翔)