グーグルのサンダー・ピチャイCEO。
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オンラインマーケターのニール・パテル(Neil Patel)は、何週間か前にあることに気づいた。自身が追跡しているウェブサイトの一部で、アクセス数が大きく減少していたのだ。中には70%も減少していたものもあった。
これらのウェブサイトは、パテル自身が作り、AIが生成した記事を掲載していたテストページだった。アクセス数が減少したのは、グーグル(Google)の検索アルゴリズムが2022年10月にアップデートされた直後のタイミングだった。
このアップデートは、スパムを検索結果から排除するためのものだ。グーグルはこれに先立つ2022年8月には、「役に立たない」と判断したコンテンツのランクを下げることを狙ったアップデートも行っていた。
パテルは今回のアップデートについて、グーグルはついにボットやボットがAIで生成したコンテンツの排除に着手した、とブログに書いている。
ウェブのトラフィックに関しては、検索エンジン最適化の専門家たちが、グーグルが検索アルゴリズムに加えるどんな些細な変更にも目を光らせている。それを分析し、検索結果を上位に表示させる方法をクライアントに伝えるためだ。
いずれウェブ上はAI生成コンテンツで溢れる
今回のグーグルのアップデートはウェブに及ぼす影響が大きいため、ウェブトラフィックの関係者の間でもかなりの議論を巻き起こしている。AIが生成したコンテンツをグーグルが本当に排除しようとしているのであれば、それは今後コンテンツ作成が向かっていく方向に逆行する動きになりうるからだ。グーグルにとっても、AIで作成されたコンテンツをどれだけ検知できるかが試されることになりそうだ。
専門家らは、ウェブの世界がAIで作成されたコンテンツに完全に席巻されるとまではいかなくても、近い将来、AIの力を借りて作られたコンテンツで溢れ返ることになると見ている。
グーグルからの流入に頼っているウェブサイトは、ますますAIに頼ってコンテンツを作成するようになりつつある。何百もの製品の宣伝文句を掲載するeコマースのウェブサイトでは、とりわけその傾向が強い。AI技術を用いてさまざまな商品の宣伝文句を作り、グーグル検索で上位にランクされるようにすれば、コピーライターに依頼する費用を削減できるからだ。
この傾向はウェブの未来に大きな影響を与える可能性があると、テック企業の幹部や検索エンジンの専門家は言う。スタートアップ企業が開発したオープンAI(OpenAI)のGPT-3技術などを使ったAIで作られた文書は、現時点ですでに人間が読んでもAIによって書かれたとは気づかないほどの領域に達している。
もし、グーグルがこのまま何もしなければ、グーグル検索を通して人々が訪れるページの大部分が、AIのみによって執筆されたコンテンツで埋め尽くされる日が来るかもしれない。
「AIには、今までの検索のあり方を変える可能性があります」と話すのは、以前グーグルの広告部門で上級副社長を務め、その後検索スタートアップのニーヴァ(Neeva)を共同創業したスリダール・ラマスワミ(Sridhar Ramaswamy)だ。ドメインやそのページへのリンクなど、グーグルが質を判断するために用いていた指標は、「今後ますます意味をなさなくなるでしょう」とラマスワミは語る。
「役に立たないコンテンツの表示を抑えるため」
AI生成コンテンツについて、グーグルの担当者らは現在のところ、はっきりと排除する姿勢は見せていない。グーグルの検索関連の広報担当者であるダニー・サリバンはInsiderに対し、グーグルがこのほど行った検索エンジンのアップデートは、AIを用いて作成されたページのランクを下げるのが目的ではなく、むしろアルゴリズムを悪用しようとして作成されたページを排除することが主な目的だったと述べる。
「当社のシステムは、コンテンツがどのように作成されたかではなく、どれほど有用なコンテンツであるかに注目しています。こうすることで、人間が作成したものであれ自動生成されたものであれ、役に立たないいかなる種類のコンテンツも表示を極力抑えつつ、質の高い検索結果を提供しているのです」(サリバン)
しかし技術が進歩し、AIによるコンテンツ作成がより一般的になるにつれて、グーグルはますますこの問題に踏み込んで対処しなければならなくなるだろう。
グーグルは検索ガイドラインにおいて、専門性、権威、信頼度などの項目を考慮に入れてページのランク付けを行っているとしている。例えば、ユーザーが「信用スコアを上げる方法」と検索した場合、グーグルは財務アドバイスについてのコンテンツを長年にわたり掲載してきたサイトを上位に表示する。この質問に対して同様の回答を載せているウェブサイトであっても、それが新しいウェブサイトであれば、上位には表示されないということになるのだ。
また、ライターが、グーグルのアルゴリズムに合った方法でAIを使い、人間味のある有益コンテンツを作成したとしても、それにそっくりな記事が大量に作られてしまう可能性がある。AIは、検索エンジン最適化を考慮して執筆内容を微調整することができるので、結果的に内容も質も類似した記事が大量に出回る可能性がある、とオンラインマーケターでブロガーのマイク・キング(Mike King)は言う。
「誰でも完璧な記事を作成できるようになるなら、グーグルはどれを上位に表示するか、どうやって決めるんでしょうね」(キング)
たとえグーグルがAI生成コンテンツのランクを下げようとしたとしても、AI技術は日々洗練されてきており、判定が困難になる可能性もある。次世代のコンテンツ作成のAIは質も向上し、アルゴリズムにとっても人間が作成したテキストとの区別はより難しくなるだろう。
今のところ、まだグーグルに分がある。このAIの競争においては、一般に販売されている技術とは比較にならないほどグーグルの社内技術は洗練されているからだ。AIコンテンツ企業のマーケットミューズ(MarketMuse)で最高戦略責任者を務めるジェフ・コイル(Jeff Coyle)によると、この差がある間は、AIで作られたテキストの検出においてもグーグルが有利な状態が続くという。
もしAIによって検索の質が大きく損われる可能性があるとグーグルが考えるなら、責められるべきはグーグル自身である。グーグルは、AIの研究開発を支える最大手の1つで、グーグルよりもAI技術の進歩に貢献している企業は、業界を見渡してもほとんど存在しない。
「グーグルがこのような懸念を持たなければならないということだけでも皮肉なことです。この問題を生み出したのは本来、他ならぬグーグルなわけですから」(キング)
(編集・大門小百合)