撮影:今村拓馬
今回は、読者の方からのご相談にお答えします。
大手企業に勤務する20代の方が「うちの会社はイケてない?」「時代の波に乗れていない?」と不安を感じていらっしゃいます。
Aさん
私は大手企業に勤務していますが、最近、「うちの会社、大丈夫なんだろうか」と不安に思うことがあります。
ビジネス系のニュースを読んでいると、「DX」「ダイバーシティ」「サステナビリティ」「ジョブ型雇用」といったキーワードをよく目にしますが、うちの社内ではそういった言葉がほとんど出てきません。
経営レベルではおそらく議論しているんだと思いますが(そう信じたいですが)、一向に現場に下りてこないということは、もしかしてうちの会社は時代に取り残されているんでしょうか。イケてるかイケてないかでいえば、「イケてない会社」に分類されるのではないかと……。
イケてない会社に居続けても自分のキャリア的にどうなんだとも思うので、そろそろ見切りをつけて転職活動をしようかと考え始めています。次の転職先に失敗しないためにも、経営の現状や将来性を見極める方法はあるでしょうか。仮に転職を決意した場合、志望企業を選ぶにあたっても知っておきたいです。
(Aさん/20代後半/男性/メーカー)
Aさんが不安を抱くお気持ち、よく分かります。
私も日々、転職を検討する皆さんに「なぜ今の会社を辞めたいのか」というお話を伺っていますが、同業界・同規模の企業であっても、変革への意識や取り組み姿勢に大きな温度差があると感じます。
Aさんの場合は、経営陣の意思や行動が見えないということですが、逆のパターンもあります。コーポレートサイトなどで「ダイバーシティ」「DX」などの推進を大々的に打ち出していても、中身が伴っていないこともあります。
例えば、「女性活躍推進」を掲げている企業で、ある女性が直属の上司に「私は管理職を目指したい」と申し出たところ、「そんな前例はないから」と一蹴されてしまった……なんて話を聞いたこともあります。
「DX推進」を打ち出した企業が、とりあえず「DX推進室長」を外部から採用したものの、その人が経営陣に提案をしても真剣に検討しない……というケースもあるようです。
つまりは世間に向けた体裁を取り繕っているだけで、経営陣が「本気」ではないのですね。
では、経営陣の「本気度」を知るにはどうすればいいのでしょうか。
「イケてる会社」かどうかは社外取締役の顔ぶれに表れる
一つの手として、経営ボードメンバーや社外取締役の顔ぶれを確認してみるといいでしょう。大手企業のメンバークラスの社員だと、社内外の役員にどんな人物がいるのか知らないことも多いと思います。
役員構成には「経営の意思」が反映されています。
例えば、直近では「人的資本経営」が注目されています。人的資本経営とは、人材を「資本」と捉え、人材価値を最大化することで企業価値の向上を図ろうとするものです。
政府も、「新しい資本」として人的資本を重視しており、企業に対して人的資本に関する情報開示を求める方向で協議が進んでいます。
このテーマに関しても、いち早く取り組みを進めている企業もあれば、様子見をしている企業もあります。
人的資本経営に対して先進的な大企業として私が注目している大手通信会社や大手IT企業などには、いずれも取締役クラスに人事をコアキャリアとする方がいらっしゃいます。
実際、それらの企業は人材の採用・活用に先進的な考えを取り入れ、実行しています。企業の「本気」が、役員人事に表れている例と言えると思います。
ですから、社内・社外にかかわらず、最近、取締役にアサインされた人物がいるかどうか、その人はどんなバックグラウンドを持っているかを確認することで、経営が注力しようとしている方向性が見えるかもしれません。
また、「スキルマトリックス」を見てみるという手もあります。
スキルマトリックスとは、取締役それぞれについて、どの分野の知見・スキルを保有しているかを一覧表にまとめたものです。
近年、有価証券報告書などで取締役会のスキルマトリックスを公表する動きがありますので、自社あるいは転職先候補として気になる企業があればチェックしてみてはいかがでしょうか。
危機に直面した会社ほど「本気」の強さを発揮する
新たな取り組みに対する企業の「本気度」は、どこで差がつくのでしょうか。
やはり経営陣の「危機感」だと思います。現状~将来への危機感を強く持たなければ、大きな組織の重い腰はなかなか上がりません。
「斜陽産業でジリ貧ではあるけれど、急激に業績が落ち込んだわけではない」という企業は、なかなか本気になれないものです。特に高齢の経営トップは「自分の任期中はまだ大丈夫だろう」と、呑気に構えてしまっているのかもしれません。
一方、経営危機に直面した企業は、変革に本気で取り組みます。
ですから、皆さんが経済ニュースなどを見て「あの会社はヤバい。避けた方がいい」と思っている企業こそ、本気の変革によって逆転し、大きな成長を遂げる可能性もあるわけですね。
例えば、10年ほど前に主力のエレクトロニクス事業が落ち込んだソニーは、大胆な構造改革を実施。エンターテインメント事業のけん引によって復活を遂げると、さらに多様な事業領域へ展開しました。最新の業績発表では、売上高・営業利益で過去最高を更新しています。
こうした視点から、自分の会社や転職先候補企業の経営陣の意思を探ってみてはいかがでしょうか。
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※本連載の第91回は、11月28日(月)を予定しています。
(構成・青木典子、撮影・鈴木愛子、編集・常盤亜由子)
森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。