「AI問診」について語る共同代表取締役 医師の阿部吉倫さん(写真左)。
撮影:渡慶次法子
新型コロナウイルスの流行を機に、あらゆる業界で進んだDX(デジタル・トランスフォーメーション)。その流れは、医療業界にも訪れています。
医療ベンチャーのユビー(Ubie)は、10月にシリーズCで60億を調達し累計調達金額が100億円を超えた注目のベンチャーです。共同代表取締役 医師の阿部吉倫さんに、ユビーが展開する「AI問診」とは何か。医療業界が抱える課題や、世界から注目される理由について聞きました。
当日の様子は、YouTubeでご視聴いただけます。
撮影:Business Insider Japan
──ユビーが展開するサービスについて教えてください。
阿部:医療機関や一般の生活者に対して、「AI医療問診サービス」を提供しています。
診療室で医者が患者に聞き取るような問診の情報を、事前に患者がスマホやタブレットで入力できます。
医者は患者が来院される前に症状の情報を確認でき、診療支援や業務効率化のお役に立てるサービスです。
「AI問診」について。
出典:ユビー
──「症状検索エンジン」というサービスもあるようですね。
阿部:AI問診を病院で運用する中で、アルゴリズムも徐々にブラッシュアップされています。症状検索エンジンは、このアルゴリズムを搭載した検索エンジンです。一般の生活者へ提供しています。
2020年から始まった新型コロナウィルス感染拡大で、受診のハードルが上がっていた最中、第一波の際にリリースしました。現在では、月間で700万人以上の方に使っていただいています。
「症状検索エンジン」について。
出典:ユビー
──「AI問診」は、病院の受付で予め記入する「問診表」のようなイメージでしょうか?
阿部:はい。それを非常に高度化したものだと考えていただければと思います。我々のサービスだと、来院前、(医療機関に)事前に問診情報を伝えておくことができるので、コロナ禍では発熱などの症状がある患者の来院情報を事前に把握することなどができました。感染制御にもお役立ていただけました。
──医療のDXと聞くと「オンライン診療」を思い浮かべますが、オンライン診療とは異なるものということですよね。
阿部:そうですね。オンライン診療は「Zoom」のように遠隔で診療しますが、AI問診はオンライン、オフラインに関わらず、診療における業務効率化のためのツールという立ち位置です。
──効率化ツールなんですね。具体的にどれくらい効率化が課題だとされていたのでしょうか?
阿部:AI問診を導入することで患者1人に対して6分強の時間削減ができます。
外来は毎日行われるため、朝から夕方まで外来があるとして、1日に10%程の時間削減をする効果があると思います。また、問診に関わる事務作業の時間削減をすることができれば、その分、例えば手術や検査など、より付加価値の高い行為に時間を割くことができるはずです。
AI問診の導入で業務効率化や病気の早期発見に貢献
起業の経緯を語る阿部さん。
画像:番組よりキャプチャ
──阿部さんは、医師と起業家の二足のわらじを履いていますが、なぜ起業しようと考えたのですか。
阿部:自分自身も起業するとは夢にも思っておらず、最初は研究医を目指していました。
ただ、医学部に在学していた頃に、ユビー共同代表の久保と自動問診アルゴリズムについて研究していたんです。
当時は第三次AIブームで、自動問診が技術的に可能なのか、学術的にも面白くて、研究を始めたんです。
──最初はあくまで研究の一環だったのですね。
阿部:はい。その後、研修医として病院で働くようになりました。そこで当時、医療の課題だと感じたことが2つあります。
1つは院内の事務作業をはじめ、患者さんに対して(医師としての)直接的な価値を提供していない部分に割かれるリソースが想像より多かった。そしてもう1つは、患者と医療従事者の間にある情報の非対称性によって、適切なタイミングで医療機関に来ていただけない状態が起きているということです。
──情報の非対称性とはどういうことでしょうか?
阿部:そもそも私たち医者は、病院に患者さんが来なければ診療できません。
例えば以前、腰が痛いと外来に来られた方がいたのですが、話を聞くと吐き気や体重の減少があり、2年前から血便もあったことから、大腸がんの骨転移であることが分かりました。がんのステージIVの状態です。
早い段階で受診していただけていれば、ステージIの状態で治療をして、5年後の生存率も95%でした。
実際に問診を行ったステージIV時点では、5年生存率が20%を下回ります。
──この2つの課題が、今のユビーのサービスとどうつながっているのでしょうか?
阿部:まずは医療機関向けにサービスを提供していくことで、現場の業務効率化することから始めました。
創業時の自動問診アルゴリズムはまだ素晴らしいといえるクオリティーではありませんでした。そこで、実際に運用する中でアルゴリズムの学習を図っていきました。
その後、ある程度のクオリティーを持つようになったのが創業から3年ほどたった頃です。
そのタイミングで新型コロナウィルス感染拡大が重なり、一般の生活者向けに検索エンジンをリリースしました。
──AI問診を導入することで、医療の業務効率化が進み、検索エンジンを使うことで一般の生活者も今すぐ病院に行ったほうがいいかなどの判断材料を手軽に得られる。これで2つの課題を解決に導ける、と。
阿部:そのとおりです。
──実際に手応えはありましたか?
阿部:患者が事前に問診の情報を送ることで、医療機関側で緊急手術の可能性を察知できた事例があります。その患者の対応の優先度を上げておいたことで、その日中の緊急手術の受付に間に合いました。
グローバルのスタンダードになり得るAI問診エンジン
撮影:渡慶次法子
──ユビーは2022年10月にシリーズCで約60億円を調達し、累計調達金額は100億円を超えました。なぜここまで大きく注目されたのでしょうか?
阿部:現場で学習を積んだAI問診エンジンの存在と、それによって課題が解決できると評価をいただいたこと、そして、医療業界という市場の大きさがあったと思います。
──国外でもこの課題は共通なのでしょうか。
阿部:日本だけではなく、アメリカやインド、アフリカなど他の国でもうまくいっていないと思います。
医療の目的は健康寿命の最大化であって、そのために早期発見と治療が重要です。その上で、日本の平均寿命は世界的に見ても高く、女性は85歳にも達しています。アメリカは医療コストが高く、インドの平均寿命は60代です。
このことから、この課題においては日本は(完全にうまくいっているわけではないながらも)圧倒的に先進的なんです。そこで育んだエンジンはグローバルのスタンダードになり得ると思います。
──「AI」というとデータ量を多く持っている国にどうしても負けてしまうイメージがあります。日本のこの分野の医療データの先進性によって、そこはカバーできるのでしょうか?
阿部:はい。医療は本質的に不確実性が高いもののため、データの質が決定的に重要です。
日本はOECD諸国と比較して患者の受診率が高く、質の高いデータが集まるという点も強みになっています。
──今後、サービスの海外展開は考えていますか?
阿部:10月にアメリカ法人を設立しました。今後、大々的にアメリカへ展開していきます。
AI問診を提供する企業はアメリカにも数社存在しますが、彼らのユーザーボリュームは100万人ほどです。
ユビーは700万人のため、今のタイミングであればアメリカ市場も独占していく可能性があると思っています。
──アメリカ以外は考えていますか?
阿部:インド、アフリカも考えていきたいです。医療に困り、平均寿命も短い国だからこそ、平均寿命を10〜15年伸ばすこともあり得ると思います。
──最後に、読者へ一言お願いします。
阿部:このようなかたちでお話しさせていただくことは初めてで、非常に楽しかったです。
国内では今もパートナーを募集中です。読んでいただいた皆さんの中で関心を持っていただけたら、ぜひご連絡ください。
「BEYOND」とは
毎週水曜日19時から配信予定。ビジネス、テクノロジー、SDGs、働き方……それぞれのテーマで、既成概念にとらわれず新しい未来を作ろうとチャレンジする人にBusiness Insider Japanの記者/編集者がインタビュー。記者との対話を通して、チャレンジの原点、現在の取り組みやつくりたい未来を深堀りします。
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