流し台をサンフランシスコのツイッター本社に運ぶイーロン・マスク。
Elon Musk/Twitter
アマゾン、メタ、マイクロソフト、ツイッターなど、数多くのテック企業が不況を背景に、1000人から1万人規模の従業員を一時解雇している。
メタのマーク・ザッカーバーグCEOは1万1000人の従業員をレイオフする計画を発表し、アマゾンも1万人規模の一時解雇を計画していると報じられた。ツイッターはイーロン・マスクによる買収後、3700人前後の従業員をレイオフした。どれもコスト削減が目的だ。
こうした企業の多くは、テック業界が勢いづいていた時期に競合らしい競合もいない中で事業を展開し、多額の資金を調達して上場した上で、数多くの人材を採用してきた。
だが、「そうやって築いた輝かしいブランドイメージは、今回の人員削減で傷つくことになるでしょうね」と、ソフトウェア企業ヴィーム(Veeam)で最高技術責任者(CTO)を務めるダニー・アランは言う。
「どこどこのテック企業が従業員を大幅削減したとニュースで見れば、私はそれを忘れません。従業員や求職者だって、不況時に企業が何をやったかを覚えているもんですよ」
今回の大規模な人員削減の原因の1つには、テック企業が成長期に後先考えず過剰に人員を採用していたこともあると、契約自動化プラットフォームのジュロ(Juro)のリチャード・メイビーCEOは言う。
「全ての事例がそうとは言いませんが、過去数年で潤沢な資金に甘えて採用しすぎた過ちを、今になって修正しているように見えます」とメイビーは言う。
だが大規模な人員削減は、たとえ財務面では合理的な判断でも、企業の評判に傷をつけ、長期的な成長を妨げるおそれがある。「単純な話、イノベーションが失われ、リソース不足に陥る可能性があります」と、前出のアランは指摘する。
「だって、未来の技術への投資が減ってしまうし、現在の従業員や求職者に対して、『ウチは従業員よりお金を大切にする企業ですよ』というメッセージを伝えることになるわけでしょう」(アラン)
メイビーも、特定のチームでやみくもに人員削減を行えば、そのチームの担当分野の成長が鈍り、今後の収益に悪影響が出ると話す。人員削減は「短期的には経費の節約になっても、中期的には痛みをもたらす」のだ。
「反イーロン流出」はすでに始まっている
Justin Sullivan/Getty Images
実際、ツイッターではすでにその影響が出ている。11月上旬に大量の人員削減に踏み切った同社だが、その後解雇を免れたマネジャーは、どのエンジニアを雇い戻したいかを検討するよう伝えられたという。
これを受けてツイッターではまずエンジニアリングとインフラのチームを再建しようとしたものの、 Insiderの既報の通り 、復職を打診した5人のうち関心を示したのは1人だけで、それ以外の4人は拒否したという。
テック企業は、人員と経費を冷徹に削減するというやり方に頼るのではなく、ロイヤリティの高い従業員の流出を防ぎ、才能ある人材を育てることに注力すべきなのかもしれない。
「人材は企業の強さの源泉。企業は人によって成り立っている」とアランは言う。
「テクノロジーを生み出すのも人だということを忘れてはいけません。どんな企業であっても、いかに有能な人材を抱えているかが長期的かつ持続可能な差別化要因になるのですから」(アラン)
解雇するにも「誠実さ」が一番大事
もちろん、解雇は企業にとってコスト削減の大事な手段だ。だがやるにしても、そこに臨む態度こそが最も重要だ。
メイビーは「徹底的な」誠実さこそが最高のアプローチだと言う。もし人員削減が避けられないなら、従業員の立場に立ってコミュニケーションすることが極めて重要だと話す。
「解雇される当人の痛みに比べれば、企業やCEOにとってのつらさなんて屁でもないでしょう。解雇が従業員にとってどれほどの苦痛であるかを理解するところから、まず始めなければなりません」(メイビー)
加えて、メイビーの会社では従業員に常日頃からキャッシュの収支を公開しているという。こうすれば従業員も会社が現在何に支出しているのかが分かり、「厳しい状況に陥ったとしても、背景を把握しやすくなる」という。
アランは、もし解雇するならば、従業員が満足のいく転職先探しを支援すべきだとも指摘する。
「私だって、やむにやまれず従業員を解雇する時はありますし、これほどつらい仕事はありません。従業員にはそれぞれの人生があるし、家族がいる。何より、彼らの生活は会社からの給料で成り立っているんだってことを、僕たち経営陣は理解しないといけない。だからこそ、解雇をするにしても、できうるかぎりの支援をすべきだと思っています」(アラン)
[原文:The tech firms laying off hordes of staff right now will regret it, experts say]
(編集・野田翔)