Arnd Wiegmann/Reuters
前例のない荒波の中にあるメタ(Meta)は、収益回復のために新しい短尺動画作成機能「リール(Reels)」に力を入れている。
メタは2四半期連続の減収を受け、社員の13%をレイオフした。マーク・ザッカーバーグCEOは、レイオフを発表した社員宛てのメモの中で、メタの収益を押し下げ、人員削減につながった要因として、景気後退、iOSのプライバシーポリシーの変更、競争の激化を挙げている。
だからこそ、TikTokやYouTubeが提供する類似サービスに対抗できるリールは、メタの将来にとって非常に重要なのである。
ザッカーバーグは最近の決算発表でリールの成長をアピールし、FacebookとInstagramではリール動画が1日当たり1400億回再生され、半年前より50%増加していることに言及した。しかし第3四半期はリールの広告収入が芳しくないことから5億ドル(約700億円、1ドル=140円換算)のマイナス影響を受けており、同社はリールが多くの収益を上げるまでにはあと1年から1年半かかると予測する。
ザッカーバーグは以前、「現在のトレンドは良好で、TikTokなどの競合他社に対して(リールは)時間消費のシェアを獲得していると考えている」と語っていた。
しかし、アルファベット(Alphabet)傘下のYouTubeも、同社のショート動画サービス「YouTube ショート(Shorts)」が好調だと主張している。
アルファベットのサンダー・ピチャイCEOは直近の決算説明会で、YouTubeショートのユーザー数が15億人であることを明かし、このプラットフォームにさらなるクリエイターと広告主を引き寄せるために、2023年からはクリエイターにも広告収入を配分すると強調した。
「モバイルファーストのクリエイターがより多くの力を注いで、コミュニティ全体の成長に貢献するコンテンツを作ってくれています」(ピチャイ)
このようにメタとYouTubeが努力しているにもかかわらず、広告主に話を聞くと、ショート動画ブームを巻き起こしたTikTokが依然としてこの分野のトップに立っているという。
広告業界は、これらのショート動画を果たしてどのように見ているのだろうか。
後れをとるリール
パフォーマンス広告の支出は、引き続きFacebookとInstagramが大半を占めているが、視聴者不在のリールには広告主はまだ関心を示していないと広告バイヤーたちは言う。
ある広告バイヤーはこう話す。
「リールについて尋ねてくるブランドはありません。みんな『TiktTokを試してみたい』と言っていますね。それがすべてを物語っているんじゃないでしょうか」
ウォール・ストリート・ジャーナルが入手したメタの内部レポートによると、クリエイターの投稿に関し、リールはTikTokのシェアに大きく後れをとっている。Instagramが抱える1100万人のクリエイターのうち、リールへ投稿するクリエイターは毎月20.7%程度に過ぎず、エンゲージメントが得られるものはほとんどないとウォール・ストリート・ジャーナルは報じている。
フォレスター・リサーチの副社長兼リサーチディレクターのマイク・プルーは、以前Insiderの取材に対し、「メタは積極的にリールを収益化しようとしていますが、本質的にはユーザーにリールを使うよう強制しているに等しいのです」と語っている。例えば、メタはInstagramの動画を自動的にリールに変換できるようにしたが、これにはユーザーからの反発もある。
Instagramで3億人以上のフォロワーを持つモデルであり女優のキム・カーダシアンは、「InstagramはTikTokになろうとするのをやめるべき」と激しく非難している。
「強制的なエンゲージメント戦略では、Z世代をメタのプラットフォームに連れ戻すことはできず、Z世代離れを加速させる結果になりかねません」(プルー)
メタの広報担当者は以前、企業やクリエイターはリールに「確実な成果を期待できる」と感じていると述べていた。「すでにリール広告の年間収益ランレートは10億ドル(約1400億円)を超えており、これは(Facebookの)ストーリーズ(Stories)の成長よりも速いです。これまで以上に多くの人々がリールを見たり、作ったり、つながったりしています」と広報担当者は言う。
マーケティング会社のティヌイティ(Tinuiti)のアドレサブルメディア担当上級副社長であるコリン・クレヴェノは、YouTube ショートが収益共有プランを導入することで、クリエイターの獲得を図るリールに打撃を与えるのではないかと言う。
「YouTubeが、たとえ著作権で保護された音楽が含まれるコンテンツであってもクリエイターが収益化できるようにしたのには大きな意味があります。
リールはInstagram独自のコンテンツを作るためにクリエイターを呼び込もうとしてきました。しかし、YouTubeがすでに多くのフォロワーを持つ最も著名なクリエイターたちを抱えていることを考えると、今後はYouTubeとの競争が激化するでしょう」(クレヴェノ)
収益共有プログラム開始でYouTubeショートが優勢に
TikTokはクリエイターを有名にするが、ひとたびコンテンツがバイラルになれば、多くのクリエイターは、フォロワーの数を増やし長期的に多額のお金を稼げるYouTubeへ移行してしまう。TikTokの抱える問題についてそう指摘するのは、マーケティング会社パワー・デジタル(Power Digital)のチーフ・グロース・オフィサーであるロブ・ジュエルだ。また広告主たちも、YouTube ショートの収益分配プログラムが導入されれば、さらに多くのクリエイターがYouTubeショートに移行すると予測する。
クリエイターの関心が高まれば、広告主の関心も高まる。YouTubeショートの広告が今後どのような成果をもたらすかは未知数だが、広告バイヤーは、ほとんどのクライアントがメディア露出計画にYouTubeショートを組み込んでいるという。YouTubeには売上を伸ばした実績があるため、広告バイヤーたちもある程度自信があるようだ。
「長期的な可能性に関しては、YouTubeは非常に強いと思います」(ジュエル)
クリエイターと消費者に支持されるTikTokの課題
TikTokのクリエイターファンドは悪名高く、報酬は高くない。にもかかわらず、クリエイターにとってTikTokは今でもショート動画コンテンツを作るのに最優先のプラットフォームだと、クレヴェノは言う。
TikTokは今も視聴者の間で人気が高く、それゆえブランド企業も広告費の投入先としてTikTokを選んでいる。Insider Intelligenceが2022年4月に発表したレポートでは、TikTokの2022年の広告収入は184%成長して60億ドル(約8420億円)近くになり、TwitterとSnapの合計を上回ると予測している。
ただ問題は、TikTok上に表示された広告の効果をうまく証明できていないことだ、とある業界関係者は語る。TikTokがいまだにメタのFacebookやInstagramから広告費を奪取できていない理由はここにある。
なおTikTokの広報担当者は、レイバンやセフォラなどはTikTokに広告を出稿して成果を上げていると述べている。またTikTokは、自動化とAIを使ってユーザーが好みそうな製品の広告を表示することでクリックを促せるといわれる「ショッピング広告」などを強化している。
(編集・大門小百合)