無料のメールマガジンに登録

平日17時にBusiness Insider Japanのメルマガをお届け。利用規約を確認


プーチンの胸中は。部分動員令が「ロシア経済」に与えた打撃の重さ

プーチン大統領

モスクワで行われた軍事パレードに出席するプーチン大統領。

Mikhail Metzel, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が9月21日に発令した部分動員令に基づく予備役の招集が10月28日、終了した。

約30万人のロシア国民が、この部分動員令で徴兵されたとも報道されている

また部分動員令とは別に、11月1日から定例の秋の徴兵が開始された。18歳から27歳の男性12万人が対象となり、部分動員令の発令の影響で例年よりも1カ月遅れての開始となる。そもそもロシアでは徴兵逃れが横行していたが、ウクライナとの戦いが膠着化するなか、ロシアの若者男性のどの程度が、秋の定例の徴兵に応じるか定かではない。

部分動員令がロシア経済に打撃を与える理由

疑問なのは、「ロシアの部分動員令は、ロシア経済にどのような打撃を与えたかということだ

部分動員令の発令によって、ロシア国民はいつ何時、徴兵されるかもしれないリスクを抱えている。このことで、ロシアの家計と企業のマインドは萎縮してしまうことが考えられる。

また、部分動員令を受けて多くの働き盛りの人や若者がロシア国外に脱出したようだ。地元メディアが報じたところによれば、首都モスクワ市の男性職員の3分の1近くが、部分動員令の発令から1カ月近くで国外に逃れたという。ロシアの隣国であるジョージアには、多くのロシア人の若者が詰めかけているという。

つまり、「マインドの委縮」と国民の国外脱出による「人手不足」という二つの経路を通じて、部分動員令はロシアの経済に悪影響を与えたと考えられるわけだ。

統計データから確認するロシア経済の現状

るスターズ・コーヒーのロゴ

ロシアのモスクワで8月18日に再開したコーヒーショップの窓にあるスターズ・コーヒーのロゴ。

AP Photo/Dmitry Serebryakov

以下では、直近の月次指標の内容から、部分動員令の経済への影響を考察してみたい。公表されているデータの信ぴょう性はどの程度なのかという問題があるものの、経済の動きをある程度はつかむことができる。

まずロシアの9月の月次実質GDP(国内総生産)を確認すると、前年比5.0%減と、前月(同4.0%減)から減少幅が拡大した。それまで月次実質GDPは6月の同4.9%減をボトムに減少幅を縮小させていたことから、9月に入って減少幅が拡大したことは、ロシアの景気が9月になって再び悪化したことを意味している。

次に企業の生産指標を見ていく。

9月のロシアの製造業生産は前年比4.0%減と、8月(同0.8%減)から減少幅が拡大した(図1)。内訳を見ると、自動車が前年比51.8%減と前月(同42.9%減)から減少幅を再び拡大させたほか、一般機械が同6.8%減、電子部品が同4.5%減とそれぞれ再び前年割れになるなど、工業品の不調が目立つ。

グラフ

不調な工業品とは対照的に、食品(同1.8%増)や飲料(同4.1%増)、アパレル(同5.6%増)などの日常品は、前年比プラスを維持している。工業品の悪化のうち、いったいどの程度が部分動員令の影響を受けたものなのか、定かではない。とはいえ、部分動員令以外には、生産の追加的な下振れショックになった要因は特に考えられない。

さらに家計の消費動向を確認しよう。9月の小売売上高は、前年比9.8%減と2カ月連続で減少幅を拡大させた。注目したいのが、非食品店の売上高が同15.0%減と前月(同14.0%減)から減少幅を拡大させたことだ。このことからは、先行き不透明感の高まりから日常品以外の消費を手控えようとする家計の行動が読み取れる。

日常品以外の消費の弱さは、国内最大の金融機関であるズベルバンクの調査会社であるズベルインデックスが公表する週次の消費支出の動きなどからもうかがい知れる。もちろん、プーチン大統領は部分動員令が景気も悪影響を与えたことを認めていない。しかし、ロシア中銀は報告書の中で、9月末に景気が悪化したことを認めている。

再び高まるインフレの足音。プーチンは止められるのか

プーチン大統領

2022年11月4日、ロシア・モスクワ中心部の赤の広場で、ロシアの「民族統一の日」の植花式に出席するウラジミール・プーチン大統領。

Sputnik/Grigory Sysoyev/Pool via REUTERS

物価の動きにも変化が出ている。

ロシアの前年比の消費者物価上昇率は4月の+17.8%をピークに、最新10月は+12.6%まで低下した。現段階でロシア中銀は、ロシアの前年比の消費者物価上昇率が年末時点で12〜13%になると見込んでいるようだ。10月の水準は+12.6%であるため、10月時点の水準は中銀の想定の範囲内である。

しかし前月比の消費者物価上昇率は、9月が+0.05%、10月が+0.18%と緩やかに拡大している(図2)。それに、インフレ期待(家計や企業が予想する将来のインフレの程度のこと)も着実に高まっている。ロシア中銀が10月末に公表した家計のインフレ期待調査によると、10月の家計の期待インフレ率は+12.8%と、3カ月連続で上昇した。

graph00

同様に企業の期待インフレ率も、10月は+17.4%と2カ月連続で拡大している。

部分動員令の影響は、インフレ期待の高まりにも及んだと考えられる。このように、前月比の消費者物価上昇率や家計・企業のインフレ期待の動きに鑑みれば、ロシアのインフレは今後も減速しないどころか、むしろ加速する展開も視野に入る状況だ。

ウクライナ侵攻後に20%まで引き上げられたロシアの政策金利は、インフレの鈍化で7.5%まで引き下げられた。しかし今後インフレが加速すれば、ロシア中銀はインフレ期待を鎮めるため、再び利上げをせざるを得ないだろう。しかし利上げをすれば景気はさらに悪化するため、プーチン大統領にとって受け入れがたい展開となる。

部分動員令はロシア経済をさらに悪化させる

ロシアがウクライナに軍事侵攻をしたのは2月24日だ。それから9カ月余りが経過したが、事態に収束の兆しは見えてこない。ロシアの国民の多くは、ウクライナ侵攻に自らが駆り出されるとは考えていなかったと考えられる。

いつ何時、召集されるかもしれないリスクに直面すれば、家計や企業のマインドは改善など望めず、ロシアの経済活動は萎縮したままの状態が続くことになる。それに、国外に脱出した若者がロシアに帰国する展望も描けない。部分動員令の発令は、ただでさえ悪化していたロシアの経済を、さらに一段と悪化させるものになったといえる。

今後も戦争が続けば、ロシアは軍需品の生産を優先せざるを得なくなる。そうなれば日常品の生産は後回しになり、モノ不足の問題に拍車がかかるはずだ。徴兵が強化されるなどして人手が不足することによって、生活に必要なサービスの提供も滞ると考えられる。

戦争が続けば続くほど、ロシア国民の生活は厳しさを増すことになる。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・土田陽介

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み