リスキリングって必要ですか? 専門家に聞いた20代・30代が「始めるべき」こと

後藤宗明さん

一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さん(写真左)。

撮影:小林優多郎

2022年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補30語にもノミネートされ、耳にすることが多くなってきた「リスキリング」。

政府が、5年間で1兆円をかけてリスキリングを含めた「人への支援」を進めると表明して注目されていますが、「そもそもリスキリングって何?」という声もよく聞きます。

そこで今回は、自身も40歳を超えてからリスキリングを始め、その後、日本初のリスキリング啓蒙組織を立ち上げた後藤宗明さんに「リスキリングとは何か?」そして「本当に必要なのか?」を聞きました。 


10月26日に配信した内容は、YouTubeで視聴可能です。

撮影:Business Insider Japan

──リスキリングとは何か、教えてください。

後藤:会社組織の中で、なくなっていく仕事から「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」「グリーン・トランスフォーメーション(GX)」といった新しい仕事に従業員の労働移動を行う手段です。

※グリーン・トランスフォーメーションとは……化石燃料ではなく再生可能なクリーンエネルギーへの転換を目指し、産業構造の変革を目指すこと。

リスキリングとは?

リスキリングとは?

出典:ジャパン・リスキリング・イニシアチブ

──「リカレント教育」との違いは何ですか?

後藤:リカレント教育は、個人の関心が原点で、趣味などで自由に好きなことを学び直します。必ずしも職業に直結する必要はありません。

一方で、リスキリングは労働移動の手段として会社組織が責任を持つ「業務」と捉えられます。

リカレント教育とリスキリングの違い

リカレント教育とリスキリングの違い。

出典:ジャパン・リスキリング・イニシアチブ

──リスキリングはDXなどデジタルスキルを指すことが一般的なのでしょうか。

後藤:そうですね。本来であれば「リスキリング」はスキルを再習得させるという意味で、どのようなスキルでもいいのです。

しかし、現在はデジタル化が進み、新しく生まれる仕事がデジタルの分野であることが多いです。

欧米のメディアでもリスキリングというと、一般的にデジタルスキルを指すことが多いですね。

──アメリカではリスキリングが先行して進んでいますね。

後藤:アメリカでリスキリングが注目され始めたのは2016〜2017年頃です。

当時、AIやデジタルが大事である一方で、デジタル分野の人材が少ないことが議論されました。そこで、人材を育てるためにもリスキリングが必要という結論に至っています。

この議論は日本でも近年始まりましたが、アメリカでは日本よりも前から議論していたということです。

また、新型コロナウィルス感染拡大時に諸外国ではリスキリングの費用支援をしていました。これも先行した理由の1つと考えられます。

リスキリングで接客業の従業員をデジタル人材に

──アメリカでの先進事例を教えてください。

後藤:1つ目は、アメリカの「リーバイス」です。新型コロナウィルスの感染拡大によるロックダウンで、店舗型ビジネスのリーバイスも大打撃を受けました。

そこで経営陣が店舗の従業員を対象に、デジタルマーケティングやデータサイエンティストになるためのリスキリングをした事例があります。

リーバリスの店舗。

リーバリスでは社員らのリスキリングで成果を上げたという。

shutterstock

──店舗でジーンズを売っていた方を、デジタル人材に育てたということですね。

後藤:はい。リスキリングを進め、商品をオンラインDTC(Direct to Consumer、直販)で行ったところ爆発的にヒットし、リーバイスはデジタル化に成功しつつあります。

──日本での先進事例はありますか?

後藤:三井住友銀行グループがRPA(Robotic Process Automation、作業の自動化)専門子会社を設立し、RPA導入のためのリスキリングを成功させました。

──今後、このような成功事例が増えていくと考えますか?

後藤:リスキリングに取り組む企業は増えてきたと思います。

しかし、リスキリングの本来の定義である、なくなっていく仕事から、新しい仕事に労働移動するところまで結果が出ている企業はまだ少ないです。今始まったばかりというフェーズだと考えます。

──日本は終身雇用の考えがまだ根強いです。これがリスキリングの推進を妨げていますか。

後藤:その見方もあります。ですが、リスキリングが労働移動を目的としている以上「終身」「ジョブ型」といった雇用形態は関係ないと考えています。

ポイントは、新しいことを学んだ方に昇給や昇格で報いるかたちでリスキリングを推奨したかどうかだと思います。

リスキリングの結果、従業員にとって良いことが起こるなど制度化されていれば、自発的にキャリアアップや給与を上げる努力をすると思います。

──昇給など含めてリスキリングを制度に組み込んでいくためには、まず何が必要なスキルなのか、会社側が設計することも求められそうですね。

後藤:そうですね。会社内でも部署ごとにリスキリングをする方向性も異なり、それぞれで策定していく必要があります。

例えば、法務、人事、広報とそれぞれの部署で学ぶべきスキルは異なると思います。

そのため、部署ごとにリスキリングの方向性を策定した上で、従業員にも説明しリスキリングを進めていくことが重要です。

このようにリスキリングをしないと具体性がありません。何となくAIについて学べと言われても、従業員は興味関心もなく、身に付かないですよね。

──従業員も納得しないですね。

後藤:はい。実際にデジタルを学んだものの、現在の仕事で活かす場がない、新しく配属が変わるわけでもないということが、一部の日本企業でも起きています。

20、30代からのスキルの習慣付けが重要

後藤さん

これから必要になるスキルを語る後藤さん。

撮影:小林優多郎

──リスキリングについて、20、30代に必要なスキルは何になると思いますか?

後藤:20、30代のうちから、新しいスキルをどんどん取得し、習慣付けることが重要だと思います。

20代、30代は、いま与えられている仕事の中で、常日頃からスキルの習得をしていると思います。

ところが、ある一定のスキルが身に付いても、時代や外部環境が変化すると、そのスキルが使えなくなり、リスキリングが必要になるステージが出てきます。

だからこそ、今のうちから習慣付けを意識して(リスキリングの方法を)習得するとよいと思います。

──20、30代の行動の第一歩としては、何から始めたらよいですか。

後藤:自分自身を現状評価することだと思います。

「何をやりたいか、やりたくないか」「どのような社会的課題を解決すべきか」「組織の中でどのような評価をもらっているのか」「どういう状態にあるのか」などを明らかにすることです。

特にオススメは、自分の長所を生かした上で、それに掛け算でデジタルスキルを身に付けることです。こういった行動が将来の道を拓いていく、リスキリングをした上でのキャリアになると思います。

──デジタルに馴染みのない層がリスキリングに取り組む場合は、何から始めるとよいでしょうか。

後藤:生活のデジタル化など、まずは身近なところから始めて、慣れていくことがオススメです。どのようなテクノロジーが使われているかに触れるチャンスになります。

音声スピーカーや掃除機といった家電にも、デジタルテクノロジーが使われています。スマートフォンやパソコンの検索を音声検索に変えるのもひとつの手段です。

──最後に、後藤さんが9月に発売された自著『リスキリング』の紹介と読者にメッセージをお願いします。

自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング

後藤さんの自著「自分のスキルをアップデートし続ける リスキリング」。

撮影:小林優多郎

後藤:この本では、私がリスキリングの海外調査をしてきた研究結果と、自分自身がこの10年間リスキリングをしてきたメソッドやノウハウを書いています。

所属している組織でリスキリングの環境がない方は、リスキリング導入の提案をしていただきたいと思っています。

しかし、そういった提案はボトムアップ式で難しい場合もあると思います。

あるいは、この本は組織に所属をしながら何ができるのかという視点で書いているため、転職を前提としたものではありません。転職を考えている方でも、リスキリングを進める上でお役に立てる情報はあると思います。

読んでいただき、リスキリングを行い会社に残ったほうがいいのか、転職したほうがいいのかという選択を持てるように、フリーエージェント宣言ができるように活用いただければと思います。

(聞き手・横山耕太郎、構成・紅野一鶴

※編集部より…画像の一部を差し替えました(2022年11月7日18:55)。


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