NHKがネトフリ抗議の真意…急ぎすぎた「広告プラン」で浮上する大きな課題

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REUTERS/Bing Guan/File Photo

11月4日にスタートした、ネットフリックスの広告つきプラン「広告つきベーシック」について多くの業界関係者が懸念していた騒動が持ち上がった。

11月16日、共同通信はNHKがネットフリックスに対して配信停止を要求したと報じた。

ネットフリックス上で配信されるNHKの番組に広告が表示されることについて、NHK側が抗議したのだ。開始前からそうした観測記事は出ていたが、NHKが実際に動いた形だ。

各社への取材から、この背景を分析する。

NHKのネトフリへの申し出は「事実」

共同通信などの報道は事実なのか?

NHK広報は「遺憾の意と厳重な抗議を伝え、配信停止を申し入れたのは事実」と答える。

「ネットフリックス側に説明を求め、対応を協議してきたが、4日に開始されたネットフリックスの新しいプランはNHKが想定していたものと大きく異なっており、これほどの大きな変更であれば、十分な時間的余裕を持って説明すべきであり、概要の説明がサービス開始直前であったことについては大変遺憾」

とNHK広報は回答している。

ネットフリックスが広告プランを準備している、という話は2022年春頃から伝わっていた。しかし、ネットフリックス側の準備がかなり短期間のものであり、サービスの「正式な説明」が権利者に対して直前になって行われた、というのは複数の業界関係者から聞こえている。

その点が、NHKにとっても「急すぎる」「想定と違う」内容だった、ということが、今回の申し入れにつながっていそうだ。

NHK「広告が入っていること自体が問題なのではない」

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撮影:今村拓馬

今回の件については、「CMが入らないはずのNHKの番組に、ネットフリックスでは広告が入っている」ことが問題だという声もある。

だが、実際にはそれは少し変な話なのだ。

NHKから番組を民放や衛星放送などへの番組提供事業者に供給(番組外販)する場合、CMが入ることがなかったわけではない。

実のところNHK側も「広告が入っていること自体が問題なのではない」(NHK広報)とする。

ではなにが問題なのか?

NHKは放送法のもと、インターネット事業に制限を課せられている。

公共放送として、受信料をベースに運営されているからだ。その内容はNHKインターネット活用業務実施基準として、「放送法第20条第2項第2号および第3号の業務」に定められている。

では、今回の問題はどこに抵触するのか? NHK側は「第35条 3項の1と4に抵触する可能性がある」と説明する。

NHKインターネット活用業務実施基準

資料「NHKインターネット活用業務実施基準」より。赤線を引いた部分が、今回の広告プラン開始にあたって懸念があるとNHKが主張する項目だ。

撮影:Business Insider Japan

具体的には、

  • 協会の性格、使命、ブランドを損なうおそれがあるとき
  • サービスの利用者に、協会が特定の商品やサービスを推奨しているとの誤認や広告収入を目的に行うサービスにあっては当該広告を協会が行うものとの誤認を生じさせるおそれがあるとき

に提供しない、という条項が該当する、ということだ。

言い換えれば「NHKがその広告が入っているものを推奨している」「NHKがそこから広告収入を得ている」と誤解させる内容だとまずい、ということなのだろう。

「特定の番組が問題」でもなく、「今後の配信への影響」もない……?

ここで疑問が浮かぶ。具体的に「どの番組」が問題なのだろうか?

NHKは、

「特定のやり取りについてのコメントは避ける」「特定の番組を指しての話ではなく、今すぐに抵触すると判断しているわけではない。このままの状態が続くと抵触する可能性がある」(NHK広報)

と話す。

また、具体的に停止の予定が決まっているのか、という問いについては、「先方にお願いすること。我々が一方的に止めるわけにはいかない」とする。

ここからわかるのは、すぐに停止というわけではなく、「ネットフリックス側が停止に同意した場合には止める」ということであり、別の言い方をすれば「状況が改善されれば停止されない」ということでもある。

また、今後NHKから提供される可能性があるコンテンツについて、コンテンツ自体の提供の停止などが計画されているのか、という点についても「特に今後について話は出ていない」(NHK広報)という。

問題の本質は「ネット配信時代のNHKの位置付け」

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出典:ネットフリックス

モヤモヤする話なのだが、実際NHKの番組がネットフリックスで一切見られないような処理が行われるのか。その点については、どうも「止まることはない」ようだ。

ネットフリックス広報は、今回の件について以下のようにコメントした。

「ネットフリックスのサービス上におけるNHK作品の広告表示について、NHKと合意しておりました。その後、改めてNHKから協議の申し入れを受け、一時的に広告表示を停止しております。なお、ネットフリックスは今後も前向きな協議を続けることを求めてまいります」

「広告つきベーシック」には、「広告を入れない」処理をしたコンテンツがある。具体的に言えば、13歳以下の子ども向けコンテンツは、サービス開始以降、そうした処理になっている。

NHKからのコンテンツについては同じ処理が行われ、11月16日夜から、順次「CMが入らない」形になっていくという。

※編集部が確認したところでは、11月16日午後2時時点ではNHK配信の連続テレビ小説「半分、青い。」に広告挿入があった。午後6時30分時点では広告が入らなくなっている

ネットフリックスの「広告つきベーシック」は、広告費を番組提供者と分け合うレベニューシェアモデル「ではない」。

広告を営業し、広告を入れ、広告収入を得るのはあくまでネットフリックス側で、番組提供者(NHKなど)は所定のコンテンツ利用料を得る形だ。

だとすると、前述の懸念は確かに「消費者から見た懸念」にあたるものの、ビジネス上問題があるわけではない。

一方、民間放送局から見ると潤沢な予算を背景につくられたNHK品質のコンテンツが番組外販されていくのは「民業圧迫」と見える側面はあるだろう。放送法でルールが規定されているのはそのためなのだ。

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撮影:今村拓馬

寺田稔総務相は11月11日、閣議後の会見で、ネットフリックスのNHK提供番組に広告が入ることについて、「NHK側がまずは説明責任を果たしていただきたい」と述べている。

このコメントへの対応として改めて申し入れをしたのではないか……とも思えてくる。

問題の本質は結局、放送法におけるNHKの位置付けが、ネット配信以降の状況に対応できていると思えない点にある。

NHKに似た位置付けにある英BBCは、いろいろな事業者へどんどん番組外販を行なっている。NHKはそこで、今の「ネット配信は放送と別枠」というルールを維持し続けられるのだろうか。

今回の話は、「外資のルール押し付け」に矮小化される話とは、ちょっと違うように思うのだ。

(文・西田宗千佳)

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