破綻したFTXのCEO、サム・バンクマン-フリード。
FTX
11月11日に米連邦破産法第11条の適用を申請した仮想通貨取引所FTXは今、混乱のただなかにある。CEOのサム・バンクマン-フリードは同日付けで辞任し、FTX USは出金を停止した。
FTXは、NBAのマイアミ・ヒートと1億3500万ドル(約189億円、1ドル=140円換算)で19年間のスポンサー契約を結ぶなど、著名人、アスリート、インフルエンサーを起用することで注目を集めてきた。
だがFTX破綻のニュースを受けて、有料プロモーションやアフィリエイトで同社を宣伝してきたインフルエンサーたちが、ファンに謝罪する事態に陥っている。
その一人が、資産管理系のユーチューバー、グラハム・ステファンだ。ステファンは11月10日に「Let's talk about FTX(FTXについての話をしよう)」と題する動画を公開し、410万人にのぼるフォロワーに向けて次のように語った。
「僕は与えられた情報を信用していたが、間違っていた。申し訳ない。彼ら(FTX)を信頼していたが、その親会社がすべてのリスクを公表していなかったんだ。その結果がこれだ。こうなることはまったく予想していなかった」
ステファンはYouTubeクリエイターとして、予算管理や投資といった金融関連の動画を制作し、収益を挙げている。FTX USのことは自身のYouTubeチャンネルで定期的に取り上げ、ファンにもこのプラットフォームを推していた。
ステファンはInsiderの取材に対し、メールで次のように回答した。
「FTX USとの契約は契約終了前に解消しました。この状況は誰にとっても非常に残念なことです。僕の視聴者のためにも、今は一歩引いて、前進するためにどのような改善が必要なのか、再考しているところです」
ステファンはこれまで、YouTubeで金融に関するアドバイスを共有することで熱心なファン層を築いてきた。投資や貯蓄に関する彼の動画の再生回数は数百万回にのぼる。だが、視聴者がクリエイターに対して具体的なアドバイスを求めるような場合、インフルエンサーとファンの間のパラソーシャル関係は一筋縄ではいかなくなることがある。
ある視聴者は謝罪動画にこんなコメントを寄せている。
「この動画を待ってた。あなたは動画やポッドキャストでFTXをさんざん推してたよね。隠し立てしないつもりなら、この(FTXとの)パートナー契約とか他のプラットフォームからいくらもらってたのか言ってほしい」
FTX USとの関係性や現在の状況について語った動画を公開したのは、ステファンに限らない。コイン・ビューロー(同200万人)、マイノリティ・マインドセット(同100万人)、マックス・マーハー(登録者数90万5000人)、トム・ナッシュ(同28万5000人)といったクリエイターも同様の動画を公開している。
マーハーは「FTX: The Truth(FTXの真実)」と題した動画を11月11日に公開し、「FTX USとの過去のいかなる関係も深く後悔している」と述べている。
「僕ら個人個人が、世界最大の企業を疑う必要があるなんてバカげてる。でも、現に今、僕らはそうせざるを得ない。僕のプラットフォームは、すべてにおいて信頼と徹底したリサーチのもとに成り立っている。今後、僕が動画で誰かを紹介するときには絶対、これまで以上に慎重になります」
FTXのトラブル以前から、この業界の危うさを感じていたインフルエンサーもいた。Insiderの取材に応じた資産管理系インフルエンサー3人は、仮想通貨取引所の宣伝はずっと手控えてきたという。
YouTubeチャンネル「Budget Girl」を運営するサラ・ウィルソンは次のようにコメントを寄せている。
「私自身は純粋に投機的な『ギャンブル』投資として少額(の仮想通貨)を持っていますが、しっかりした財政基盤があって、そのお金を失うリスクを受け入れられる視聴者でなければ、そういうものに投資することはお勧めしません。それに、広告案件だとスポンサーの意向もあるので、こういったことは伝えづらくなるんです」
また、匿名で取材に応じたインフルエンサー(登録者数約100万人)は、市場の規制が未整備なためFTX USなどの仮想通貨取引所との案件は断っているという。
登録者数2万1000人のYouTubeチャンネルを運営するクリス・ノーランドは、資産管理系のクリエイターが仮想通貨やNFTを推していることを批判する動画を公開している。ノーランドはInsiderの取材に対し、ユーチューバーは視聴者の年齢層や影響のされやすさを考慮しなければならないと語る。
「自分が傷つけている人たちのことを考えてみてほしい。長期的な視点を持って行動したい、(視聴者と)永遠に続く関係を築きたいと思うはずだ」
なお本稿の執筆あたりFTX、マーハー、コイン・ビューロー、ナッシュ、マイノリティ・マインドセットに対してもコメントを求めたが、回答は得られなかった。
(編集・常盤亜由子)