Sven Hoppe/Getty Images; Rachel Mendelson/Insider
11月11日、メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、数万人の従業員が参加して重苦しい雰囲気に包まれたビデオ全社会議の直前、管理職クラスの従業員だけを集めたより小規模なビデオ会議を開いていた。
フェイスブックやインスタグラムを傘下に置く同社はその2日前の11月9日、1万1000人規模の解雇に踏み切った。従業員総数の約13%に相当し、創業18年の同社史上初の大量解雇だ。
ユーザー数と収益の伸びが鈍化する一方、ザッカーバーグは起死回生を狙ってメタバースに多額の資金をつぎ込んでおり、景気後退が日々現実味を帯びる中で、従業員たちは解雇の可能性をひしひしと感じつつ数カ月にわたって身構えてきた。
そうした前段があったにもかかわらず、今回のコスト削減計画について共有を受けた管理職クラスの従業員たちはさすがに驚きを隠せなかったようだ。
マネージャーだけが集められたビデオ会議は、解雇について詳細な情報を伝えるためのものと事前に予告があったものの、ザッカーバーグの口からは全従業員向けメールに書かれていた内容以上のことはほとんど何も語られなかった。
ビデオ会議に参加したある人物によれば、ザッカーバーグは「マクロ経済の低迷、競争の激化、そしてターゲティング広告(の精度を向上させるユーザー閲覧履歴のトラッキング)データの入手困難化」により、フェイスブック事業が「想定以上の悪影響を受けた」と語ったという。
マネージャー側からは、解雇する従業員をどのように選んだのか、解雇計画はいつから練られていたのか、という質問が上がった。
しかし、ザッカーバーグはそれらの質問をうまくかわし、はっきりと回答することはなかった。参加したマネージャーからは、滞りなく解雇が実施されたことに「ひとまず安心」したとの声もあれば、中には怒りの声もあったようだ。
ビデオ会議に参加した別の人物はこう語る。
「マネージャークラスには事前の相談が一切なかったみたいなんです。自分のチームから解雇者が出たマネージャーたちは怒ってました」
もちろん、管理職に限らず、大きな衝撃に見舞われた多くの従業員たちも説明を求めている。誰もが、どんな部署や職種で解雇が行われたのかを把握し、創業以来最大の激変あるいは混乱と何とか折り合いをつけようとしているのだ。
従業員は誰が解雇されたか把握できないでいる
メタ社内では、クイッター(Quitter)と呼ばれるデジタルワークプレイスツールを使って、従業員の退職やそのトレンドなどをトラッキングしている。退職者が増えれば、従業員はこのツールを通じてその日にも事実を把握できる。
ところが、内情に詳しい人物によれば、メタは解雇を実施した11月9日、このツールへのアクセスを突如遮断した。そのため、誰が解雇されたのか、最も多くの解雇者を出したのはどの部門なのか、従業員は自分たちで個別に確かめるしかない状況になっている。
ザッカーバーグが従業員向けに送ったメールには、「(フェイスブックやインスタグラムなどグループが運営する)各種アプリから(人工知能や拡張現実などのツール開発を手がける)リアリティ・ラボ(Reality Labs)にわたる全組織」が解雇の対象で、採用およびビジネス関連のチームはとりわけ対象者が多い旨が記されていた。
個々の従業員に対しては、まずそれぞれが解雇の対象であるか否かを伝えるメールが送られ、その上でマネージャーとの間で今後について話し合う個人ミーティングが行われた。
「現時点では、直接同僚と話して確認しない限り、誰が解雇されたのか分かりようがないのです。解雇対象者に関する情報は公開されていないのですから」
マネージャーのみを対象に行われたビデオ会議以外に、ザッカーバーグは同日、大規模なビデオ会議を2回開いた。一方は解雇を免れた全員が参加、もう一方には解雇された全員が参加した。
参加した複数の従業員によれば、いずれの回もザッカーバーグは従業員からの質問には回答せず、事前に全従業員向けに送ったメールの文面以外のことはほとんど口にしなかったという。
解雇者集中で「大惨事」の部署も
今回の解雇の対象は広範に及んだ。
メタ本体では、コンテンツパートナーシップを担当していたプロダクトマーケティングマネージャー、データサイエンティスト、コンプライアンス・ガバナンス担当、グローバルインサイト担当が少なくとも解雇された。
傘下のアプリ運営会社フェイスブック、インスタグラムも解雇者を出した。特に後者では、ショート動画編集・投稿機能「リール(Reel)」のパートナーシップを担当する従業員から多くの解雇者が出た。
リールは世界中で大きな影響力を獲得しつつあるTikTok(ティックトック)アプリに類似した機能で、ザッカーバーグはリールを成長の原動力の一つと位置づけ、これまでも事あるごとにその重要性を強調してきた。
にもかかわらず、解雇されたある従業員の概算によれば、リールのプロダクトマーケティングマネージャーは驚くべきことにその70%が解雇の対象になった模様だ。
「正直なところ、まずは何よりショックと言うほかありません。プロダクトマーケティングマネージャーとビジネスチームについては、紛れもなく大惨事、大量解雇です」
エンジニアおよびエンジニアリングマネージャーからも解雇者が出た。ザッカーバーグが社名変更に打って出るほど心酔するメタバースの「実行部隊」とも言えるリアリティ・ラボですら「聖域」にはならなかったようだ。
内情に詳しいある人物は、解雇されたエンジニアはメタのエンジニア総数の1割ほどに達するとみる(編集部注:ロイターは11月11日付で解雇対象者の約半分が技術担当、残り半分が営業担当と独自に報じている)。
経営幹部も例外ではなく、バイスプレジデント、部門責任者クラスのディレクター、さらには数多くのマネージャークラスが解雇された。
Insiderが確認したあるプライベートメッセージによれば、少なくとも1つの採用チームでは、所属する従業員の98%が解雇の対象となった(前出のロイター報道によれば採用チームは半減)。
メタは2022年5月上旬に複数の部門で採用凍結に乗り出した。多くのリクルーターがその時点で解雇の可能性を察知し、身構えた。それでも、これほどの規模になると予想した従業員は多くなかったようで、さすがにショックを隠せないようだ。
今回解雇対象となったあるリクルーターはこう感想を口にした。
「1万1000人?いや、こんなに多くなるとはさすがに思っていませんでした。ここまでの状況に追い込まれたのは、リーダーシップの欠如と経営の失敗と言うほかありません」
メタは近頃、従業員に対して「これまで以上」の成果水準を設定し、各部門の責任者には成績下位15%の従業員を解雇するよう要求している。しかし、今回解雇された従業員4人の証言によれば、解雇の対象になったのは必ずしも成果が出ていなかった従業員ばかりではないようだ。
証言してくれた4人のうちの1人はこう語った。
「高い成果を出して、最高ランクの『期待以上』あるいは『期待値を更新』との評価を受けていた従業員も、多くが解雇されました」
従業員のショックと怒り
解雇された従業員たちの間では怒りの声が沸き起こりつつある。
解雇されたある従業員はビデオ会議でのザッカーバーグの発言と態度について、皮肉を込めてこう語った。
「いつも通り一流の人物でしたよ。彼らしい、それだけです」
別の解雇された従業員はこう語る。
「ショックが大きすぎて、ビデオ会議にログインする気にもなりませんでした」
さらに別の従業員は、ザッカーバーグの話を聞く必要すら感じなかったと語っている。
ザッカーバーグのメタバースに注力しようという判断が、今回の苦痛を伴う大量解雇につながったと考える従業員もいる。
解雇された従業員は率直にこう語った。
「彼(ザッカーバーグ)に対してはネガティブな感情を抱いています。他にも多くの同僚たちが同じような感情を抱いているはず。要するに、メタバースとリアリティ・ラボに力を入れすぎなのです」
フェイスブックの広報担当はコメントを拒否した。
一方、解雇を免れた従業員の中には、ザッカーバーグを擁護する立場もある。
ある証言によれば、解雇を免れた従業員向けのビデオ会議で、ザッカーバーグはこんな様子を見せた。
「明らかに感情的になっていました。解雇について話すザッカーバーグは、少し声を詰まらせていたように感じました」
解雇を免れた別の従業員によると、ザッカーバーグは、解雇の原因は自身にあり、成長トレンドについて「過度に楽観的」かつ「誤った」見方をしていたと認めたという。自己批判を口にするザッカーバーグは「うわべで語っているようには見えなかった」と同従業員は印象を語る。
今回の解雇以前に退職したある経営幹部は、現在の状況を「従業員にとって、極めて苦痛を伴うもの」とした上で、メタが極度の「人員過多」に陥っていたことを指摘する。
実際、同社が米証券取引委員会(SEC)に提出した書類によると、2021年末から1年足らずで1万5000人も従業員が増えている。
前出の元経営幹部はこう強調する。
「大量解雇は決して従業員のせいではありません。(年初来の株価下落など)経済状況が悪化する中で(採用を増やして)従業員を駆り立てようという判断が間違っていました。その結果がこの惨状です」
互いを支え合う従業員
現役従業員も、解雇された従業員も、互いに支え合おうとさまざまな形、場所で協力する動きを見せている。
解雇を免れた従業員たちは、解雇された従業員たちの次の職探しから、就業ビザを取得して勤務していた外国人従業員に今後必要とされる手続きのガイダンスまで、あらゆる分野でサポートを提供すると同時に、解雇された従業員に関する基本情報の提供にも取り組んでいる。
今日時点ではすでに削除されたものの、解雇された従業員向けのスラック(Slack)チャンネルでは、解雇前に所属していた部署に関する情報の共有が行われていた。
また、解雇された従業員たちは数百人規模でビジネス特化型ソーシャルネットワークのリンクトイン(LinkedIn)に殺到し、メタを退社し、転職先を探していることを投稿している。
また、匿名で参加できるプロフェッショナル向けソーシャルネットワーク、フィッシュボウル(Fishbowl)やブラインド(Blind)なども盛況だ。
ユーザーが集うグループでは、米ウォール・ストリート・ジャーナルがメタの大量解雇計画を初めて報じた11月6日以降、さまざまの噂や疑問が集中的に投稿されている。
いずれもテーマは同じで、管理職や経営幹部にも解雇の可能性があるのか、どの部門が解雇の対象になるのかを議論したり、解雇が行われた11月9日朝にはすでに職場で使う諸々のツールにログインできなくなっていたショックを慰め合ったりしていた。
フィッシュボウル上のこんな投稿が象徴的だ。
「結局のところ、単なる仕事の話じゃないか。子どもたちをハグして、母親に電話して、それから目の前の現実をあるがままに受け止めよう」
メタの転換点
解雇に踏み切ったのはメタだけではない。テック業界全体が前例のないコスト削減の波に巻き込まれ、決済大手ストライプ(Stripe)や配車サービス大手リフト(Lyft)など数十社がここ数週間のうちにそれぞれ数千人規模のレイオフを発表した。
ヒトやモノのコストが膨れ上がり、インフレの沈静化にも目処が立たず、景気後退の可能性も現実味を帯びるなか、どの企業も苦渋の選択を迫られている。
しかし、いや、それゆえに、11月9日に解雇を決断したザッカーバーグに対するウォール街の反応は上々だ。当日、メタの株価は5%上昇した。
米投資銀行ジェフリーズ(Jefferies)のアナリストチームは顧客向けのメールで、今回の解雇を「ザックUターン」と呼んで評価し、メタは人員整理によって利益を積み増すことができるため、解雇が成長軌道に影響を及ぼす展開は回避されると指摘した。
また、米投資銀行エバーコア(Evercore)傘下の金融調査会社インターナショナル・ストラテジー&インベストメント・グループ(ISI)で長年インターネット業界をカバーしてきたマーク・マヘイニーは、今回の解雇を「我々がカバーしてきた中で最大のピボット(方針転換)がわずか2週間で行われた」と分析している。
「2週間で」とは、つまり以下のような流れを指す。
ザッカーバーグは10月26日に第3四半期決算を発表し、メタバース開発を担当するリアリティ・ラボについて「2023年は損失が前年比で大幅に拡大することが予想される」とした上で、「長期的に会社全体の営業利益を成長させる目標を達成するため、投資のペースを上げる」と宣言した。
主要株主のアルティメーター・キャピタル(Altimeter Capital)などからコスト削減を求める強い要望が上がる中、それと逆行する経営方針が発表されたことを投資家は嫌い、当日の時間外取引でメタの株価は18%下落し、2016年以来の低水準を記録した。
翌日、従業員とのビデオ会議で株価下落について問われたザッカーバーグは、「投資家はメタにさらなる行動を取るよう望んでいる」とだけ回答し、その時はその発言が何を意味するのか具体的には語らなかった。
そして解雇実施の11月9日、ザッカーバーグはフェイスブックのオフィス規模縮小を含む新たなコスト削減計画を発表し、従業員にはデスクシェアを求めた。それ以前から、福利厚生や出張費支給額も縮小が進められており、今後もさらなるコスト削減の取り組みが計画されている。
ザッカーバーグは解雇を免れた従業員の参加した前出のビデオ会議でこう語った。
「こうした対策が積み重なるにつれ、当社の経営カルチャーは有意義な形で変化していくことになるでしょう」
解雇を免れた従業員たちは、職を失わずに済んだことに感謝しつつも、ジョーク混じりで不満の声を上げる。
「オフィスにいる時間を先にスケジュールに組んでおかないと、仕事をするデスクすら確保できない」
デスクだけにとどまらず、他にこれからいろいろ失うものが出てくるのではと、不安がる従業員もいる。
「(福利厚生の一環としてオフィスで無料提供されていた)軽食などもオフィスから姿を消す日が来るかもしれませんよね」
(編集・情報補足:川村力)