撮影:三ツ村崇志
「この横須賀の工場は、TBMのステージを変える大きな一歩であり、TBMの歴史の中に刻まれる工場です」
石灰石を主原料とする代替プラスチック「LIMEX」を開発しているTBMの山﨑敦義代表は、11月11日、神奈川県横須賀に建設した国内最大級のリサイクルプラントの竣工式で力強くそう語った。
今回竣工したリサイクルプラントは、処理能力が年間最大で約4万トン。さらに、使用済みのLIMEX製品や廃プラスチックを同時に回収・自動選別した上で再資源化することができる。再生ペレットの生産量は年間で約2万4000トンを見込む。
TBMが製造するLIMEXの自動選別機能を持ったリサイクルプラントは、世界初。なぜリサイクルプラントの稼働が、「TBMのステージを変える」ことになるのか。山﨑代表の発言から分析していく。
Business Insider Japan
TBMがリサイクルに力を入れるワケ
11月11日に開催された、竣工式の様子。
撮影:三ツ村崇志
日本では、年間で約800万トンの廃プラスチックが発生している。そのうち、約6割は焼却処分されているのが現状だ。
世界的に加速する「脱炭素」や「脱プラスチック」の流れの中で、いかに既存のプラスチックを再資源化するかは、資源を完全に海外に頼っている日本はもちろん、世界的にも大きな課題だと言える。
TBMはもともとプラスチックや紙などの「代替素材」として、石灰石を主成分とした新素材LIMEXを開発していた。ただ、LIMEXには製品の特性上、再資源化の観点で無視できない課題を抱えていた。
LIMEX製品はプラスチック製品や紙などの代わりとして使うことができる。
撮影:三ツ村崇志
というのも、LIMEX製品はレジ袋やプラスチック製のコップなどをはじめ、プラスチック製品の代わりに使うことはできる。その一方で、成分はプラスチックと異なる。
つまり、プラスチックのリサイクル工程にLIMEX製品が混入してしまった場合に、リサイクル工程に悪影響を及ぼしてしまう可能性があった。
実際、山﨑代表が竣工式で
「LIMEXの素材や製品の開発、また普及を進めていく中で、素材や製品として優れた環境性能を有していながらも、 廃棄する際の処理方法やリサイクルについて、さまざまな意見を頂きました」
と語ったように、LIMEX製品はこれまでの道のりの中で「処理方法」について「リサイクルを混乱させる」などの「さまざまな意見」、言い方を変えれば批判も受けてきたことが推察される。
だからこそTBMは、これまでにも自主的にLIMEX製品の回収ボックスを設置したり、スタジアムなどの限られた空間で使用することでLIMEX製品を回収しやすくしたりと、さまざまな工夫を続けていた。
ただ山﨑代表は、
「LIMEXだけの資源循環のモデルをつくっていくことは、時間もかかり、現在のLIMEXの普及状況では、経済合理性も成り立ちにくいと考えました」
と、プラスチック経済圏とも言えるシステムの「外側」でLIMEXを普及させていくことには難しさがあると語る。
そこで考えたのが、LIMEX製品とプラスチック製品を併せて回収し、再資源化していく、今回竣工したリサイクルプラントの構想だった。
5年で国内10拠点。日本の廃プラの5%の処理を目指す
リサイクルプラントの一部。回収した廃プラスチックを粗く砕き、分別する工程の装置。
撮影:三ツ村崇志
今回竣工したリサイクル工場では、LIMEX製品とプラスチック製品が混在したゴミでも、成分ごとに自動で選別できる装置を導入した。選別した廃プラスチックなどを細かく砕き、洗浄した上で成分ごとに再生資源化し、再び市場へと投入する。
TBMは、リサイクルプラントの設置自治体である横須賀市と連携し、2022年11月から市内の一部地域で排出されるLIMEX製品、容器包装プラスチック、製品プラスチックを一括回収した上で、今回建設したリサイクルプラントで再資源化する実証試験を始めている。今後、2023年10月までに「プラスチック資源循環促進法(2022年4月に施行された法律)の認定の下で横須賀市全域にこの取り組みを拡大していくとしている。
LIMEXを開発するTBMの山﨑敦義代表。竣工式後、取材に応じた。
撮影:三ツ村崇志
また、TBMはリサイクルプラントを起点とした横須賀市との実証試験をモデルケースに、国内外に展開を進めていく計画も示している。山﨑代表によると、今後、3年〜5年のうちに全国で計10拠点(横須賀含む)のリサイクルプラントの竣工を目指すという。プラントの建設地はまだ確定していないものの「候補地は上がってきている。一気に広めていきたい」(山﨑代表)とスピード感を持って展開していくとBusiness Insider Japanの取材に対して語った。
実現できれば、日本で排出される廃プラスチック全体の約5%に相当する約40万トン分の処理能力を得ることになる。また、山﨑代表は、「ご縁があれば」と断りをいれつつも、海外からの引き合いがあれば、国内で10拠点整備する前段階であっても、積極的にグローバル展開も進めていくとの考えも明らかにした。
プラスチック循環の中にLIMEXを組み込めるか?
PP(ポリプロピレン)やPE(ポリエチレン) 、PVC(ポリ塩化ビニル)やLIMEXなど、多様な成分のゴミが各成分ごとに自動で分別される。
撮影:三ツ村崇志
なお現状でリサイクルプラントが全力で稼働したとしても、そこで処理される素材は大半がプラスチック製品になることが予想される。ただ、山﨑代表は「最初はそれでも全然良い」と語る。
「LIMEXの回収だけでは経済合理性が確保できない中で、社会課題になっているマテリアルリサイクルを推し進めていく。プラスチックの資源循環と合わせてLIMEXの回収に取り組むことで、ビジネスとして成立させながら、LIMEXの資源循環を進めていこうとしているんです」(山﨑代表)
LIEMX製品とプラスチックを選別できる機能を持ったリサイクルプラントが普及している地域であれば、LIMEX製品の導入もしやすくなる側面もあるといえる。
これは、前述した「プラスチック経済圏の外側」でLIMEXを普及させようとしてきた従来の取り組みから、「プラスチック経済圏の内側」にLIMEXを組み込んでいく新たな戦略への転換だとも言える。
(文・三ツ村崇志)