アプリでカード番号などを確認するナンバーレス仕様のメルカード。
撮影:小山安博
メルカリが8日に発表したクレジットカード「メルカード」。
メルカリでの売上金で精算ができるクレジットカードとして、独自の位置づけとなるカードだ。メルカリで常時還元4%、毎月8日はプラス8%という還元率も注目だが、メルカリはメルカードでどんな戦略を描いているのか。
メルカリグループ日本事業責任者の青柳直樹氏、メルカリ執行役員・Fintech CEOの山本真人氏の2人が、メルカードのビジネスを語った。
メルカードのユニークさはAI与信にある
左から、メルカリ執行役員・Fintech CEOの山本真人氏、メルカリグループ日本事業責任者の青柳直樹氏。
撮影:小山安博
一般的にクレジットカードは、本人確認書類と住所や勤務先、年収などの属性情報を、信用情報機関からの情報を元に与信してカードを発行。毎月決まった日に、前月の利用分を銀行口座から引き落として精算する。
メルカリは今回、メルカードの発行に同社独自のAI与信を活用する。年齢や職業、収入などの属性情報は基本的に利用せず、メルカリでの売買やメルペイの利用履歴といった行動情報を元に与信すると山本氏は説明する。
こうした独自のAI与信は、メルペイの後払いサービスである「メルペイスマート払い」や「メルペイ定額払い」で提供してきた、実績のあるものだ。
出典:メルペイ
メルカリの視点に立てば、ベースにはAI与信による後払いがあって、その支払い手段としてメルペイのコード決済があり、iD決済がある。そして今回、新たに「物理カード」が追加されたという位置づけだ。
「後払いサービスとメルカードは、“支払い方法のチャネルの違い”と捉えている。与信、与信枠は統一されていて、メルペイの後払いのチャネルの1つ」と山本氏は説明。メルペイの後払いを店頭などのJCB加盟店で使えるようにするための物理カード、というわけだ。
メルペイ開始当初から「独自クレカの構想あった」
出典:メルペイ
山本氏によると、メルペイを始めた当初からクレジットカードの構想はあった。メルペイの強みは、メルカリの売上金や行動情報をもとにした与信のロジックだ。与信枠の出口としての支払い方法には
「色々な可能性があると当初から考えていた」(山本氏)。
クレジットカードの特徴である「国際ブランドの加盟店であれば世界の店舗、オンラインショップなどで同じように使える」という部分と、「与信枠の範囲内で後払いの決済する」という部分を切り分ければ、メルカリはAI与信によって「クレジットカードの半分ぐらいの武器は元々作っていたので、最終的な出口(支払い方法)の部分だけを今回提供した、というイメージ」(山本氏)だと話す。
もちろん、PayPayを始めとするコード決済各社もクレジットカードは展開している。
が、メルカリと大きく違うのは、他社はまず先にクレジットカードがあり、後からコード決済を提供しているという点だ。
そのため、「クレジットカードとコード決済で与信の仕組みも別だし、精算の仕方、銀行口座の設定も別々といったように、完全にバラバラになっている」と山本氏は指摘する。
メルカードの場合、「最初にアプリとコード決済があり、それと一体化したクレジットカードを出した」という点で、
「成り立ちも違い、クレジットカードと決済サービスの融合度合いも全く他社とは違う」(山本氏)。
メルカードが「メルカリ経済圏の拡大につながる」理由
メルペイの決済には今、2種類の決済方法がある。1つめは、メルカリの売上金を移行するか銀行口座からチャージすることで残高を保持して決済をする方法。2つめは後払いを設定して与信枠内で決済をする方法だ。
メルカリはユーザーがチャージする手間がなく、手数料収入も期待できる後払いの利用拡大を狙っており、メルカードを使う場合は後払いを利用することになるため、後払い利用が増加する。
この「後払い利用の拡大」というのが、メルカード参入を読み解くポイントの1つだ。
1つめの「銀行口座からのチャージ」には、手数料がメルカリ側にかかってくる。そのため、後払い利用が増えるだけでも、実はコスト的にメルカリ側のメリットがある。
山本氏は、「自然とメルカードによって(後払いを体験する人が増え)、後払い利用が増えていくのではないか」との考えだ。
ユーザーにとっては、毎回1000円2000円という少額を銀行口座からチャージするのは手間がかかり、しかも大きい金額をチャージするのは躊躇しがち。
メルカリ側として手数料コストがかかり、後払いへの移行を促進したい。そうした点でメルカードには一定の役割が期待されている。
ちなみに、メルペイのコード決済における加盟店開拓はメルペイ自身が担っている。専門的な話になるが、クレジットカードに関してはイシュイング(カード発行)のみをメルペイが担い、アクワイアリング(加盟店契約)は行わない。そのため、メルカード参入によるコスト増はないようだ。
ユーザーにとってもメリットはある。
チャージの手間がかからないだけでなく、少額の利用でも高額の利用でも、毎月まとめて精算が行われ、コード決済もiD決済もまとめられる。「ユーザーにとっては利便性が高まることになる」と山本氏は話す。
メルカリの売り上げでクレカを使う
メルカードを考える上で重要になるのが、「メルカリの売上金を充当できる」という点だ。例えば、売上金が大きい月は、実質的な精算をゼロにすることもできる。
「メルカリでの販売は臨時収入的なもの。その結果、欲しかったこれが買えるようになる、という喜びは結構大きいものだと思っている」と山本氏。
メルカードによって、今までのメルペイのiD決済では使えなかった「クレジットカードのみで買える商品」も買えるようになる。「売上金で買える気持ちよさを体験していただける人も増えると思う」(山本氏)。
メルカードは「攻め」の合図
メルカードの登場がこのタイミングになったのは、メルペイの立ち上げに伴う加盟店開拓や仕組みの構築、不正対策といった先行投資が重く、収益化に時間がかかったからだと青柳氏は説明する。
メルペイが軌道に乗ったことで、メルカードの常時還元を含めた事業が設計しやすくなったため、今回のサービス提供に至った。「欲を言えば、もっと早いタイミングでやっていければ良かった」と青柳氏は振り返る。
「どちらかといえばFinTech事業は手堅くやってきたが、ようやく守りのモードから、メルカリらしさを出していける、そういうところまで来ることができた」(青柳氏)。
とはいえ、メルカードのポイント還元率は、メルカリ利用では常時最大4%だが、ベースラインは1%で、利用頻度などによって還元率がアップする仕組みだ。
メルカリ以外だと、「常時1%還元」にとどまり、さほど高還元ではない。毎月8日はプラス8%還元だが300Pまでと、この点でも保守的な印象はある。
ただ、青柳氏は「以前までは還元率は0.5%程度が多く、インターネット企業の参入で1%へと上昇したが、常時1%還元であれば競争力はある」という判断だ。
最初に高還元にすると、期待値が上がってしまって還元率を下げたときにユーザーの離脱を招くなど反動が強くなる。
そのため、メルカードではメルカリの出品、購入、店頭での決済といった利用で「じわじわと還元が増えていく」(同)という仕組みにした。メルカリ利用が含まれるため、「メルカリ自身の収益モデルも毀損しない」(同)ことから、事業の継続性としても、ユーザーとの関係性としてもメリットが高いと判断したという。
「ただ、社内でも(還元率をどうするか)喧々諤々議論をして、決まった還元率ではなく、メルカリ利用などで還元率が上がるという特典にした。短期ではなく、中期でお客様にメリットを還元していきたい」と青柳氏。
還元やサービス促進のあり方には別のアイデアもある。
例えば、メルカードの還元率アップも、現在はメルカリで売る、買う、店で支払うという条件だが、これに「買い換える」「一定期間使った物を別の人に譲る」といった行動でもメリットを提供できるような設計も考えているという。
2023年「ビットコイン購入対応」が示す布石
出典:メルペイ
2023年にはメルコインのサービスが始まり、メルカリアプリ内でビットコインが購入できることも発表された。これは単に「暗号資産が購入できる」というだけなのか?
青柳氏に問うと、「事業プランというよりは将来ビジョンだが」と前置きした上で、「NFT以外にも適用できるような、権利の配分が行えるような物が出てくるといい」と話す。
例えば、二次流通で1つの服が3人の手に渡って着用された、ということがあったら、メルカリだけでなく制作者にも収益が戻っていく、というような世界を青柳氏は想定する。これをブロックチェーン技術で実現できるのではないか、という考え方が背景にある。メルコインはそうした技術開発の場にしたいというのが青柳氏の考えだ。
「色々なトークンを扱う経験、それを支える技術、ウォレットの管理、セキュリティなど、暗号資産取引所の参入障壁は正直高い」と青柳氏。それでも、こうした技術開発によって、メルカリでもアートやスニーカー、時計などのような真贋でトラブルになるような商材も、安心してユーザー同士で取引できるようになるのでは、という期待もあるそうだ。
「メルコインの最終的なイメージは、金融事業というよりもマーケットプレイスの拡張というイメージが強い」と青柳氏は話した。
(文・小山安博)