ストライプの共同創業者であるパトリック・コリソン(左)とジョン・コリソン(右)。
Stripe
- 決済ソフトウェア企業のストライプは、従業員の14%をレイオフする。
- 創業者が従業員へ宛てたメモには、他のテック企業も直面している経済的逆風が浮き彫りにされていた。
- メタからショッピファイまで、テック企業は不確かな未来をさまよっている。
シリコンバレーの中でも突出した評価を得ているスタートアップの1つである金融サービス・ソフトウェアの大手、ストライプ(Stripe)は2022年11月3日、従業員の14%をレイオフすると発表した。
創業者のパトリック・コリソン(Patrick Collison)とジョン・コリソン(John Collison)は従業員に宛てたメモの中で、レイオフにつながった同社の「非常に重大な過ち」を詳細に説明し、すべての責任を負うとした。その過ちとは、成長を楽観視しすぎたこと、急成長に伴うコスト抑制に失敗したことなどだ。
創業者が公開メモで戦略的な失敗を率直に述べたのは珍しいことだが、失敗の内容そのものはそうではない。ストライプが犯した過ちは、他の多くのテック企業と同じものだ。
以下に述べるのは、ストライプが過去数年間に犯したという過ちで、多くの同業他社も同じことをしている。
パンデミック時の過剰採用
「我々は今の(新型コロナのパンデミックが発生した)世界で過剰に雇用してしまった」と創業者は記している。その結果、従業員の約14%にあたる1000人をレイオフし、2022年2月の時点の7000人にまで人員を削減することになった。
このような過ちを犯したテック系の幹部は彼らだけではない。
eコマース企業のショッピファイ(Shopify)は、パンデミック時のオンラインショッピングの成長を受けて2020年に人員拡張を開始したが、2022年7月には従業員の10%をレイオフした。クラーナ(Klarna)、ペロトン(Peleton)、カーバナ(Carvana)が行ったレイオフも、同様に過剰雇用、特に、意味のない職務での採用が原因だとされている。
レイオフの状況を発信するサイト「Layoffs.fyi」によると、上場企業および個人から資金提供を受けたスタートアップで2022年にレイオフされた技術者は10万人近くに上ると推定されている。
コスト抑制に失敗
「我々は事業費を急速に拡大しすぎた。新しい製品分野の一部で見られた成功に後押しされる形で調整コストを増やし、運営の非効率性を行き渡らせてしまった」と創業者は記している。
グロッシアー(Glossier)やサブスタック(Substack)といった企業の決済処理を行うストライプは、2021年に融資、国際決済、不正監視といった分野に積極的に進出していった。そして創業者自身が認めているように、そのような拡大期にコストを厳しく管理することに失敗した。
かつてストライプのような非上場のスタートアップは何よりも成長を示す必要があったが、今や投資家は健全な利益率を維持しながら成長できる企業を求めている。そのため、テック系企業は突然、コスト管理に目覚めることになった。
大手ハイテク企業ではムーンショットプロジェクトが中止され、メタ(Meta)は10%の支出削減計画を発表し、充実した福利厚生で有名なグーグル(Google)でさえ、出張をはじめ無料の食事やアルコールの提供などを制限し始めた。
経済不況を考慮せず、成長を楽観視
ストライプは2020年と2021年に黒字だったものの、その後「激しいインフレ、エネルギー不足、金利上昇、経費縮小、スタートアップへの資金提供の減少に直面している」と創業者は記している。
ストライプは金融決済を行うが「予算が圧迫された場合に顧客が停止できるような裁量的なサービスではない」と創業者は主張している。しかし、個人消費の低迷期にストライプは打撃を受けやすい。処理する取引ごとに手数料を徴収しているため、取引件数が減れば、収益も減るからだ。
消費者心理の悪化は、他の企業にも影響を及ぼしている。マイクロソフト(Microsoft)は、9月に売上高成長率が過去5年間で最低になったことを報告し、その理由の1つとしてコンピューター需要の減少を挙げた。
フェイスブック(Facebook)やインスタグラム(Instagram)を運営するメタは、2022年初めに採用を凍結し、1万1000人のレイオフを行った。
メタのマーク・ザッカーバーグCEOは9月、「今頃はもっと経済が安定しているだろうと期待していた」と従業員に語っている。
「しかし我々が見る限り、まだそうなってはいないので、ある程度慎重な計画にしていきたい」
ストリーミング大手のネットフリックス(Netflix)は、第1四半期、第2四半期ともに加入者数が減少した。2期連続で顧客が減少したのは同社史上初のこととなる。2022年に入り、同社は大規模なレイオフを実施した。
パンデミックによるeコマースブームは続くという思い込み
「2020年のパンデミックの始まりとともに、世界は一夜にしてeコマースへと向かった」とストライプの創業者はメモに記している。
「2020年と2021年には、それ以前よりも著しく高い成長率を目の当たりにした」
パンデミック時に個人消費が実店舗からオンラインに急速にシフトしたため、多くのテック企業はこのような消費者行動の変化が永遠に続くという賭けに出た。
しかし2022年になると消費者が実店舗に戻り、旅行やライブエンターテイメントに消費するようになったため、eコマースの成長率が鈍化した。
フィンテック企業にとって、新たな現実は厳しいものとなっている。ペイパル(Paypal)が第3四半期の業績報告で収益見通しを下方修正したところ、11月4日にはその株価が6%下落した。また、非上場のストライプの株価は、2022年に投資企業によって2度にわたって引き下げられた。
さらに、エッツィ(Etsy)やショッピファイといったeコマース企業の株価も、2022年初めに低調な決算を発表した後に下落した。ウェイフェア(Wayfair)は5月に「経済全体に大きな不確実性がある」と述べ、90日間雇用を凍結した。
アマゾン(Amazon)でさえ、第4四半期の悲観的な売上見通しを発表したのち、倉庫の建設にブレーキをかけざるを得なくなり、9月の株価は13%下落した。
ストライプの創業者は、他の多くのテック系企業と同様に「リセットし、再調整し、前進する」ことを約束してメモを締めくくった。その「再調整」が単なるコスト削減を超えてどのようになるのかということが、同社や他のテック企業が直面している未解決の問題だ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)