タイミーCEO・小川嶺氏に今回の資金調達の背景や使い道を聞いた。
撮影:横山耕太郎
「飲食や観光のアルバイトニーズが急激に回復してきており、最近では物価高から会社員が副業で使うケースも増えている。急激に成長しているこのタイミングで、他サービスに圧倒的な差をつけたい」(タイミーCEO・小川嶺氏)
すきま時間バイトのマッチングサービス・タイミーが2022年11月16日、183億円の資金調達を発表した。
2021年9月にはシリーズDとして53億円を調達しており、サービス開始から4年で調達額は合計273億円になった。
みずほ銀行や、三菱UFJ銀行、りそな銀行など8つの金融機関から借り入れる。スタートアップが金融機関から融資を受ける額としては異例の規模。
スタートアップの株価が低迷し、資金調達が難しい「スタートアップ冬の時代」と言われるが、どのように大型の調達を成功させたのか?
CEOとCFOに聞いた。
1%未満という低金利で調達
「4年目のスタートアップで、大企業並みの条件で資金を集められた。これはタイミーの成長していることが認められた結果」
タイミーの八木CFO。今回、金融機関からの調達を成功させた。
撮影:横山耕太郎
タイミーCFO・八木智昭氏はそう強調する。
八木氏は2008年に新卒で三菱UFJ銀行に入行。その後、三菱モルガン・スタンレー証券で上場・非上場企業のIPOやM&Aを担当し、スタートアップ企業・アペルザを経て、2021年4月にCFOに就任した。
そんな八木CFOが、今回の調達のポイントだと語るのは、「金利1%未満・無担保・無保証の融資」による183億円の大型調達という点だ。
一般にスタートアップは、大企業などと比べると信用力が低いため銀行から低金利で多額の資金の借入は難しいとされる。
スタートアップ資金調達の方法としては、新株を発行し、その株を元手にしてべンチャー・キャピタル(VC)や投資家から資金を調達する方法が一般的だ。
スタートアップ冬の時代
タイミー上での募集求人数の推移。コロナで募集が減ったものの、2022年には急激に求人が伸びている。
出典:タイミーのプレスリリース
コロナショック、ロシアのウクライナ侵攻による世界的なエネルギー危機などの市況の悪化を受けて、VCは消極姿勢に転じ、スタートアップは「冬の時代」を迎えている。
タイミーではコロナ禍の2021年9月、シリーズDとして国内外のVCなどから53億円を調達。しかしその後の「冬の時代」を受け、株発行による調達では、株安の影響を受けるため、借入での調達を本格検討し始めたという。
「これまでのバブルとも言える状況では、ファイナンス戦略がなくてもスタートアップは資金調達ができた。それが冬の時代に入り、サービスの成長だけでなく、財務面での戦略が問われるようなった」(八木CFO)
八木CFOは、資金調達を達成できた理由として「銀行との関係構築も効いた」と振り返る。
「銀行にとってはスタートアップが何をしているのかが分かりにくいという意識がある。タイミーに来てからは銀行との接点を増やし、足元の状況と決算書を見せて、2年間かけて関係構築を続けてきた。銀行出身のキャリアが活かせたと思っている」
今回の調達については、小川CEOもこう話す。
「経営陣が大胆な意思決定をするためにも、株の発行ではなく、借入で調達できたことの意味は大きい。今後はスタートアップが借入による調達を増やしていく可能性もあり、いい事例を作れたと思っている」
資金調達で「社員2倍」目指す
タイミーは2022年11月から、橋本環奈さんを起用したテレビCMを全国で放送している。
勢いに乗るタイミーだが、調達した資金の使い道については、人材採用の強化、広告などマーケティング強化、新機能への投資の3つを挙げる。
タイミーの社員は現在約470人だが、小川CEOは「ここからの1年間で社員を今の約2倍に増やしたい。アグレッシブに採用する」と話す。
タイミーは現在も月に30人程度の採用を続けているが、今後もカスタマーサクセスや営業、エンジニアなど幅広い職種を、新卒も含め採用するという。
マーケティング強化については、現在も放映しているテレビCMを含め、サービスの認知度を上げるための投資を拡大する。タイミー上の求人募集人数は、2022年10月時点、前年比4.7倍と急激に成長しているが、今後も前年比2倍以上の成長を目指すという。
「サービスは伸びているものの、競合に勝ち切ったといえる状況ではない。2位3位のサービスに圧倒的な差をつけるため投資したい」(小川CEO)
またIPOについて小川CEOは、「日本を代表するサービスになるための一つのオプションとして考えている。IPOを急いではいないが、然るべきタイミングで検討したい」とした。
コンプライアンスが問われる事態も
オンラインでの取材に応じた小川CEO。
撮影:横山耕太郎
急拡大するタイミーだが、一方でコンプライアンスが問われる事態も続いている。
2021年10月にタイミーCOOに就任した元DeNA社長の守安功氏が、「コンプライアンス規定違反」により就任後半年で退任したほか、タイミー社員がニュースサイト・NewsPickに寄稿していた記事について、画像に著作権侵害の疑いがあるとして記事が削除された。
小川氏は「コメントは控える」とした上で、「今後もガバナンスについては身を引き締めていきたい」とした。
タイミーは日本が直面する人手不足に対して、これまで使われていなかった「すきま時間」を使った新しい働き方を開拓してきた。
ただ日本が抱える課題としては、賃金が上がらない状況が続いている。こうした課題についてタイミーはどう考えているのか?
「働く機会を多く提供することで、働く側がより条件を選べるようになれば、賃上げ交渉にもつながる。タイミーとしては高付加価値のあるサービスになり、単価を上げていくことも重要だと考えている」(小川CEO)
(文・横山耕太郎)
編集部より:画像を一部差し替えました。2022年11月16日11:54