エンドウ豆、インゲン豆、レンズ豆、ヒヨコ豆など、乾燥させた食用の豆。
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- レンズ豆、インゲン豆、エンドウ豆は、生産する際の二酸化炭素排出量が少ないタンパク源であり、化学肥料汚染の防止にも役立つ。
- アメリカ人が豆類をあまり食べないのは、「豆へのためらい」ではないか、と研究者たちは考えている。
- 豆類は肉や代替肉より安価だが、体内にガスがたまりすぎるのではと心配する人もいる。
マメ科の植物は、他の植物にはできない特別なことができる。空気中の窒素を吸収できるのだ。根粒菌という土の中のバクテリアと共生しており、これが大気中の窒素をすべての植物が利用できるアンモニアに変換する。マメ科の植物の周りの土壌にはアンモニアが混ざり、それを他の植物が吸収して生長していく。
カリフォルニア大学サンタバーバラ校の助教授で、『Lentil Underground』の著者であるリズ・カーライル(Liz Carlisle)は、「マメ科の植物は、自然の肥料工場だ」とInsiderに語っている。
干ばつの影響を受けたブラジルのリオグランデ・ド・スル州ソレダデの農園で大豆が芽を出した。
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そのため、北米ではイロコイ族やチェロキー族がトウモロコシやカボチャと一緒に豆を植えてきた。中世ヨーロッパの農家が毎年、エンドウ豆やインゲン豆を畑にまいていたのも同じ理由だ。
今日では、マメ科の植物は化学肥料よりも環境に優しいと捉えられている。化学肥料は、生産するために化石燃料を必要とし、汚染物質を流出させ、大気中に温室効果ガスである亜酸化窒素を放出するからだ。
また、豆類はタンパク質が豊富で、生産の過程で放出される温室効果ガスの排出量も、畜産物より少ない。例えば、100gのタンパク質を含む牛肉を生産する時には、同じ量のタンパク質含むエンドウ豆を生産するのに比べて、約90倍の二酸化炭素が排出されることが、Our World in Dataのレポートによって明らかにされている。
つまり、マメ科の植物はより持続可能な農業システムを構築するための強力なツールになり得るということだ。しかし、ニーナ・イチカワ(Nina Ichikawa)をはじめとするバークレー食品研究所の研究者たちは、アメリカ人が多くの豆を食べることを阻むものがあると考えている。
豆を嫌がっているのは誰?
豆は食物繊維とタンパク質が豊富だが、誰もが好んで食べるわけではない。
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イチカワは、料理番組や料理雑誌の表紙、新しい健康食レストランのメニューで、豆類があまり取り扱われていない状況を目にしてきた。豆が嫌い、調理法が分からない、豆を食べるとおならが出るのが嫌だ、といった声も聞かれる。イチカワはこれを「豆へのためらい」と呼び、さらにひどいケースでは「豆への抵抗」と呼んでいる。
カーライルも同じ状況を見てきた。2016年、彼女はレンズ豆に関する情報冊子をモンタナ州立大学と共同執筆した。その際に行われた調査で、モンタナ州の住民は、レンズ豆を食べるとお腹にガスが溜まることにもっとも不安を感じていることが分かった。また、マメ科の植物を栽培する彼女の友人は、多くの潜在顧客が豆の調理は時間がかかりすぎる、あるいは難しすぎると考え、なかなか手を出せずにいることに気が付いたという。
イチカワはInsiderにこう語っている。
「マメが土の中でどのような働きをするのか調査する必要はない。それを証明する研究は山ほどあるのだから。豆が人体へどのような影響を与えるのかについても調査する必要はない。同様にそれを証明する研究は山ほどある。豆には調理法がいくつもあることを調べる必要もない。山ほどの料理本があるのだから。それなのに、アメリカ人が豆を食べるのをためらうのはなぜなのか。それは理解する必要がある」
フロリダ州にあるスーパーの棚に並ぶ黒いんげん豆の缶詰。
Wilfredo Lee/AP Photo
イチカワはアメリカにおける豆の消費に関する調査を、カリフォルニア大学バークレー校の代替肉研究所(Alternative Meats Lab)と共同で2019年に開始した。彼女と2人の博士課程研究員は、フェスティバルの会場に集まった人を対象に、豆類への考え方について調査を行った。また、栄養価、農業経済的なメリットと課題、料理の歴史といった豆の多様性についての評価も開始した。しかし、新型コロナのパンデミックの発生で研究資金が途絶え、イチカワは今も新たな資金を探している。
「手頃な価格で手に入るベジタリアン向けタンパク質について研究するには多額の資金を費やす必要があると考えている人がいることに、私は本当に心苦しい思いをしている」と彼女は言う。
アメリカ労働統計局によると、2022年9月にアメリカの都市におけるひき肉1ポンド(約453g)の価格は平均4.86ドルだったが、乾燥豆1ポンドは約1.68ドルだった。また、ウォルマート(Walmart)では、血が滴るように見えることで有名な植物性パティ、インポッシブル・バーガーは1.5ポンドで9.44ドルだった。
「豆はすでにすばらしい働きをすることが分かっているのだから、その類似品を探すのに無駄な時間を費やしてほしくない」とイチカワは述べている。
[原文: Legumes can help fight climate change, but 'bean hesitancy' might stand in the way]
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)