2時間映画に耐えられない…倍速視聴で変わるコンテンツ消費のあり方【入山章栄・音声付】

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Kaspars Grinvalds/Shutterstock

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

YouTubeやTikTokなど短尺のコンテンツを見慣れてくると、集中力が以前ほど続かなくなってきたと感じる人も少なくないのではないでしょうか。「人類はいま、新たな情報伝達革命のさなかにいる」と喝破する入山先生が、倍速視聴によって変わるコンテンツ消費のあり方を展望します。

【音声版の試聴はこちら】(再生時間:10分56秒)※クリックすると音声が流れます


長時間の集中が苦痛

こんにちは、入山章栄です。

僕も大好きな『ONE PIECE』の劇場版『ONE PIECE FILM RED』が公開になりました。僕はまだ観ていないのですが、BIJ編集部の野田さんは観ましたか?


BIJ編集部・野田さんの写真

BIJ編集部・野田

僕もまだですが、先日、友人たちとその話になりました。そのとき興味深かったのが、「映画館で観てよかった」という意見が多かったことです。

つまり、途中はちょっと退屈したけれど、最後は本当に感動した。もしこれが家で観ていたら、途中でスマホを見てしまって集中力が削がれ、結末まで観なかったに違いない。でも映画館で観たおかげで、終盤の深い感動を味わえたのだと。

僕自身も近ごろは長いコンテンツに耐えられなくなった自覚があるのですが、これって僕らの世代に特有の現象なのでしょうか?


なるほど。ちなみにBusiness Insider Japan編集部の常盤さんやライターの長山さんはどうでしょうか?


BIJ編集部・常盤さんの写真

BIJ編集部・常盤

私は耐えられますよ。旧世代だからかも(笑)。でも「中だるみだな」と思うと早送りしたい衝動に駆られるし、そうすることもあるので、野田くんの言うことにも共感します。


ライター・長山さんの写真

ライター・長山

私は映画を観ていて「つまらないな」と思っても、「ここを耐えるといいことがあるかもしれない」と思って我慢する癖がついてますね。


野田さんの質問は、人間が長いコンテンツに耐えられなくなってきているのではないかということですね。

これは発達心理学か神経科学の問題でもありますよね。僕は門外漢ですから本当はちゃんと調べないといけないことですが、僕の聞きかじりの知識と経験で言うと、「そもそも人間は年齢が低いほど長いコンテンツに耐えられない」という理解なんです。

僕がアメリカの大学の学部生相手に教えていたとき、当時の指導教官(=すなわち大学教育の先輩)からアドバイスされたことがあります。

「アキエ、MBAをとりにきている大学院生と違って学部生は“キッズ”(=子ども)だから、『セサミストリート』のような授業をしないと飽きられるよ」

セサミストリート

みんな大好き「セサミストリート」。番組は子どもたちを飽きさせない工夫が凝らされている。

Ritu Manoj Jethani / Shutterstock.com

「セサミストリート」はご存知の方がほとんどかと思います。エルモとかビッグバードとかが出てくる、あれですね。このような幼児番組は一つひとつのコーナーがとても短い。一つのコンテンツは1分ぐらいで終わって、次々と別のコンテンツに移ります。指導教官は、あれを見習えというわけです。

僕はそのアドバイスを受け入れて、それからの授業では、ちょっとビジネスの話を短くしたら、今後はみんなでディスカッションをし、さらに今度は動画を見たらケーススタディを解説し、また動画を見て、今度は理論的な解説をする、というように授業のスタイルに細かく変化をつけるようにしました。

つまり人間は大人になればなるほど、「長いコンテンツに耐えることで何かプラスがあるかもしれない」と考えられるようになる。だから2時間の映画も観られる。でも子どもは違う、ということです。そういう意味では、大学の学部生はまだ大人になりかけでキッズなのだから、子どもの部分を意識して、細かくコンテンツを変えないとすぐに飽きられる、ということなわけです。

だからたぶん常盤さんも、若いときは野田さんと同じように長いものに耐えられなかったはずです。ただ我々はもう大人になっているから、長いものを見たり、楽しんだりする価値が分かっている。野田さんの世代ももっと大人になれば、それが分かるのかもしれません。

短尺動画に慣れてしまった人たち

ところがここで大きな問題が出てきました。

それは、YouTubeやTikTokなどで短いコンテンツを小刻みに視聴する習慣が、大人にもつき始めたことです。

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