アメリカのジョン・ケリー気候問題担当大統領特使。エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されている第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)で。
Sean Gallup/Getty Images
- アメリカのジョン・ケリー気候問題担当大統領特使は、企業がカーボンオフセットを利用できるようにするプログラムを発表した。
- このプログラムは、途上国がクリーンエネルギーへ移行するための資金調達を目的としている。
- 企業は、それによって削減される温室効果ガス排出量を、自社の気候変動対策目標に算入できる。
アメリカは途上国のクリーンエネルギーへの転換のために、気候変動に関する目標を達成しようとする企業に対してカーボンオフセットの取り組みを拡大することによって何百億ドルもの民間資金を調達しようとしている。
「エネルギー転換アクセラレーター(ETA)」と名付けられたこのプログラムでは、石炭発電所の廃止や再生可能エネルギープロジェクトに資金を提供する企業が、それによって削減される温室効果ガス排出量を、自社の気候変動対策目標に算入できるようになる。
アメリカのジョン・ケリー(John Kerry)気候問題担当大統領特使は2022年11月9日、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催されている第27回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP27)のイベントに、マイクロソフト(Microsoft)、ペプシ(Pepsi)、ロックフェラー財団、ベゾス地球基金といった支援者とともに参加し「この仕事を成し遂げるための十分な資金を持っている政府は世界のどこにもない」と述べた。
「ETAは、他の気候ファイナンス(気候変動対策のための資金調達)に取って代わるものではなく、それを補う重要な手段になる」
このアイデアはすでに気候変動に取り組む団体を分裂させており、ある活動家はケリーに対して「誤った解決策を推進している」と叫び、警備員がその男をイベントから追い出すという事態も発生した。
カーボンクレジット市場では、大気中にある1トンの二酸化炭素の排出を回避または除去したことに相当するクレジット(排出権)を、排出者が購入することができる。しかし、多くの調査結果が示すように、森林保護から再生可能エネルギーの建設に至るまでカーボンオフセット関連のプロジェクトは、排出量を削減していなかったり、クレジットを発行しなくてもいずれは完成するようなプロジェクトであったりと、気候変動対策としての効力は否定されている。
「カーボンクレジット市場における実際の炭素削減の実績は問題の多いものだ。このプログラム(ETA)はうまくいかない可能性が高い」と自然保護団体シエラクラブの国際気候・政策キャンペーンディレクターであるシェレル・ブレイザー(Cherelle Blazer)は声明で述べている。
ケリーは、過去の不正行為によってカーボンクレジットの信用が失われていることを認めた上で、ETAではそのような過ちを繰り返さないと述べた。企業が自社の事業やサプライチェーンを脱炭素化する代わりにカーボンクレジットを購入するようなことがないように厳格な基準を設けるという。また、アメリカ政府はカーボンクレジットの科学的整合性を改善しようとする組織との協議も予定しているという。
ETAには化石燃料企業は参加できず、参加する企業はネットゼロ目標を「科学的根拠に基づく目標(Science Based Targets initiative、SBTi)」によって検証されなければならない。これは、企業に対して目標の90%以上の排出量を削減し、残りをカーボンオフセットで埋め合わせることを求めるものだ。
国連は11月8日、「グリーンウォッシュ」を取り締まるため、企業が主張するネットゼロに関する独自のガイダンスを発表した。
「この発表では、適応に向けての支援策や化石燃料企業の排除など、現在の市場に対するいくつかの改善策が提案されているが、カーボンオフセットに利用されるのであれば、気候ファイナンスの手段と謳うべきでない」と、監視団体であるCarbon Market Watchの政策専門家ジョナサン・クルック(Jonathan Crook)は言う。
「途上国から排出削減量を購入することは、気候対策の資金を提供することと同じではない。誰がその削減量をカウントできるのかという疑問も生じる」
この発表は、COP27の「ファイナンスデー」の国連の報告書を受けて行われた。報告書によると、世界の平均気温の上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑えるというパリ協定の目標を達成するために、途上国や新興国(中国以外)は、先進国、開発銀行、投資家から年間1兆ドル(約146兆円)の資金を調達する必要があるという(世界の平均気温は産業革命以降、すでに約1.2度上昇している)。
1.5度を超えると、致命的な暴風雨、熱波、干ばつなど、人類と環境に壊滅的な打撃を与えることになる。
先進国は10年以上前に、排出量を削減し、気候危機に影響を受けにくいクリーンエネルギーやその他のインフラを構築するために、途上国に対して2020年まで毎年1000億ドルを拠出することを約束した。国連によると、この約束は守られておらず、国連の報告書によると途上国が必要とする資金は現在の5倍から10倍になると推計されている。
先進国は100年以上にわたって化石燃料を使用して経済を発展させてきた。そのために引き起こされた災害で「損失と被害」を被った途上国は、それに対する補償も求めている。
こうした莫大な資金需要は、公的資金だけでは賄えないとケリー特使は述べ、だからこそ、カーボンクレジット市場が役割を果たす必要があると指摘した。いかなる国や企業も、ETAが求める責任から免れることはできないという。2023年にアラブ首長国連邦のドバイで開催されるCOP28に間に合うように計画を策定することをケリー特使は求めている。
アフリカ諸国のリーダーなどで構成されたアフリカン・カーボン・マーケッツ・イニシアティブ(ACMI)は11月8日、独自のカーボンクレジット市場構想を発表した。2030年まで毎年3億のカーボンクレジットを供給し、最大60億ドル(約8800億円)の資金調達を目標としている。ACMIの構成メンバーで、万人のための持続可能なエネルギー(SE4All、Sustainable Energy for All)担当国連事務総長特別代表のドミロラ・オグンビイ(Damilola Ogunbiyi)は、この市場によって、アフリカ大陸でのクリーンエネルギーへの投資が促進されるだろうと述べた。アフリカ大陸では電力にアクセスできない人が多く、それには彼女の母国ナイジェリアの9000万人も含まれているという。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)