「完全栄養食」をうたうパンやパスタを販売するベースフードが15日、東証グロース市場に上場する。
成長を握るサブスク会員の獲得や海外展開、大手食品会社の参入など、気になる今後について橋本舜CEOに聞いた。
初値は公募価格を下回る710円、終値は702円だった(追記11月15日17:30)。
来年のほうが景気が良い保証はない
ベースフードの橋本舜CEO。東大を卒業後、DeNAに入社。2016年にベースフードを創業した。
撮影:竹下郁子
ベースフードの公募価格は、想定発行価格の950円を下回る800円。直近2022年1月の資金調達(第三者割当)時の944円からもダウンラウンドでの上場となった。
それでも公募価格に基づく想定時価総額が400億円超と、注目のIPOだ。このタイミングでのIPO(新規株式公開)についてベースフードの橋本舜CEOは、
「直近の資金調達から想定価格を決めるまで、そしてその後から今までもマーケットは相当激しく動いていて、そこ(株価)に関しては我々の預かり知らぬところだと思っています。
来年が今より良いという保証もありませんし、マーケットの状況に我々の事業の順番が左右されるものでもありません。成長資金を得て飛躍するタイミングが今あるということです」(橋本さん)
と話す。
売上高は前期比3.6倍
BASE FOODシリーズの累計販売袋数の推移。22年6月に5000万個を突破した。
出典:ベースフード 社目論見書より
ベースフードは主力商品である「BASE BREAD」に代表される、26種のビタミンやミネラル、 たんぱく質、 食物繊維などが豊富に含まれた「完全栄養食」の「主食」を開発している。
自社EC(D2C)に加え、Amazonや楽天、ヤフーなどの他社ECプラットフォーム、そして2021年にドラッグストア、翌2022年にはコンビニエンスストアと、卸業者を経由した小売店での販売も開始した。
こうした販路の拡大もあってか、2022年2月期の売上高は55億4500万円と、前期比で約3.6倍を記録。2022年3月〜8月期の売上高45億8000万円に占める各販売チャネルごとの売上高は、自社ECが30億1000万円、コンビニなどの卸売が9億1000万円、他社ECが6億6000万円と、自社ECが群を抜いて多い。
コンビニエンスストアに設けられたベースフードコーナー。
撮影:竹下郁子
その自社ECの売上高の69.2%とほぼ7割を占める(2022年2月期)のが、定期購入だ。2022年8月末時点でのサブスクリプション会員数は13万7000人。これをどれだけ伸ばしていけるかが、ベースフード成長の鍵を握ると言える。
「55億円の売り上げは、『健康をあたりまえに』という会社のビジョンミッションを考えると小さい。ここが天井だとは全く思っていません。
何年までにというのは言いずらいのですが、まずはサブスク会員100万人を目指しています。その先の1000万人も不可能ではないと。そのためにも商品をよりおいしくして、種類を増やすことが重要です」(橋本さん)
今回のIPOで調達した資金は、商品の「R&D(研究開発)にしっかり投資していく」という。
豪華なオフィスより社員への還元を
渋谷区にあるR&Dの拠点。最寄駅から遠い住宅街に位置する。現在は本社機能のほとんどを担うという。
撮影:竹下郁子
ベースフードといえば本社が目黒区の一軒家であることなど、そのコストカット意識でも話題を集めた。
「ライフスタイルの会社なので、会社も社員も健康じゃなきゃ意味がない。良い商品を作るためにも、いわゆるオフィスビルではなく、キッチンがあって食卓を囲める環境が職場にあることが重要だと思っています。
リモートワークの社員が多いことや地方に住む社員のことを考えると、オフィスに過度にコストをかけるのは公平性の観点からも違うのではないかと」(橋本さん)
渋谷区の拠点にあるキッチン。この横にはラボがあり、研究員がパンをこねていた。
撮影:竹下郁子
一方で驚くのは社員の待遇の良さだ。
従業員数87人に対し、賞与を含めた正社員及び契約社員の平均年収は約860万円。ストックオプション(新株予約権)も9.4%を発行しており、広く社員に還元する思想が伺える報酬体系だ。
「スタートアップに入社する社員は、一定のリスクを負ってくれています。それに見合うリスクを会社も取らないといけない。それがフェアバリューだと」(橋本さん)
中国・アメリカ進出も視野に
橋本さんが一番好きなのはBASE BREADのミニ食パンだそう。
撮影:竹下郁子
研究開発に加えて、広告宣伝にも引き続き注力していく。
2016年の創業以来、赤字が続くベースフード。2022年2月期は純損失が4億6000万円だった。その要因の1つとして挙げられるのが、新規の顧客獲得を狙ったオンライン広告やテレビCMなどの広告宣伝費による支出が膨らんだことだ。
2023年2月期には前期比84%増の102億円の売上高を見込むが、赤字も9億3000万円と広がる見通しを示している。
「売上成長が飛躍的に大きいことを考えると、広告宣伝費のコストは今後も一定続きます。顧客獲得のために初めに宣伝費がかかったとしても、それで1年間サブスクを継続していただければ良い。
単月や四半期では表層的に赤字として表れますが、定期購読が売上の主であるというビジネス構造に目を向けていただればと思います」(橋本さん)
海外での展開も計画中だ。2022年5月に香港で販売を開始しており、2023年以降には中国へも進出予定だ。コロナ禍で一旦中止したアメリカにも再チャレンジしたいという。
「日本で人気の美味しくて健康的なパンは、アジアですごくヒキになるんです。反応は正直、日本より良いくらいで。アメリカもコロナ以外の理由で撤退したわけじゃないので、またしっかりやっていきます」(橋本さん)
大手の参入、どう闘う?
日清食品も完全栄養食の開発に注力している。
出典:日清食品
「完全栄養食」には日本の大手企業も参入している。
中でも日清食品はカレーやかつ丼、担々麺などベースフードとは異なる「ガツンと」した味覚のラインナップを揃えている。現在も約300種類のメニューを開発中だ。
「スタートアップを起業して競合が1社もないなんてあり得ません。完全栄養食が大手企業も本気を出すようなマーケットになったというフェーズはずっと前、ベースフードが年商10億円くらいの時期に過ぎています。
それでも我々は大きく成長した。なので今後もやることは変わりません。一番好きなパン屋さんの一番おいしいパンよりもBASE BREADがおいしいと思ってもらえるよう、テクノロジーを活用しながら挑戦し続けます」(橋本さん)
(文・竹下郁子)