オレゴン州ポートランドにある「PDXコモンズ」の住民。
PDX Commons
- アメリカでは、高齢者施設に入居する代わりにコハウジング・コミュニティ(Cohousing Community)を作る人たちが増えている。
- コハウジングはそれぞれの住人が区画を所有し、共用スペースをシェアする暮らし方だ。
- 実際にこうした共同生活を送っている人たちは、コハウジングが社会的孤立を防ぎ、自分らしい生活を送る助けになっていると話している。
ワシントン州ポート・タウンセンド郊外の高齢者が多く暮らす地域に住んでいたキャロライン・サルモンさん(82)と夫は、自分たちがコミュニティの一部だと感じたことはなかった。
「基本的にご近所さんと会ったことがありませんでした」とサルモンさんはInsiderに語った。
「月に一度、夕食を共にする小さなグループはありましたが、その人たちとも食事会以外ではほとんど付き合いがありませんでした」
ただ、それも2014年までのことだった。サルモンさん夫妻と8人の高齢者たちは55歳以上の人たちのための「カンペール・ビレッジ」というコハウジング・コミュニティをポート・タウンセンドに作り始めた。彼らは3エーカー(約1万2000平方メートル)近い土地を購入し、28区画からなるコミュニティの建設資金を援助した。コミュニティは2017年に完成し、サルモンさん夫妻はコミュニティ内に1300平方フィート(約120平方メートル)の家を約40万ドル(約5700万円)で購入した。
同世代の人々とのコハウジング・コミュニティでの暮らしを選択する高齢者は、サルモンさん夫妻だけではない。
カンペール・ビレッジはポート・タウンセンドの郊外にある、自治集合住宅コミュニティだ。公式サイトによると、住民は造園・園芸から財務計画まで、コミュニティ内のさまざまな事柄に取り組む複数の「チーム」のいずれかに所属し、活動している。敷地内にはボッチャのコートやアートスタジオといった施設もあり、その管理も住民がしているという。
キャロライン・サルモンさん。
Carolyn Salmon
コハウジングは1960年代にデンマークで生まれた生活形態の1つで、住民は自分の家を持つか借りるかしつつ、洗濯機や共同キッチンといった設備を備えた共同住宅を隣人と共有する。
サルモンさんたちがカンペール・ビレッジを作ろうと決めたのは、この地域では伝統的な高齢者向け住宅の選択肢が少なく、近くに食料品店がない家も多かったからだと話している。
「コミュニティや親しい関係を維持するのは、必ずしも簡単なことではありません」
「ですが、この場所のおかげでわたしたちは車をあまり運転せずに済むし、友情を築くこともできています」
業界の進化を示す「コハウジング」
ノースカロライナ大学の研究者が運営している情報サイトによると、アメリカでは2005年以降、高齢者向けコハウジング・コミュニティが17カ所生まれ、6カ所が開発中だという。
非営利団体National Investment Center for Seniors Housing & Care(NIC)によると、アメリカでは伝統的な高齢者向け住宅にかかる費用が史上最も高い水準にあり、こうした住宅の入居率や建設活動は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック前の水準を下回っているという。
「高齢者向け住宅の業界は進化しています」とNICのシニア・エコノミストであるベス・メイス氏はInsiderに語った。
「コロナ禍で起きたことも影響していますが、開発業者はこの世代が求めているものをしっかり把握しようとしています」
より自分らしい暮らしを求めて
企業経営コンサルタントとして働いてきたバーバラ・チェイスさん(71)は、その仕事ぶりで同僚やクライアントから尊敬を得ていたが、自分はレズビアンであるという事実を隠さなければならないと常に感じていたという。
チェイスさんは2020年に引退し、ノースカロライナ州ローリーの郊外にあるLGBTQの高齢者と55歳以上のLGBTQを支援するアライのためのコハウジング・コミュニティ「ビレッジ・ハース」に引っ越した。チェイスさんは1150平方フィート(約107平方メートル)の区画を38万5000ドルで購入したと話している。
バーバラ・チェイスさん。
Barbara Chase
チェイスさんはここへ引っ越してきたことで、より自分らしい暮らしが送れるようになったという。全米高齢者虐待問題研究所(NCEA)によると、アメリカでは支援の選択肢が少ないと感じている高齢者が増えているが、こうした企業型の高齢者向け住宅事業を避けることにもつながったと、チェイスさんは話している。
「引退の時が近付いてきて、わたしは『人生の最後の時間を隠し事をしたまま過ごしたくない』と思ったんです」とチェイスさんはInsiderに語った。
「わたしにとって、自分を受け入れてくれて、自分の尊厳や自尊心を保つことを助けてくれる人たちに囲まれて暮らすことはとても大切なことなのです」
チェイスさんはより伝統的な高齢者向け住宅の選択肢も検討したが、近くにチェイスさんが望むような"活動的な"場所はなかった。ビレッジ・ハースでは建物などの維持・管理から食事会の開催まで、住民があらゆる責任を担っているのだという。
「お互いがどう接していくか、わたしたちは集団的な意思決定をともに下します。それが本当のコミュニティです」
社会的孤立の防止にもつながる「コハウジング」
カレン・アーデさん(70)がオレゴン州ポートランドにあるPDXコモンズに引っ越してきたのは2018年、長年勤めてきた家庭医の仕事を引退した後のことだ。公式サイトによると、27区画あるこのコミュニティでは住民の少なくとも80%が55歳以上に、残りの20%以下が55歳未満になるよう定めている。
カレン・アーデさん。
Karen Erde
アーデさんがPDXコモンズに引っ越したのは、ここが自分と同世代の人々に囲まれて暮らせる、自分より若い世代とルームシェアをしなくて済むポートランドで唯一のコハウジング・コミュニティだったからだという。ベルモント図書館やローレルハースト公園、ウォルグリーン(Walgreen)といった薬局も徒歩圏内だ。アーデさんは1065平方フィート(約99平方メートル)の区画を58万5000ドルで購入したと話している。
「子どもも好きですし、わたし自身、3人の子どもを育てました」とアーデさんはInsiderに語った。
「ただ、この年齢になって他の誰かの子どもを育てることには興味がないんです」
アーデさんはもともと内向的な性格だが、PDXコモンズでの生活が自分をより社交的にしてくれたと話している。アーデさんはPDXコモンズの広報を担うコミュニケーション委員会の委員長を務めている。他にも、住民のパソコントラブルの解決を手伝ったり、PDXコモンズに住んでいる元医療関係者たちと協力して、独自のCOVID-19のガイドラインを策定したという。
常に助けてくれる人がそばにいるということも、励みになっているとアーデさんは話している。2014年にひざの手術を受けた時は、友人や家族に車で20~30分かけて彼女のポートランドの自宅を訪れ、料理や掃除を手伝ってもらわなければならなかった。今なら同じようなことが起きても、PDXコモンズの近くの区画に住んでいる友人たちが協力してくれるという。
「いろいろなアクティビティがあったり、交流が盛んな高齢者向け施設は他にもありますが、彼らが一緒に生活したいと心から望んでいるようには感じられませんでした」とアーデさんは話している。