資源高や円安によって、あらゆる物の値段が上がっている。
この秋には、大手電力6社が相次いで規制料金の値上げ方針を示した。一方、政府は2023年1月から一般家庭向けの負担軽減策を打ち出している。
この先、電気料金の値上げは、私たちの生活にどう響くのか。
電気・ガスの比較サイトを運営するエネチェンジには、昨年の2倍の問い合わせが寄せられているという。電気代は今後どうなるのか。電力会社を変えるべきなのか。エネチェンジの取締役、曽我野達也氏に聞いた。
エネチェンジ取締役の曽我野達也氏。
オンライン取材画面をキャプチャ
【Q1】大手電力6社が示した規制料金の値上げ方針。値上げの対象になるのは?
規制料金※を含む電気料金の見直しを実施・検討する方針を示したのは、東京電力、東北電力、北陸電力、中国電力、四国電力、沖縄電力の大手電力(旧一般電気事業者)6社。
この6社の「規制料金プラン」を選択している需要家(消費者)が影響を受けることになります。
※規制料金:2016年の電力自由化前から提供され続けている料金プラン。
2016年の電力自由化後、大手電力会社・新電力会社は自由に料金設定できる「自由料金プラン」の提供が可能になり、一般家庭の需要家も電力会社や料金プランを自由に選べるようになりました。
規制料金は、自由化が進展し健全な競争環境が整ったと判断されたら撤廃されます。
しかし、まだその段階ではなく、規制料金プランを選択している需要家が約4割もいる。そのため、電気料金には現在、規制料金と自由料金が併存している状況になっています。
【Q2】自分が値上げの対象になるのか調べる方法は?
2016年の電力自由化以降、ほかの電力会社(大手電力・新電力)に切り替えていないとしたら、対象となる規制料金プランの契約だとみて間違いありません。
確認したい場合は、請求書や検針票に記載されている「契約種別」という項目を見るといいでしょう。
例えば、東京電力(東京電力エナジーパートナー)の電気を使っている場合、「従量電灯B」や「従量電灯C」などと書いてあれば規制料金プランの契約を結んでいることになります。
東京電力の電気料金払込用紙のサンプル。赤い矢印部分を見ると、自分の契約プランが分かる。
東京電力エナジーパートナー公式サイトよりキャプチャ
【Q3】なぜ値上げするのか?
請求書の「料金内訳」を見ると、電力量料金(使用量に応じて変動する従量料金)という項目があると思います。その中に「燃料費調整額」という項目がありますが、それが上がっているからです。
燃料費調整額とは、火力発電の燃料として使われる天然ガス(LNG)、原油、石炭の貿易統計価格に基づいて算出される金額です。この金額は貿易統計価格の変動に応じて電気料金に反映される仕組み(燃料費調整制度)になっています。
規制料金プランでは、価格が極端に上がっても需要家に悪影響を及ぼさないよう、反映できる価格(平均燃料価格)に上限が設けられています。
ところが、ウクライナ侵攻や円安の影響で貿易統計価格が上昇し続け、規制料金を提供する大手電力10社すべての平均燃料価格は上限を超えてしまいました。超えた分を料金として回収できないため、大手電力各社は現在、“自腹を切って”吸収するという「逆ざや」になっている状況です。
その影響を受け、2022年度上半期は四国電力を除く9社が最終赤字に転落しました。
今回、規制料金の値上げ方針を示したのは、大まかに言って火力発電の比率が比較的高い6社です。経営努力ではもはや赤字を解消できないと判断し、規制料金を含めて電気料金の見直しを実施・検討する方針を示したというわけです。
大手電力10社の低圧(家庭用・小規模業務用)に関する燃料費調整単価の推移(2021年1月〜2022年11月)。2022年6月ごろから急激に上昇している。月々の燃料費調整額は、燃料費調整単価に使用電力量をかけて算出。
出所:新電力ネット「燃料費調整単価の推移」
大手電力会社(旧一般電気事業者)の燃料費調整額は2022年2月から10月にかけて10社すべてが上限に達した。
出典:エネチェンジ公式サイト「高騰!電気料金が値上げされる理由を解説!月の電気代はどれくらい高くなる?」
【Q4】燃料価格の高騰は新電力の料金にも影響する?
新電力の料金はすでに、燃料価格高騰の影響を受けて上がっています。
というのも、新電力も規制料金と同じような燃料費調整制度の仕組みを採用している会社が大半で、以前は上限を設けている会社も多かったのですが、その上限をすでに撤廃した、あるいは撤廃予定のプランが増えているからです。
規制料金と違って、自由料金に関しては料金プランの内容を変える際に国から認可を受ける必要はありません。大手・新電力を問わず、上限を撤廃するかどうかも含めて電力会社が自由に決められます。
新電力だけでなく、大手電力会社の自由料金に関しても、北海道、東北、中部、四国、九州の5社がすでに上限を撤廃または撤廃する予定です。これにより、もともと上限を設定していなかった東京、北陸、関西、中国を含め、2022年12月以降は、大手電力10社すべての家庭用自由料金の燃料調整額に上限がなくなります(中部電力と沖縄電力は一部プランに上限あり)。
自分の料金プランの内容がどうなっているのか、契約している電力会社のWEBサイトなどで確認しておいたほうがいいでしょう。
エネチェンジでは、大手電力会社と主要な新電力の値上げ・料金改定に関する情報も発信。
出典:エネチェンジ公式サイト「高騰!電気料金が値上げされる理由を解説!月の電気代はどれくらい高くなる?」
【Q5】昨年から相次いだ新電力の経営破綻。燃料価格の高騰で新電力はどうなる?
2021年に新電力の経営破綻や撤退が相次いだのは、日本卸電力取引所(JEPX)の価格が一時期急激に上がったことが大きな理由です。
市場で売られる電気の量に比べて買いが殺到し、需給がひっ迫して市場価格が高騰。発電事業者から直接電気を調達する相対取引が主体だった新電力はともかく、卸売市場での調達に頼っていた新電力はそのあおりをもろに受け、電気料金に転嫁できず、破綻や撤退を余儀なくされました。
そうした苦い経験を踏まえ、現在は卸売市場一辺倒から脱却し、相対取引で調達する電源の割合を増やしたり、先物を利用して価格をヘッジしたりと、経営の安定化に努める新電力が増えています。
しかし、2022年春以降に本格化した化石燃料価格の高騰は、エネルギー供給のほとんどを化石燃料で賄っている日本にとっては大問題です。連動して国内の卸売市場価格も上昇傾向にあり、新電力の経営を圧迫しています。
今後、経営破綻や撤退が相次ぐかどうかは分かりませんが、それを避けるために燃料価格の上限撤廃や、基本料金を含めた料金プランそのものを見直す方向で対応しているのが現状です。
【Q6】政府の負担軽減策で電気代はどの程度安くなる?
家庭(低圧契約)の電気料金に関する政府の負担軽減策は、2023年1月の電気代から1kWhあたり7円を補助するというものです。
例えば、1月分の電気使用量が300kWhの場合、7円×300kWh=2100円割引されることになる。標準的な家庭で、電気代が2割程度安くなる計算です。
実施期間は今のところ1〜9月の予定で、それ以降については値引き幅などを含め、あらためて検討することになっています。
【Q7】「欧米よりまし」な日本の電気料金。今後下がる可能性はある?
今のところ、日本の電気料金が値下がりするシナリオは考えにくく、しばらくは上昇傾向が続くでしょう。とは言え、日本は欧米と比べればまだましな状況ではあります。
例えばイギリスでは、新型コロナウイルスの感染拡大がひと息ついた2021年春以降、経済活動の再開によって電力需要が急激に高まり、電気料金は2021年12月までに2〜4割程度上がりました。
その後、ロシアによるウクライナ侵攻の影響も受け、2022年4月にはさらに5割程度上昇。10月にはさらに8割上がっており、日本よりはるかに深刻な状況になっています。
その最大の理由は天然ガス価格の高騰です。欧州は火力発電や暖房に使われる燃料の多くを単発のスポット価格で調達する天然ガスに依存しており、ウクライナ侵攻も市場価格を押し上げている。アメリカも同様の傾向にあります。
日本も、社会活動が活発になっていく中で電力需要が急増したり、ウクライナ侵攻の影響を受けたりしている点では欧米と変わりません。ただ、火力発電の燃料で最も多い天然ガス(LNG)については基本的に輸出元と長期契約を結んで調達しているため、欧米に比べれば電気料金への影響が少ないのです。
それでも、ウクライナ問題が収束するならともかく、電力(電源構成)の7割以上を化石燃料の輸入に頼っている現状を考えると、燃料価格が下降に転じるシナリオは考えにくい状況です。
日本の自助努力で電気料金の上昇を食い止めるには、火力発電への依存を減らすしかありません。
再生可能エネルギーの比率を上げていくことは重要ですが、一気に上げるのは難しい。
そこで考えられているのが原子力発電所の再稼働です。岸田文雄首相が2023年夏以降に原発7基(原子力規制委員会の設置変更許可を受けた7基)を再稼働させる方針を示した背景には、実現すれば火力発電の比率を下げられるという理由もあるのです。
【Q8】自衛策として、電力会社を切り替えるべき?
正直なところ、いま急いで切り替えたほうがいい、とは言いづらい状況です。
燃料価格の高騰に対して、電力各社がどのように対応するのか見えないからです。現段階で「この会社の料金プランに変えたほうが安くなる」とは言えますが、1カ月、2カ月先にどうなるかは予想できない状況にあります。
規制料金にしても今回表明した6社だけでなく、残る4社もいずれは値上げを含めて検討する可能性が高いです。ただ、どの程度の値上げ幅になるか分かりませんし、いつ値上げするのか確定していない会社がほとんどです。
自由料金に関しても、【Q4】の回答で触れたように、燃料価格の上限を撤廃する電力会社も続出していますし、料金体系そのものを変更する会社も出ています。
【Q9】今できる対策は何なのか?
最低限しておくべきことは、自分がどの電力会社とどんな料金プランを契約しているのか、その内容を確認することです。
契約当初と料金プランの名称が同じでも、燃料費調整額の上限撤廃をはじめ、内容が変わっている可能性もあり得ます。変更する場合は事前に通知されているはずですが、よく確認していない人も多いのではないでしょうか。
また、夏季と冬季の電力需給ひっ迫対策として、デマンドレスポンスという取り組みが増えてきています。電力会社が節電を要請し、ユーザーが節電に成功すると、電気代が割り引かれたり、ポイントが付与されたりする取り組みです。そうした取り組みを実施しているかどうかも、WEBサイトなどを見れば分かります。
まずは自分が選択している料金プランが今どんな内容になっているのか、今後値上げする予定があるのか、契約している電力会社のWEBサイトなどを定期的に確認しておくことが重要です。
(文・湯田陽子)