翻訳サービス会社、トランスパーフェクトの共同設立者、リズ・エルティング。
NYU Stern
- リズ・エルティングは1992年にトランスパーフェクトを共同設立してから26年間、共同CEOとして同社を率いてきた。
- その間、倹約とリスクの最小化により、2度の不況を乗り切った。
- エルティングによる、不況に備えようとする起業家へのアドバイスを聞いてみよう。
リズ・エルティング(Liz Elting)は、グローバルな翻訳サービス会社、トランスパーフェクト(TransPerfect)を、26年にわたって共同CEOとして率いている。その間、アメリカではドットコムバブルの崩壊と2008年のグレートリセッションという2つの大きな不況があった。
だが、経済が不安定な中でも、彼女の会社は堅調な状態を維持してきた。「特に悪い影響を受けることはなかった」と彼女は言う。
エルティングは、ニューヨーク大学でMBAを取得した1992年にトランスパーフェクトを設立した。フォーブスの「アメリカで最も裕福なセルフメイドウーマン(自力で財を成した女性)」に選ばれており、2022年6月時点の純資産は3億7000万ドル(約540億円)と推定されている。2018年には、自社株を3億8500万ドルでトランスパーフェクトの共同設立者であるフィル・ショウ(Phil Shawe)に売却した。
専門家の間では、再び不況が到来するとの懸念が高まっている。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は11月2日、インフレ抑制に向けた4回目の利上げを行った。株価は下落しており、アメリカ人は貯蓄に手を付けるようになった。次の不況は1990年と1991年の不況に似たものになると推測するアナリストもいる。
エルティングはトランスパーフェクトのレジリエンス(回復力)は、彼女が「質素倹約のカルチャー」と呼ぶものに起因すると考えている。エルティングがリスクを最小限に抑えるために行っていることを、不況に備えようとする起業家に向けてのヒントとして、以下で紹介する。
クライアントを分散させリスクを軽減
トランスパーフェクトは、法律、製薬、通信、鉱業など、さまざまな業界のクライアントと取引する翻訳サービスとしてスタートした。つまり、1つの市場に依存することはなかった。
また、各クライアントが同社の売上に占める割合は2%以下だとエルティングは言う。そうすることでリスクを分散し、1つのクライアントが契約を解除したとしても、大きな損失にはならないのだ。
経済危機の中でも安定した収益を確保したいのであれば、このような方法を取るよう彼女は起業家にアドバイスする。
「1つのクライアントが売上の多くを占めないようにすることが重要だ。創業初期であれば、大口のクライアントが次のレベルへ導いてくれるが、同時に、少数のクライアントに依存しないようにすべき」
手元にない資金は使わない
トランスパーフェクトは、従業員数名のスタートアップから海外に拠点を持つグローバル企業へと拡大していったが、成長ステージに関わらず、主要な支出はすべて綿密に計画されてきたとエルティングは言う。
例えば、最初の2年間は従業員を採用せず、年間売上が50万ドルに達してから採用を始めた。
「他の会社よりも長く待った方だろう」と彼女は言う。
「創業したばかりの小さな会社で、クライアントも少なかったころは、手元にない資金は使わないようにしていた」
同社は、成長の指標となる財務目標を定めている。例えば、1人の従業員が新しい拠点での営業を始め、従業員をもう1人増やしたい場合は、毎月の売上目標を達成しなければならない。そして、その2人の従業員がさらに従業員を増やしたい場合は、それぞれが毎月の売上目標を達成しなければならないという具合だ。
エルティングは、起業家に対してこのような質素なアプローチを取ることを勧めている。
「ない資金は使わない。使うのであれば何に使うのかをよく考えることだ」
営業とマーケティングに利益を再投資
最後にエルティングは、規模を拡大しようとする起業家に対し、利益をまず営業とマーケティングに再投資することを提案している。これらの部門は、新たなクライアントを獲得し、最終的に収益を上げることができるからだ。
研究開発費も重要だが、それは二の次にすべきだという。
「簡単に使いすぎてしまうから」と彼女は言う。
「それが、企業が倒産する一番の理由だ。現金が足りなくなってしまうのだ」
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)