2022年度第3四半期 決算説明会のアーカイブ映像より、会長兼社長の三木谷浩史氏。
出典:楽天
楽天モバイルにとって2023年は「正念場」になりそうだ(毎年のように言っているが)。
同社は2023年中の黒字化を目標に掲げており、残された時間は1年しかない。
楽天グループが11月11日開いた2022年度3半期決算の資料とその周辺取材から、同社の今後の行く末を考えてみたい。
0円廃止で「36万回線解約」、一方収入は増加へ
楽天モバイルは5月からユーザーの解約が続いていたが、「現在は解約数が落ち着き」としている。
出典:楽天
楽天モバイルは、5月に1GB以下0円を廃止した新料金プラン「Rakuten UN-LIMIT VII」を発表。それ以降、ユーザーの大量流出に歯止めがかからなかった。
実際、第1四半期には約491万契約を獲得していたが、直近のデータ(第3四半期)では約455万となっている。つまり、約36万契約も失った格好だ。
楽天モバイルとしては「利益につながらないゼロ円目的のユーザーをカットしたい」という思惑だったようだが、実際にはゼロ円ユーザーだけでなく、データ通信や電話を使うメイン回線目的のユーザーもかなり流出した可能性が高い。
あるMVNO(格安SIMを提供する仮想移動体通信事業者)幹部は楽天モバイルにまつわるユーザーの動きについて以下のように語る。
「回線維持が目的のゼロ円近い料金プランが増えるかと思ったら、意外と音声付きのプランを求める楽天モバイルユーザーがやってきた。
楽天モバイルが5月に発表した直後だけでなく、10月以降も堅調にユーザーが増えている」
また、NTTドコモの井伊基之社長も「エコノミーMVNOが伸びると思ったら、意外とahamoのユーザーが増えた」とコメントしている。
お金を支払ってくれるユーザーを含めて36万もの契約者を失ったのは、楽天モバイルにとって相当、痛手だろうが「膿を出し切った」と割り切るしかない。
ARPUも変わりつつある。
出典:楽天
直近のデータでは解約ラッシュは落ち着き、11月は純増数も上向いてきているという。
実際のところ、キャッシュバックやポイント付与など、新料金プランへの移行に向けたキャンペーンが終わり、すべてのユーザーが課金対象となった。
これにより、ユーザーは最低でも毎月1078円を支払うようになることで収益構造が一気に改善する。
実際に今回初めて公開されたARPU(加入者1人あたりの平均収入単価)を見ると、2021年第3四半期は453円だったのが、2022年第3四半期には1472円まで上昇している。
ようやくゼロ円プランが完全終了したことで、ARPUは一気に改善されることになりそうだ。
KDDIへのローミング接続料は縮小傾向
グループ全体の収益を見るとやはり、モバイル事業が足を引っ張っている形になる。
出典:楽天
楽天グループ全体で見ると、2022年1~9月期連結決算は、純損益が2580億円の赤字(前年同期は1039億円の赤字)であり、設備投資がかさみ赤字体質の楽天モバイルが足を引っ張っているのは間違いない。
楽天モバイルとしての赤字要因はもうひとつ、KDDIへのローミング接続料支払いもあるのだが、こちらも自社エリアが拡大することで縮小する方向にあるようだ。
矢澤俊介社長は「エリアマップを見ればローミングが郊外に集中していることがわかる。今後、1万局のオンエアを見込んでいる」として自社エリア拡大に自信を見せる。
KDDIへのローミング料金の支払いは減少している。
出典:楽天
実際、2022年9月には全国5万基地局の設置を完了。人口カバー率は97.9%を達成している。
楽天モバイルによると、人口カバー率の高い東京23区では楽天モバイルへの申し込み率が10.1%に達しているという。
人口カバー率が上がれば、それだけユーザーの獲得状況も改善する傾向が見られるようで、新規契約者の獲得という面においても人口カバー率の向上が不可欠だ。
楽天モバイルを救う「プラチナバンド」と「5G」
楽天は2024年以降を目標にプラチナバンドの導入を目指す。
出典:楽天
そんななか、総務省でのタスクフォースにより、楽天モバイルにとって悲願であったプラチナバンドの獲得に目処がついた。
NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが持つプラチナバンドの一部を楽天モバイルに再割り当てするという算段が決まろうとしている。
これにより、楽天モバイルは2024年3月からプラチナバンドによるサービスを提供できるようになる。
実際、ビルの中などでは電波の浸透はかなり弱い。また、山間部などでエリア展開するには1.7GHz帯だけでは効率的とは言えず、遠くまでよく飛び、ビル内にも浸透するプラチナバンドが不可欠なのだ。
タスクフォースの議論の末、2024年3月からプラチナバンドによるサービスを、楽天モバイルが費用を負担することなく始められるようになる。
議論では「(全国展開は)10年間をかけて」というタイムスパンであったが、総務省の報告書では「5年間」という区切りが示された。
楽天モバイルが工事費用を負担しない。
出典:楽天
5年未満での全国展開も、楽天モバイルが工事費用を負担すれば可能だ。
プラチナバンドは楽天モバイルの「完全勝利」
だが、矢澤俊介社長は「そうした措置は使わない」として、楽天モバイルが工事費用を負担することなく、5年をかけて徐々に全国展開が可能となった。
既存3社の抵抗は必至だが、楽天モバイルの完全勝利と言えるだろう。
プラチナバンドが始まるまで1年4カ月ほど待つ必要があるが、その間に楽天モバイルがやれることと言えば、5Gエリアの拡大だ。
現在、4Gエリアのユーザーにおけるデータ使用量は平均15.3GBであり、通信料収入は1612円となっている。
しかし、5Gが充実する大阪エリアを見るとデータ使用量が21.3GB、通信料収入は2013円に跳ね上がる。
大阪エリアのARPUの成長幅。
出典:楽天
つまり、5Gエリアを拡大させることが、収入増に直結するというわけだ。
現在、4G基地局は5万局を超えたところだが、5G対応基地局は6440局(2022年9月時点)しかない。楽天モバイルとしては、いかに5G基地局を拡大するかが収益確保のカギとなっているのだ。
キラー端末なき時代、楽天の戦い方
かつて、ソフトバンクがボーダフォンを買収したときは、「ホワイトプラン」という圧倒的に安い料金プランで戦ったものの苦戦を強いられてきた。
その後、iPhoneというキラー端末を独占的に扱い、さらにプラチナバンドが手に入ったことで、NTTドコモとKDDIを打ち負かすことができた。
今ではかつてのiPhoneのような「このデバイスが欲しいからキャリアを変える」といったようなキラー端末は皆無だ。
楽天モバイルとしては他社からユーザーを獲得するだけの目玉端末などがないだけに、まずは2023年中の黒字化に向けて地道に5Gエリアを広げていくしかないようだ。