イーロン・マスクが10月27日に買収して以来、ツイッターでは混乱が続いている。
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イーロン・マスクは2022年10月27日にツイッターを買収して以来、推定3200人のフルタイム従業員と、少なくとも同数程度の契約社員を解雇した。ツイッター従業員はこの予想外の事態に、今後ツイッターの機能を維持できるかどうか、もはや確信が持てなくなっているという。
3人の現役従業員と3人の元従業員がInsiderに語ったところによると、今回の大幅な人員削減により、解雇を免れたスタッフに仕事が集中し、プロジェクトを完了したり助っ人を探したりするために奔走しているという。Insiderが確認したツイッターのSlack上でのプライベートメッセージも、この状況を物語っている。
関係者によると、エンジニアリングやコンテンツモデレーションといった重要業務を担うスタッフが減っており、特にFIFAワールドカップのような大規模イベントの開催中に利用者が増えても機能を保てるのか、懸念が高まっている。マスクによる買収以降、ツイッターのダウンロード数と利用回数は急増している。
マスクが買収する前に退職を決めたツイッターの元エンジニアは、「中核的なサービスを担ってきたスタッフが解雇されてしまったので、問題が起きたら復旧には以前より時間がかかるでしょうね」と語る。
解雇されたあるプログラムマネジャーは、現役の同僚から頻繁に助けを求められる状況に「心配だし混乱するしで、どうしていいか分からない」と話す。かつての同僚に泣きつかれずにすむようにと、通知をオフにしたという者もいる。
「同僚を助けたいのはやまやまだけど、会社のためにただ働きする義務はもうないしね」(元エンジニア)
なお、ツイッターの広報担当者にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
ツイッターはすでに緊張状態にある
ツイッターにとって大きな試練となるのが、2022年11月20日(現地時間)に開幕するFIFAワールドカップだ。1カ月間続くこのイベントの視聴者数は30億人を超え、それに合わせツイッターの利用は増える。
2014年のワールドカップでは、1分あたりのツイート数が過去最高を記録し、現在の平均ツイート数(1分あたり約35万ツイート)の倍に達した。ワールドカップのハッシュタグが付いたツイートのビューは1150億回にのぼり、その年のワールドカップのファンダムと試合のライブ中継において「非常に大きな役割」を果たした、とツイッター社は胸を張った。
カタールで開催される2022年のワールドカップでは、汚職や人権侵害の告発が多数あり、ツイッター上でもさらなる議論が巻き起こる可能性がある。
2014年のFIFAワールドカップを盛り上げたドイツ代表チーム。
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サイト運営に不可欠なサービスを担うスタッフも含め人員が削減された現状では、ワールドカップのようなイベントに対応するのは容易なことではないだろう。
ここ数週間で多くの人が解雇されたり辞めたりしたため、24時間体制で重要サービスを提供する「オンコール」シフトに入れる人が減っている、と現従業員は言う。その結果、重要サービスを担う従業員は現在の仕事量を減らすために、必死で他部門のスタッフを教育しようとしている。
ある現従業員は「何らかの障害は間違いなく発生する」と言い、別の者は「正直な話、実際にクラッシュするまで何がクラッシュするか分からない」と言っている。マスクによる買収前に辞めた元従業員は、本当に必要なスタッフが削減されるということは「サイト利用率が高くなった時の需要に合わせてインフラを拡張することが難しくなるということ」だと話す。
ツイッターにこんな書き込みをした現従業員もいる。
「少なくとも障害発生からしばらくの間は、残った仲間たちは仕事を続けられるだろうね」
ツイッターの機能にはすでに、細かな問題が生じている。ツイートへの「いいね!」が付かない、通知が表示されない、フィードが常時更新される、または正しく更新されないなどの苦情がユーザーから寄せられているのだ。
サイト解析を行えるSimilarWebのデータによると、マスクが初めて大量解雇を行った2日後の2022年11月6日から、ツイッターのヘルプページの閲覧者数が大幅に増え始め、初めて300万人を超えた。ヘルプページ閲覧者数は、11月10日には330万人に達した。
また、11月中旬になって多くのユーザーから、アカウントのセキュリティ保護ツールとしてしばしば推奨される2段階認証も機能しなくなったとの報告が寄せられている。ある現従業員によれば、これはツイッターの多くの「マイクロサービス」をオフにするとのマスクの11月14日の決定の影響だという。マスクはツイッターへの投稿で、マイクロサービスを「肥大化したソフトウェア」と呼び、サイト運営の維持に必要なのはそのうち20%に過ぎないと主張した。
多数あるマイクロサービスを担当するエンジニアはマスクのこの主張に反論し、マイクロサービスを80%も停止したら「数日以内に大規模障害が発生しかねない」と話す。
失われた「基礎知識」
今回の解雇により、ツイッターではプライバシー、セキュリティ、ITインフラなどを担当するエンジニアが大幅に減らされた。その多くが所属していたグループ(社内では「レッドバード(赤い鳥)」と呼ばれている)は今や解体されたも同然だ、と元従業員は語る。また最近では、ツイッターの情報セキュリティ最高責任者、プライバシー最高責任者、コンプライアンス最高責任者が一夜にして全員辞任した。
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マスクもさすがに、主要メンバーがこれほど多くいなくなるのは問題だと、ある程度は認識しているようだ。
Insiderの既報の通り、解雇を免れた一般従業員に対し、ツイッターのアプリや各種メディア機能に携わっていたエンジニアなどを中心に、解雇された元同僚をうまく呼び戻すようにという指示が出された。
しかし、マスクが引っかき回している今の職場に戻ってくれと説得するのは難しい、と2人の現従業員は語る。戻ってきたからといって、再びクビにならない保証はないのだ。一方、解雇を免れた人の多くは「(転職の)準備をしたり面接を受けたりしているのは間違いない」とある現従業員は言う。
現在、ツイッターのフルタイム従業員はおよそ4000人にまで減っている。多くが解雇されたり辞めたりしたため、多くの「基礎知識」や「各国政府、法的機関、ブランドとの関係」が失われてしまったと元従業員は語る。
この元従業員によれば、信頼・安全に関わるチームは「エンジニアもエージェントも全員いなくなってしまったが、運営管理業務に携わるスタッフはまだ残っている」と言う。彼らはこの状況を戦争になぞらえ、「軍を滅ぼす」ために「事務処理担当者は全員温存している」と指摘する。
(編集・大門小百合)