大手テック企業が大規模な解雇計画の実施に踏み切る中、ソーシャルメディアでは行き場のない怒りや悲しみを赤裸々に語る投稿が増えている。
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勤務開始日まであと数日に迫った今年5月、突如レイオフを告げる電話を受けたステファニー(29歳、プライバシー保護のためフルネームは伏せる)は、ビジネス特化型ソーシャルメディアのリンクトイン(LinkedIn)にその理不尽な体験を投稿した。
ステファニーは4月に人材派遣会社マインドランス(Mindlance)を通じて、メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)でリクルーターのスケジュール調整を担当する契約社員のオファー(内定)を受けた。
ところが、その数日後にメタが採用凍結を発表したのと時を同じくして、彼女の契約も取り消されたのだ。
間もなく、ステファニーはリンクトインに投稿してレイオフをめぐる自らの体験を詳細に語り、再就職に向けてソーシャルメディアで自分とつながる知人友人たちにアピールした。
それは予想外の反響を生んだ。
「自分ではバズるなんて思ってもいませんでした。ざっくり考えていたのは、失業した自分に残されたリソースと言えばリンクトインを通じて築いてきたネットワークくらいなので、何とかそれを活用しようということです。
投稿は思いがけず一夜にして爆発的に拡散し、あっという間に500万ビューを超え、それがきっかけで良いこともたくさん起きました。私に次の一歩を踏み出すチャンスを与えようと、手を差し伸べてくれた人たちがいたのです」(ステファニー)
メタのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)は、採用凍結から数カ月が経った11月9日、1万1000人を超える従業員の解雇計画を発表した。
同社だけでなく、ツイッター(Twitter)やリフト(Lyft)、ストライプ(Stripe)など多くの大手テック企業も経済の不確実性が広がる中でレイオフに乗り出しており、その影響は業界全体で数千人、数万人に及ぼうとしている。
解雇の対象となり、行き場のない怒りや悲しみを抱える従業員たちの間では、リンクトインやツイッター、ティックトック(TikTok)などのソーシャルメディアを通じて、それぞれの経験を共有するのが一種のトレンドになっている。
ステファニーも解雇された数多くの従業員の一人として、自らの体験談に「#Metalayoff」のようなハッシュタグを付けてリンクトインに投稿した。
メタ・プラットフォームズ(Meta Platforms)の契約リクルーター、ステファニーがリンクトイン(LinkedIn)に投稿した内容のスクリーンショット。
Sawdah Bhaimiya
そうしたネガティブで個人的な内容を投稿することは、とりわけソーシャルメディアが日々の充実した生活ぶりや大きな仕事の成果、きらびやかな人脈を自慢をする場として使われている実態を考えると、直感的に理解しがたい振る舞いであるように思われるかもしれない。
しかし、仏HEC経営大学院(HEC Paris)のアンドレアス・ランツ助教によれば、リンクトインを通じて解雇された経験を語ることで、人材を求める企業と求職者の「マッチングメカニズム」が機能するため、実際には非常に有益な取り組みなのだという。
ランツ助教は過去の研究発表(2021年6月)で「影響の回廊(Influence Corridors)」理論に言及している。
「自らのネットワークを活用することは、二次的なつながりをアクティベート(有効化)するのに大いに役立つことが判明しています」
つまり、リンクトインのネットワークを通じて就職先を探している事実を公表することで、普段はさほど接点のない「友人の友人」関係が有用性をもって機能し始めるというわけだ。
しかも、友人の友人というのは意外なもので、直接の友人のように身近な人たちより力になってくれる場合がある。
実際、ステファニーのアプローチは共感と支持を集めることに成功し、結果として彼女に良い展開をもたらした。アマゾン(Amazon)やティックトック(TikTok)、リフト(Lyft)、ディズニー(Disney)など錚々(そうそう)たる企業の面接を受けるチャンスにつながった。
ただし、リンクトインに体験談を投稿さえすれば、何かのチャンスがやって来てキャリアの挫折から立ち直れるというわけではない。
以下では、いくつかの注意点、コツのようなものを紹介しよう。
【1】どんな助力が必要なのか明確にし、リーチを最大化する
リンクトインに解雇の体験談を投稿するなら、ただの不満のはけ口にしてはいけない。
ランツ助教は戦略的な投稿の必要性を強調する。具体的に言えば、投稿を読んだ知人友人があなたのために何ができるか分かるよう、「どんな助力が必要なのかを、投稿の中に明確に盛り込む」ことが第一歩となる。
また、「リーチの最大化」を意識すべきとランツ助教は語る。
「職探しにせよ、ビジネスチャンスの獲得にせよ、あるいはスタートアップの資金調達にせよ、他人に助言を求めるのがまずは大事と言われます。
なので、解雇の体験談を書き込むだけではなく、一対一でアドバイスをくれる人からのアクションが欲しい旨を加えたり、より多くのリーチを得られるようコメントを残したり、あなたの能力を求めている人にメッセージが届くようにします」
ランツ助教によれば、具体的な行動を呼びかけることで人々は投稿にコメントしやすくなるし、ひとたびコメントすれば投稿への関心もより長く持続するという。
「リンクトインがあなたの投稿をプッシュしてくれるのは、他のユーザーからの関心が継続的に寄せられている場合だけで、そうでない場合は、関心が一気にピークに達してすぐに薄れるので、ピークの前後しか注目してもらえません。
一番良いのは、あなたもコメントを通じて積極的に他のユーザーとの交流を深め、それゆえにあなた自身やあなたの投稿への注目が集まり、結果として刹那的なピークの前後だけでなく関心が持続する展開です」
【2】経歴や過去の実績をアピールする
解雇された後で気丈かつ楽観的に振る舞うのは簡単なことではないが、それでも何でもポジティブなトーンの投稿を続けることでチャンスは広がる。
この場合のポジティブには、(解雇された企業も含めて)前職への感謝の気持ちを示すこと、そしてその仕事を通じて得られた成長を強調することまで含まれる。
ランツ助教はこう語る。
「過去にあなたが与えてもらったすべての機会を強調し、感謝の気持ちを示し、それからあなたがそこから学んだ洞察と教訓を糧に次のキャリアへと進みたい、という流れの投稿が望ましいでしょう」
【3】体験談は語っても、悪口は言わない
解雇はもちろん辛く苦しい体験に違いないが、だからと言ってソーシャルメディアで勤務先を批判してしまうと、そこから先の人生はより困難なものになる恐れがある。
ランツ助教によれば、将来の雇用主がその投稿を目にする可能性があり、あなたを採用する際のリスクとみなされる恐れもあるという。
「次にあなたを雇用する企業もまた、(一度は解雇対象となり、その体験を投稿した人物という)リスクを負ってまで採用する価値はあるのか、という判断を迫られるのです。そう考えると、悪口は絶対に避けるべきです。
一緒にいて楽しく、どのような理由であれ退職した後も同僚を非難しないような人物を迎え入れたいと思うのは当然ではないでしょうか」
【4】「友人の友人」関係をアクティベートする
ランツ助教は、ソーシャルメディアの活用を通じて二次的なつながりにある人たちに関心を持ってもらうことの重要性を強調する。「リーチを最大化」して「友人の友人」関係をアクティベート(有効化)し、アクションを起こしてもらえるよう、投稿を工夫する必要があるという。
「新しい仕事を得たり、新しいビジネスを生み出したりするチャンスは、実はそうしたつながりの薄い関係から生まれてくるものなのです」
また、リンクトインをアクティブに活用していて、かつ幅広い仕事のネットワークを持つ友人に、自分の投稿をシェアしてもらうのも良い方法だ。
人々の注目を集めるハッシュタグの使用もぜひ検討したい。ステファニーが投稿にハッシュタグ「#metalayoffs」を付けたのは、投稿が拡散される上で有効だったとランツ助教は指摘する。
【5】心の傷つきやすさは信頼性を高める
とりわけ求職に関する投稿は、感情的になり過ぎないのが賢明だと考える人が多いのではないか。しかし、ランツ助教の見方は逆で、「個人的な面を出せば出すほど良い結果につながる」。
ランツ助教によれば、ステファニーの投稿は傷ついた人間の生の声を伝えた例であり、それこそが人々の共感を呼び起こしたのだという。
「一定程度の感情表現は重要だと思います。なぜなら、それはあなたが必死であることを示し、信頼できる人間だという証しにもなるからです。
あなたは解雇されたばかりで、そんな時だからこそ、あなたの友人や、友人の友人たちが何とか助けてあげたいと思いもするのです。そうした状況では、感情的になることは必ずしも悪いことではありません。
残る問題は、そのような感情をどのような手段で伝えるか、ということです」
ランツ助教の言うところの「一定程度」のさじ加減は非常に大事で、自らのプライバシーを犠牲にするほど感情的になるのはさすがにやり過ぎだ。
現実に、ステファニーの投稿が拡散され話題となったことにはデメリットもあった。投稿の内容に対する批判が高まったのだ。
ステファニーが使ったハッシュタグ「#metalayoffs」は、文字通りメタによるレイオフに関連した投稿であることを示すが、彼女は正確にはメタから直接解雇されたわけではなく、同社の採用を代行する人材紹介会社の契約社員として解雇されたのであって、話が違うとの指摘だった。
ステファニーはInsiderに対し、批判の中には単なるいじめとしか思えないものも少なからずあり、人種差別な中傷も受けたと語った。
ランツ助教は次のように警鐘を鳴らす。
「より多くのフォロワーを獲得し、より多くの交流をしようと思うと、その分だけ自分がどんな人間かをさらすことになりがちですが、それは深刻な代償を伴う可能性のある行為でもあります。誰もが積極的にコントロールすべきトレードオフの問題と言えるでしょう」
結果として、ステファニーの場合はリンクトインでオープンに語ったことで、1カ月足らずで新しい採用関連の仕事を得られた。彼女はこう振り返る。
「解雇された後、ただうずくまって何もせず、みじめな気持ちで嘆き続け、いつまでも打ちひしがれたままでいることもできたはずです。でも、私はそれとは違う道を選び、その選択が私を良い方向に導いてくれました」
(編集:川村力)