大企業を辞めて留学、円安が直撃。高い光熱費…ベルギーでの節約生活

トマトの写真

ベルギーのスーパーにて。同じトマトでも大きさや産地で値段が異なる。

筆者提供

「32年ぶりの円安」「稼げぬ日本」「1ドル=200円に備えよ」……。

不安な思いでこんなメディアの見出しを見ているのは、日本に住んでいる日本人だけではない。

7年間勤務した新聞社を辞め、今年8月からベルギーに来た私も同じだ。

欧州に来て以来、毎日為替をチェックするようになった。貯蓄も、日本での収入も、すべてが日本円なので、為替レートが変わるだけで支払い金額が大きく変わるのだ。

今回の原稿では、「ベルギー留学ではどれくらいの費用がかかっているのか」「円安の今、現地ではどんな生活を送っているのか」など、私も日本にいるときには全く知らなかった“意外な実態”について紹介したい。

バーガーとポテトで1300円

ヨーロッパでは外食なんて高級品だ。

先日、フランス・パリに遊びに行ってランチを食べた。一番安いワイン1杯とタジン鍋を食べただけなのに約3500円の会計だった。日本の安いお店であれば、半額くらいで済む内容だろう。

学校には、毎日サンドイッチを作って持参している。ユーロ圏の同級生は気軽にランチを外で食べているが、バーガーとポテトをたのんで9ユーロほど。毎日1300円……と考えるとやっぱりきつい(今回の原稿では、すべて1ユーロ=145円で計算している)。

円安に加え、平均年収の差も

駅の写真

人でにぎわうベルギーの首都・ブリュッセルの駅

筆者撮影

私のベルギーでの支出は、月に1200ユーロ(17万4000円)で済ませるようにしている。

そのなかで食費や光熱費、家賃、ガソリン代は友人と折半しており、ほぼ全ての出費を支払って少し余るくらい。

ここで注意したいのは、そもそも日本人とベルギー人では年収も違うということ。

OECD(経済協力開発機構)による2021年の平均賃金調査では、日本の平均年収は3万9711ドル(575万8095円)なのに対し、ベルギーは5万9100ドル(856万9500円)。日本よりも平均年収が280万円以上高い。

「ベルギー人にとっての12ユーロ」と、「私にとっての12ユーロ」ではその価値が違う。

ユーロ圏内に住んでいる人からしたら、1ユーロは日本人の100円の感覚に近いだろう。彼らの「1ユーロ=100円」感覚では、私の生活費1200ユーロは「日本円では12万円の感覚」かもしれないが、実際には円安の影響もあり、私の生活費1200ユーロは17万4000円だ。

つまり年収差と円安の影響を受ける私が、彼らにとっての12ユーロで生活するには、彼らより多く「日本円を稼がないといけない」のだ。

ここまで書くと「円安の今、海外は敷居が高い」と思われるかもしれない。だが日本企業などの仕事を現地で受けている私は、出費も東京で住んでいた時と大差ない生活をしている。

むしろ、豊かになった部分すらある。

1軒家のシェア生活。「エネルギー高騰」の光熱費は……

家の写真

筆者がルームシェアして生活している一軒家。

筆者提供

住んでいる家は100平米を超える一軒家。数人でシェアして住んでいるが、3階建てで、テーブルやジャグジーを置けるほどのベランダもある。

車社会なので電車の便がいいとは言えず、首都のブリュッセルまでは電車だと1時間ほどかかる。しかしパリまでは意外とすぐで、ドア to ドアで2時間半で行けてしまうこともあり、不便な場所でもない。

家の周りには自然がたくさんあり、馬や牛もいて、日本で言えば軽井沢のような環境だ。駅には徒歩5分でいける。

馬の写真

家の周りには馬もいる。

筆者提供

ただし、ロシアのウクライナ侵攻によるEU加盟国への経済的影響で、電気とガスの値段は高い。

ベルギーでは毎月固定で料金を支払い、1年後に使いすぎた分はその分を支払い、使わなかった分は返金されるシステムだ。毎月固定で、344ユーロ(約5万円)をシェア仲間と分担して支払っている。

スマホの明細画面

光熱費の請求画面。

筆者提供

東京での光熱費が2万円程度だったことを考えると、やはり高いが、ベルギー政府は11月と12月に、1カ月あたりガス代最大135ユーロ(約2万円)、電気代最大61ユーロ(約8800円)の支援を約束しているようだ。

私は家を借りたが、寮に住むなどすれば、もっと費用は安くつく。ベルギー大使館は、毎月生活するのに最低必要な金額を730ユーロ(約10万6000円)と定めていた。

プラム1キロ400円という食費の安さ

レタスの写真

野菜などの価格は日本よりも安いと感じる。

筆者提供

食材は量が多いので、日本と比べて得な部分も多い。

フルーツや野菜は日本よりも安い。1kgのプラムがわずか2.79ユーロ(404円)。サラダ菜は1ユーロ(145円)。肉は660gの豚挽き肉で4.40ユーロ(638円)だ。

これも、価格が上がってこの価格になったというから、前はもっとコスパがよかったらしい。

朝はコーンフレーク、昼はサンドイッチ、夜はメイン+サラダ。間食にはフルーツと、かなりシンプルな生活をしている。

大学院の学費は年間十数万円

またベルギーは大学院の学費も安い。これは、私がベルギー留学を決めた1つの理由でもある。

年間約4000ユーロ、つまり約60万円程度なのだ。

しかも、外国人だから高いわけであって、EU市民やアフリカなど一部の途上国出身だと、たった800ユーロ(約11万6000円)だ。入学金もなければ、願書の提出にあたっての費用もなかった。インターネットで出願し、あとは結果を待つだけ。

しかも、学校は9月から始まっているのに、学費は半年後の2023年1月までに払い終わればいい。私は為替と相談しながら日本円から換金するタイミングを見計らっている。

日本だったら、東大など国立の大学院でも授業料は50万円程度はするし、入学金などもかかる。

私が日本で通っていた社会人向けの大学院は私立だったので、年間100~150万円程度していた。ベルギーの学費の安さを知ったとき、海外の大学院は高いと決めつけていたことを心から後悔した。

最初から知っていたら、もっと早くに海外にいっていたかもしれない。

ベルギー人が驚く日本の学費

大学

筆者が通う大学でイベントが開かれ、学生らが集まった。

筆者撮影

ベルギー人に東京の家の狭さに対する家賃の高さや学費の話をすると、心底驚かれる。そして、「ここではそんな心配はしないで平気だよ」とつぶやかれた。

普通に生活するうえでのコストがあまりかからないので、将来に対しての不安もあまりないようだ。大学に通うのに年間100万円払う、となると学びのハードルは一気に高くなる。でも、十数万円だったらどうだろうか。

学生ローンに苦しまされることも、親の所得や自分の所得で学びを諦める機会も減るはずだ。

もちろん、いい話ばかりではない。ベルギーの所得税は平均して40%だし、一般的な消費税は21%と日本よりも高い。

ただ食材や薬などは6%と日本よりも安くなっていて、必要なものは価格が低く抑えられているのだ。

「節約」が生活に根付いている

森の中の道の写真

通学路の一部。小さな森を通って通学している。

筆者提供

円安での留学生活は、苦しいことも多いが、思わぬ副産物もあった。

価格の恐怖から、物を買うときにはじっくり考えて買うようになり、東京で毎日のように購入していたアマゾンもほとんど使わなくなった。

モノが増えないので、家が広くても断捨離とは無縁の生活だ。

スーツケース2つにはいるもの以外は日本に置いてきてしまったが、置いてきた大量の服も、カバンも、全て使わないということに気づいてしまった。

節電のために、電気も夜は間接照明しかつけないが、卓上ライトを使えば不便もない。

寒さも重ね着や服でかなり緩和されることを知った。

ベルギーでは誰でも乗っている電動キックボードを利用すれば、電車代はかからないし、しかも速い。

外食もしなくなったけど、人とつくる料理は楽しいし、ヘルシーだ。もっとも、私にとっては「節約」だが、彼らは意識せずに日常的にこうした生活をしているようで、驚いた。

「円の価値=自分の価値」にならないために

それでもこれ以上円安が進んだら……と思うと、うかうかしていられない。最近は外貨を稼ごうと必死になっている。

今は日本企業から依頼される文章の編集業務などをリモートでこなし、仕事をしながら留学生活を送っているが、同時にドイツ企業の日本進出を手伝って報酬をシンガポールドルでもらったり、フランスの企業からユーロや仮想通貨で報酬をもらったりする話を進めている。

ベルギー人と同じ生活をするためには、私は「為替」のために約1.5倍稼がないと同じ消費ができないのだ。

もちろん、消費は減ったので使うお金は少なくなったが、先行きの見えない円に依存はしたくない。

為替の価格は自分の努力では変えられない。円で1.5倍稼ぐか、外貨を稼ぐか。

「円の価値が自分の価値」にならないように、今日も為替とにらめっこしている。

(文・雨宮百子、編集・横山耕太郎)


雨宮百子(あめみや・ももこ):ベルギー在住のエディター。早稲田大学政治経済学部卒業後、Forbes JAPAN編集部でエディター・アシスタントを経て、日本経済新聞社に入社。記者として就活やベンチャーを取材する。その後、日本経済新聞出版社(現・日経BP)に書籍編集者として出向、60冊以上のビジネス書を作る。担当した『日経文庫 SDGs入門』『お父さんが教える13歳からの金融入門』は10万部を超える。就業中に名古屋商科大学院で経営学修士(MBA)を取得。2022年8月に退職・独立し、ベルギーに。若者版ダボス会議と言われるOne Young World 2022に日本代表として参加。現在はルーヴァン経営学院の上級修士課程で欧州ビジネス・経済政策を学ぶ。メディアへの執筆のほか、編集業務や海外企業の日本進出支援も行っている。Twitterは @amemiyaedit、「アラサー女子の社会人留学」としてボイシーでも配信。

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