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- ロシアによるウクライナ侵攻は、終わりが見えない状況が続いている。
- 専門家はプーチン大統領が「深入りし過ぎている」ため、明確な成功なしにロシア軍が撤退することは考えづらいと話している。
- 考え得る今後の展開や、両者にとっての勝利がそれぞれどのような形になるのか、見ていこう。
ロシアによるウクライナ侵攻が始まってから約8カ月が過ぎたが、終わりはまだ見えない。これまでに数万人の兵士が命を落としたり、怪我を負うなどし、複数の都市が瓦礫と化し、数百万人が難民になった。ロシア軍が占領した地域では、ウクライナ人に対する拷問や残虐行為が行われた疑いもある。
東部や南部の一部を占領されながらも、ウクライナは周囲の予想以上に善戦し、ウクライナを数日で制圧できるだろうと考えていたプーチン大統領率いるロシア軍にしばしば屈辱を与えてきた。
また、ロシアの攻撃をかわすだけでなく、組織化された大胆な反撃を行うことで、ウクライナは東部や南部の領土を取り返している。
とはいえ、ロシアにはまだ使うことのできる破壊的な軍事力がある。ここ数週間は、ウクライナのエネルギーインフラをミサイルやドローンで攻撃している。
第二次世界大戦以来のヨーロッパ最大の戦争は消耗戦に入ったように見えるが、考え得る今後の展開を見ていこう。
停戦
戦略国際問題研究所(CSIS)国際安全保障プログラムのダイレクター、セス・ジョーンズ(Seth Jones)氏によると、戦争が膠着状態に陥れば何らかの交渉が行われ、ロシアとウクライナの一時的な停戦につながる可能性がある。
「ただ、それは恐らく終わりということではなく、少なくとも一時的に活発な戦争の状態が落ち着き、さまざまな要素によって激化したり、鎮静化したりする凍結された紛争に近いものになるだろう」とジョーンズ氏は話している。
ウクライナ軍。
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ジョーンズ氏は1990年代に起きた2度のチェチェン紛争をその例に挙げた。一度は1996年に停戦が成立したものの、3年後には再び紛争が勃発した。
このシナリオでは、ロシアはアメリカやその他の西側諸国がウクライナ侵攻やウクライナ支援への関心を失うことを期待できる。
「そうすると力関係は最終的にロシアに有利となり、2月に理想としていた形で領土を取り返すことができるだろう」とジョーンズ氏は話している。
和平協定
ロシアによるウクライナ侵攻は和平協定で終結する可能性もあるが、ロシアとウクライナでは目指すところも、自分たちの正当な領土に対する見方も異なることから、合意は難しい。
「プーチンは深入りし過ぎている。明確な成功なしにこの戦争から身を引くには、彼は今、政治的にも軍事的にもあまりに多くの資本を投入している」とジョーンズ氏は言う。
プーチン大統領が何を「成功」と受け取るかは不明だが、ドネツク、ルハンスク、ザポロジエ、へルソンの一部が手に入れば、それを自身が意図した目標と見なし、満足するかもしれないと、ジョーンズ氏は話している。
ただ、和平協定でウクライナが何を譲歩するかは難しい問題だ。ジョーンズ氏はウクライナの指導者にとって、自国の領土を手放すことは「政治的自殺」に近いと指摘している。
ロシアの勝利
ウクライナ侵攻を始めた時、ロシアの目標はウクライナという国を完全に支配することだった。
この目標をロシアが達成するのを防いだことで、ウクライナはすでに大きな勝利を収めたと認識することが重要だと、ジョーンズ氏は言う。
ロシアのショイグ国防相(2015年5月9日、モスクワ)。
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「少なくとも2022年2月までは、アメリカ、中国に次いでロシアが世界で3番目に強い軍隊を持つ国だったことはほぼ間違いない。そうした中でウクライナはすでに、首都を占領し、政府を転覆させ、自国に併合するか傀儡政権を樹立することを目的としたロシアの電撃戦を阻止した」
今となってはロシアが戦況を完全にひっくり返して、本来の目的を達成できるとは考えにくいが、侵攻開始前よりも領土を広げるという形で和平交渉の「勝利」を受け入れることは可能だろう。
ロシア軍が撤退、ウクライナの勝利
プーチン大統領がロシアの指導者である限り、ロシア軍が完全に撤退することは考えにくいとジョーンズ氏は言う。
「ロシアでは、戦争に負けた支配者には悪いことが起こる」と戦略国際問題研究所(CSIS)の上級顧問マーク・カンチアン(Mark Cancian)氏はInsiderに語っている。
ロシアのプーチン大統領(2022年8月31日、モスクワ)。
Gavriil Grigorov/AP
ただ、戦死者の増加、軍の部分動員令の発令、制裁による経済的ダメージで国内の不満が高まっても、プーチン大統領には一歩も引く気配が見られない。
クーデターによって政権が転覆させられる可能性はかつてないほど高まっているかもしれないが、プーチン大統領はロシアの情報機関の間の"不信"の文化を通じて、自身の政権を「クーデターに強い」ものにしてきたと専門家は指摘している。
とはいえ、プーチン大統領が失脚したり、死亡すれば、ロシア軍の完全撤退はあり得る。プーチン大統領をめぐっては以前から健康不安説もささやかれているが、アメリカの情報機関や軍の専門家らはそれが事実だと示す信憑性のある証拠はないと警鐘を鳴らしている。
ウクライナの人々は、圧倒的勝利は可能だと信じている。イギリスの週刊誌『スペクテイター』に在籍するウクライナ人ジャーナリストのスビトラーナ・モレネッツ(Svitlana Morenets)氏は、11月4日に『Is it time to make a peace in Ukraine』と題した討論会に出席し、ウクライナ側は何年も続く戦闘ではなく、ロシアの軍事的敗北を想定していると語った。「穀物回廊」をめぐるプーチン大統領の最近の"譲歩"はロシアの弱体化を示す1つの例だと、モレネッツ氏は指摘した。
戦争の長期化
全ての戦争がどちらか一方の明確な勝利によって終わるわけではない。ジョーンズ氏によると、停戦や合意なしに何年も戦いが続く可能性もあるという。
前進と後退を続けながら戦う特殊部隊、ロシア支配地域でのウクライナ側のゲリラ活動、ロシアやベラルーシからのウクライナに対する長距離爆撃などが考えられる。
現在、戦いは消耗戦の様相を呈している。さらなる領土を手に入れるよりも、ロシア軍の今の目標はウクライナの資源、経済、軍を弱体化させることのように見える。
破壊されたロシア軍の装甲兵員輸送車(2022年9月15日、ウクライナ)。
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ロシアは兵士や武器の面で大きな損失を出しているが、どちらが長く持ちこたえられるかは分からない。
カーネギー国際平和基金によると、10月に任命され、ウクライナでの軍事作戦を指揮するロシアのセルゲイ・スロビキン総司令官は、支配地域に強固な防衛線を築き、事実上戦争を凍結させて冬を越すつもりだという。
現時点でロシアはウクライナに対する新たな大規模攻勢をかけることはせず、時間をかけて戦闘能力を回復させるつもりだと、カーネギー国際平和基金は指摘している。
核戦争、NATOの介入
プーチン大統領はウクライナ侵攻を開始して以来、"核の脅し"を繰り返してきた。9月には「はったりではない」と主張した。
西側諸国や専門家らはこの脅威をどの程度深刻に受け止めるべきかで意見が分かれた。
ジョーンズ氏は核兵器の使用には大きなリスクが伴うとし、プーチン大統領がロシアの領土だと主張する地域で核兵器を使用した場合は特にリスクが大きくなると話している。また、その近さからロシア領にも放射性降下物のリスクがある。
軍事パレードに姿を見せたロシア軍の核ミサイル(2020年6月24日、モスクワ)。
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ロシア軍が大敗を喫した場合、プーチン大統領は戦場で核兵器を使用することもできるが、そのリスクの大きさはどんな利益をも上回るだろうとジョーンズ氏は話している。
「政治的にも外交的にも、さまざまなリスクから核はタブー視されている。それがプーチン政権にとってどのような意味を持つのか? アメリカはすでに、ロシアが核兵器を使用すれば何が起こるか分からないとかなり強力に伝えているとわたしは考えている」
このシナリオにNATO(北大西洋条約機構)が関与するかどうかは分からないと、ジョーンズ氏は言う。あるNATOの高官は以前、ロシアの核攻撃はNATOの「物理的反応」の引き金になる可能性があると語っていた。
ただ、NATOがロシアに宣戦布告すれば、中国といったその他の国々を巻き込んだ大規模な戦争になりかねず、それはNATOも避けたい結果だろうとジョーンズ氏は指摘する。
このシナリオを回避するため、NATOはまずは制裁を強化し、ウクライナへの武器支援を増やすことになるだろう。
(翻訳、編集:山口佳美)