イーロン・マスクは従業員が長時間仕事に専念することを望んでいるが……。
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イーロン・マスクは11月16日、ツイッター(Twitter)の従業員に新たな期待を込めてメールを送った。メッセージの要点は、ツイートに収まるほどの短さだった。「自らの仕事に自分を縛るか、永久に仕事から身を引くか」との主張だ。
10月27日にツイッターのオーナーになったマスクは、メールに「我々は極めてハードコアな働き手である必要がある」と書いた。そして、11月17日の夕方までに新しい条件に同意するよう従業員に促し、同意しない場合は3カ月分の退職金を支給するということを伝えたのだ。
ツイッターの関係者によると、17日の時点で、残りの約4000人の社員のうち半分以下しか会社に残る選択をしなかったという。
多くの社員が会社に残る選択をしなかったことは、マスクと彼の移行チームにとっては想定外だったと別の関係者は言う。ツイッターに残るべきだと働きかけられた社員たちは、昇給を提示されたわけでもなく、マスクがツイッターに描くビジョンをワクワクするものとして受け止めるべきだと言われたという。
このマスクのメッセージは、そもそも驚くほどのものではないのかもしれない。メールを出したのは、一部のスタッフに週84時間労働を命じ、社員を半分に削減した張本人でもあるのだから。
ただこのメールは、アメリカ企業が「理想的な労働者」、つまり人生で何より仕事を優先させる人に重きを置いていることを示す極端な例でもある。ある調査によると、多くの従業員が自分のキャリアを傷つけないため、この固定観念に沿って働くことにプレッシャーを感じているという。たとえそれが「24時間働くふり」をすることだったとしてもだ。
マスクほどあからさまではないが、実は他の雇用主もマスクと似たような要求をしている。
一部の業界では、パンデミックのために在宅勤務を何年か続けた従業員がオフィスに出社する必要があるかどうかをめぐり、上司と従業員の間で綱引きが繰り広げられている。さらに、テック企業のレイオフが行われる中で、「静かな退職(必要以上に一生懸命働くのをやめること)」をめぐる論争に強いプレッシャーを感じている労働者もいる。
仕事へのこだわりをたびたびアピールするマスク
マスクはメールの中で、「ハードコア」な仕事への移行は「長時間、高い集中力で働くことを意味する。そして、優れたパフォーマンスのみが評価される」と書いている(メールの全文はこちらを参照)。
スペースX(SpaceX)とテスラ(Tesla)のCEO で億万長者のマスクは、時折仕事へのこだわりを誇示する。11月14日には「組織が固まるまで」ツイッターの本社で寝泊まりするつもりだとツイートした(その後このツイートは削除されている)。14日に行われたG20サミットでのオンラインインタビューでも、マスクはこう語っている。
「私は朝から晩まで、週7日間、自分ができる限り最大限の仕事をしている」
2018年には、マスクはニューヨーク・タイムズに、テスラでの激動の1年間について「3~4日間、工場から一歩も出ず、缶詰めになったこともあった」と語っている。 その結果、自分の子どもたちに会うのを犠牲にせざるを得ないことも多かったという。
2018年にはこんなツイートをしている。
「(テスラより)ずっと働きやすい場所は多くあるが、週40時間で世界を変えた者はいない」
常に仕事ができるよう従業員に圧力をかける雇用主
組織はしばしば従業員に「理想的な労働者」になるよう圧力をかける、と言うのはマクマスター大学デグルート・ビジネススクールのエリン・リード教授と、ハーバード・ビジネススクールのラクシュミ・ラマラジャン准教授だ。
彼らは2016年のハーバード・ビジネス・レビューへの寄稿の中で、上司やクライアントのニーズにいつでも応えられるのが理想的な従業員であり、「成功するためには、自分も周りもその理想に合わせる必要があると考える人が圧倒的に多い」と指摘している。
しかし、多くの従業員たちはそのような期待に応えられないと感じている。リード教授は2015年の論文で、あるグローバル戦略コンサルティング会社の社員が週80時間働いているように見せかけて、実はそのうちの何時間かは家族と過ごしていたり、仕事以外の他の活動に費やしていたことを明らかにした。
バージニア州の法律事務所ディクソン・ホワイト(Dixon Whyte)の人事担当役員兼雇用弁護士のアイシャ・ホワイトは、パンデミックを経て人々の仕事観が変化しているという。もっとワークライフバランスのとれる仕事を求めて従業員に退職されかねないことを考えると、マスクが週84時間労働を義務付けたのは「ばかげている」と述べた。
とはいえ、マスクはこういったことをすべて承知のうえで気にしていない可能性がある。おそらく彼は、自分の仕事だけに専念できる人か、少なくともそのふりをすることができる人を雇いたいのだろう。
人事コンサルティング会社カディガン・タレント・ベンチャーズ(Cadigan Talent Ventures)を経営するスティーブ・カディガンが以前Insiderに語ったように、マスクは現在のビジネスが「思い通りにいっていない」ため、「ここでフルリセットが必要だ」と言いたいのかもしれない。
[原文:It's not just Elon Musk. Your boss probably wants you to put in 'long hours at high intensity' too.]
(編集・大門小百合)