「景気後退」は誰が決める? どれだけ続く?…分かっているすべてのこと

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アメリカが景気後退に陥ったか否かを巡る議論が、政治家のあいだで白熱している。

Bartolome Ozonas/Getty

  • 景気後退とは、経済活動の大幅な鈍化を意味し、数カ月から数年続くこともある。
  • 専門家のほとんどは、景気後退はまだ始まっていないと主張するが、2023年以内に始まる可能性があると指摘している。
  • 感情的にも、金銭面でも、景気後退に備える方法がいくつか知られている。

近ごろ、アメリカ経済は景気後退に陥ったのかどうかという問いを巡り、激しい議論が繰り広げられていて、多くの人が混乱しているようだ。

今、確実にわかっているのは次の通りだ。国内総生産(GDP)は2022年の第1四半期には1.6%、第2四半期には0.6%減少した。2期連続でGDPが減少したことを受けて、専門家の一部は景気後退が始まったとみなしている。

その一方で、ほかの専門家は失業率の低さ、雇用の大幅な拡大、家計貯蓄の増加などといった指標を理由に、景気は後退していないと主張する。

11月の中間選挙に向けて、米国経済は後退しているのかどうかという議論は政治的にも熱を帯びてきた。連邦議会における支配権が懸かっている選挙だ。そんなときに経済が衰退すると与党にとっては大打撃になる。

景気後退とは何か?

基本的に、GDPがマイナスを記録する四半期が2期続くと景気後退とみなされる。ジュリアス・シスキン氏が1974年にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)で発表した記事が、この考え方を普及させた。

その記事の中でシスキン氏は、健全な経済は時間の経過とともに拡大するものだと主張し、2期連続で成長が停滞した場合は、何らかの問題が存在すると示唆した。

しかし多くの人は、シスキンの定義は、雇用、収入、売上を含む数多くの要素を無視しているため、あまりに単純だと指摘する。

そこで全米経済研究所(The National Bureau of Economic Research[NBER]:主要な経済問題を分析する民間非営利組織)はより広い定義を用いて、数カ月にわたり広範囲において経済活動が著しく減退した場合を景気後退とみなす、としている。

注意:景気後退と恐慌はまったくの別物で、厳密な定義は存在しないが、恐慌は景気後退よりも期間が長く、深刻な不況を指す。

今は景気後退期なのか?

用語の定義は定かではないとはいえ、「今は景気後退期なのか?」と問われたら、答えは「ノー」だろう。米国経済は後退期に入っていない。確かに、GDPは2期連続で縮小したが、全体的な状況から見て、景気後退の条件はまだ満たされていないという点で意見は広く一致している。

カーディナル・リタイアメント・プランニング(Cardinal Retirement Planning)社の最高投資責任者を務めるアネッサ・カストヴィック博士は、2023年に景気後退が始まる可能性があるが、始まったとしてもさほど深刻なものにはならないと予想する。

カストヴィック博士はこう語る。「今のところ、労働市場はとても好調なので、痛みをあまり感じることなく、景気後退を乗り越えられるのではないだろうか」

経済学者や経営者も、米国経済が景気後退の基準を満たしているとは考えていない。GDPが減少しているかたわらで、雇用や支出水準が比較的高い値を維持しているからだ。しかし、収入と支出がインフレ率に追いつけない状態が続いているため、絶対に景気後退ではないとも言いきれない。

注意:景気後退を予測する方法はまだ知られていない。ただし、経済学者が注目する警告サインはいくつか知られている。たとえば、10年国債の利回りが2年国債の利回りを下回った場合は、危険信号だ。これは逆イールド現象と呼ばれていて、投資家が経済に対する信頼を失っていることを示している。

2023年に景気が後退する?

景気後退はまだ始まっていないという認識が広がっているとはいえ、景気後退が目前に迫っているという懸念が高まっているのも事実である。最近のKPMG調査によると、米国企業CEOの91%が、今後12カ月以内に景気後退が始まると予想している。

大手投資銀行の首脳陣も警鐘を鳴らしている。

たとえば、JPモルガン(JP Morgan)のCEOであるジェイミー・ダイモン氏は、景気後退の可能性を声高に主張している。ダイモン氏は6月に、「深刻な景気後退」が起こる可能性は20%から30%、「さらにひどい事態」になる可能性を20%から30%と発表した。

ゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のCEOデイヴィッド・ソロモン氏も、同社の第3四半期の収支報告で同じような懸念を明らかにした。ソロモン氏は、金利上昇と地政学的な混乱がゴールドマン・サックスの業績に影を落としていると主張する。CNBCに対しては、アメリカは景気後退に陥る「可能性が高い」と述べた。

景気後退を宣言するのは誰?

全米経済研究所(NBER)に所属するビジネスサイクル委員会(Business Cycle Committee)が、景気後退か否かを決定する。

「ビジネスサイクル委員会が、ピークだとか谷間だとか、アメリカの景気サイクルのすべての動きにラベルを付ける」と、カストヴィック博士は説明する。「景気後退も、一連の指標を用いて特定する」

通常、マクロ経済に関するデータは収集から発表までにかなりの時間がかかるため、NBERが景気後退を宣言した場合、それに先だって数カ月前から景気後退が始まっていたと考えられる。

景気後退の期間は?

景気後退が続く期間は、その深刻さによって変わる。しかし、多くの人が考えるほど長く続くことはほとんどない。NBERの資料によると、1854年以降に発生した景気後退は平均で17カ月続いた。

カストヴィック博士が1945年から2020年までの最近の例を調べたところ、アメリカ経済の縮小期間は平均で10カ月強だった。「つまり、景気後退の期間は以前よりも短くなりつつあると言える」とカストヴィック博士は説明する。

注意:2020年2月、米国経済は絶頂期にあったが、その翌月にはコロナ禍により景気後退に陥った。このとき、NEBRは景気後退が2カ月続いたと結論づけた。これは史上最短で終わった景気後退である。

景気後退に備える方法

景気後退の影響は経済全体に広がり、低所得層が最も深刻な被害を受けるだろう。そのため、前もって備えておくことが重要だ。

金銭的に準備をすればいいという単純な話ではない。カストヴィック博士の考えでは、特に退職者や投資家が景気後退を恐れるため、感情的な心構えが重要になる。

「不安になった人は市場から現金のすべてを引き上げるなどといった感情的な決断を下しがちなのだが、そのような態度は間違いであることを、歴史が繰り返し証明している」と、カストヴィック博士は語る。

次の景気後退がどれぐらい深刻で、どれほど続くのかわからないので、最悪の事態に備えておくべきだろう。

カストヴィック博士は「つまり、失業して新しい仕事を見つける必要がある場合に備えて、少なくとも数カ月分の生活費を蓄えておいたほうがいい、ということだ」としたうえで、こう続けた。「加えて、経済がふたたび安定するまで、大きな出費を避けることを強く勧める」

同時に、カストヴィック博士は、パフォーマンスが弱い投資が大きな損失を引き起こすことがないように、それまでの投資のすべてを見直してアセットの多様さを適正に保つようにも勧めている。

「多様な投資を行い、経済が不安定な時期を乗り越えられるようにすべきだ」

[原文:Are We in a Recession: the Answer Isn't That Simple

(翻訳・長谷川圭/LIBER、編集・長田真)

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