アマゾンのロボティクスと配送の開発拠点「BOS27」が世界各国の報道関係者向けに公開された。広さは35万平方フィート(約3万2500平方メートル)。
撮影:小林優多郎
「まるでSF映画のような光景だ」
それが筆者が、アマゾンが11月10日(現地時間)に、日本のメディア向けに初めて公開した研究・開発施設「Amazon Robotics BOS27」を取材した第一印象だった。
BOS27は有名大学などが集まるアメリカ・ボストンの近郊にあり、世界20カ国にあるアマゾンのさまざまな拠点で活用するロボットや配送技術の研究・開発を進める「極秘」の施設だ。
その技術の一部にはなるが、報道陣向けに公開された近未来の配送技術を解説しよう。
“物わかり”のいいロボットアーム「スパロー」
11月10日(現地時間)に披露された新型ロボットアーム「Sparrow」。
撮影:小林優多郎
「Sparrow(スパロー)」は今回の記者発表で世界初公開になったロボットアームだ。
かんたんに言ってしまえば「人間のように物体を識別して、持ち上げられる」ロボットになる。
アームの先端には伸縮する筒が数本ついていて、掃除機のようにモノを吸い取れるようになっている。
その筒の長さや吸引力の調整で、板状から袋状、筒状のものまで、アマゾンが扱う数百種類の商品を持ち上げられる。
見た目はSparrowに似ているが、ベルトコンベアから流れてくる箱をピックアップできる「Robin」。
撮影:小林優多郎
単にモノを持ち上げるだけなら「Robin(ロビン)」や「Cardinal(カーディナル)」といった既存のロボットアームでもある程度は対処できる。
Sparrowの真骨頂は「モノを識別できる」ところにある。センサーやカメラから得た情報を機械学習で処理して認識している。一連の処理はロボット自体(エッジ)と、中央サーバー(クラウド)のハイブリッドで行われている。
モノを識別できると、前述のように持ち上げられるものが多くなる。さらには、「ごちゃごちゃした中身の箱から正確に目的のものを取る」といった精密な作業も可能になる。
物流の大きな課題の1つで、人力作業による部分が大きい「荷物のピッキング」から作業員を解放するという意味で注目すべき技術と言えそうだ。
まさにコンピュータービジョンと機械学習技術、そしてロボティクスを合わせ持ったロボットアームというわけだ。
商品棚を運ぶ縁の下の力持ち「ドライブ」
BOS27でズラッと並ぶ運搬ロボット「ドライブ」。
撮影:小林優多郎
アマゾンの倉庫(フルフィルメントセンター、以下FC)ではさまざまなロボットが働いているが、日本の一部の拠点でも活躍するものが青いボディーが目印の「ドライブ」だ。
ドライブは「ポッド」と呼ばれる商品の入った棚を運ぶロボットだ。
BOS27ではドライブそのものの「製造」も行われていた。
撮影:小林優多郎
FCでは入荷した商品がポッドに入った状態で保管されており、システムによって、どのポッドにどの商品が入っているかが管理されている。
ポッドに人間のスタッフが商品を入れる時と注文があって商品を出す際、この青いマシン(ドライブ)がスタッフがいる場所までポッドを持ってくる仕組みだ。
ドライブは床の2次元コードで自分の位置や方向を把握している。
撮影:小林優多郎
ドライブが動く床にはレールなどはないが、代わりに2次元コードが一定間隔に貼り付けられている。
ドライブはこのコードを読み取りつつ、他のポッドやドライブにぶつからないように最短ルートで目的の場所まで移動する。
昔ながらの倉庫だと「人間(もしくはロボット)が商品のある棚まで行く」ことが当たり前だが、アマゾンの場合はこのドライブによって「目的の棚の方が来る」状態になっているわけだ。
国内でも、ロボットによる棚移動の仕組みは、職人工具のECベンチャー、モノタロウも最新の倉庫などで取り入れている。
人と共生するために生まれた「プロテウス」
6月に公表されたばかりの「プロテウス」。
撮影:小林優多郎
ドライブやスパローは基本的には安全面からも人間とは別のエリアで働くロボットだ。
効率性の面からも、人とロボットは別々な場所で働く方が衝突などのイレギュラーが発生しなくて済むという面もある。
しかし、これは「人がいるエリアにはロボットが置けない、使えない」ということと同義でもある。
プロテウスは緑色で、さらに「顔」のような愛嬌がある。
撮影:小林優多郎
それを解決するのが6月に発表されたばかりで、既にアメリカ国内の一部の拠点で導入済みのロボット「Proteus(プロテウス)」だ。
プロテウスはアマゾン初の、倉庫で働く完全自律型のロボットで、周囲の環境を認識できる。
かんたんに言えば、ドライブにはないセンサーやエッジで処理する機能を搭載しているので、近くに人がいたら自動で止まることができ、床に貼った2次元コードの数も減らせる。運搬ロボットが働ける場所の柔軟性を拡張する。
見た目はドライブと似ているが、ボディーの色が緑色であることで識別できる。また正面をよく見るとLEDライトなどで「顔」のような形になっている。
インタビューに応じるAmazon Roboticsのバイスプレジデントのスコット・ドレッサー(Scott Dresser)氏。
撮影:小林優多郎
この倉庫ロボットらしからぬデザインを採用した理由について、Amazon Roboticsのバイスプレジデントスコット・ドレッサー(Scott Dresser)氏は「ロボットの周りで人々が快適に過ごすため」だとする。
ドレッサー氏によると、プロテウスと従来からあるロボットアームのカーディナルは一緒に働くように設計されているという。
カーディナルは箱詰めをするためのロボットだが、基本的には人のいないエリアで働いている。
青いGoCartsを運ぶプロテウス。
撮影:小林優多郎
プロテウスは「GoCarts(ゴーカート)」と呼ばれる大きなかごを運ぶので、カーディナルが詰めた箱をプロテウスが人のいるエリアを通って運ぶ……といった使い方も可能になるというわけだ。
なお、ドライブもプロテウスも一般消費者からしてみれば、アイロボットのロボット掃除機「ルンバ」に外観が似ている。
アマゾンは8月にアイロボットの買収を発表。ルンバはあくまでも家庭用ロボットではあるが、Amazon Robotics的にも恩恵はあるのかは気になるところだ。
これに対しドレッサー氏は「まだ買収は終わっていない」としつつも、「彼ら(アイロボット)が会社の一員になった暁には、当然ながら彼らとここ(Amazon Robotics)で協力できるかどうかを議論することになるでしょう」と一定の期待感を示した。
(文、撮影・小林優多郎、取材協力・アマゾン)