握手を交わす岸田首相と習近平国家主席
首相官邸Twitterより(Twitter/@kantei)
岸田文雄首相は11月17日夜(日本時間午後8時40分過ぎ)、APEC首脳会合のため訪問中のタイ・バンコクで中国の習近平国家主席と会談した。対面での日中間の首脳会談は2019年12月以来、約3年ぶりとなる。外務省によると、会談時間は約45分だった。
2022年は日中にとって節目の年にあたる。1972年、当時の田中角栄首相と周恩来首相が日中共同声明に調印。両国の国交正常化が実現した。
一方で近年は中国による日本近海への弾道ミサイル発射や中国公船による日本領海への侵入、台湾有事への憂慮など日中間は冷え込みが続いている。
岸田首相は会談の中で、中国による日本近海での軍事的活動に「深刻な懸念」を表明。ウクライナ情勢や北朝鮮の核・ミサイル活動について「役割」を果たすよう求めた。
習氏は10月の中国共産党大会で総書記として異例の3期目に突入。習氏は日中関係について「重要性は変わらない」「新しい時代の要求に相応しい日中関係の構築していきたい」との趣旨を述べたという。
両首脳はどんな内容を話したのか。
REUTERS
台湾情勢をめぐっては、これまでにも習氏は台湾統一の推進と最終的な武力行使の可能性を排除しないことを表明している。一方で、両首脳は偶発的に衝突するなど不測の事態を避けたい考えだ。
会談では「日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの早期運用開始」「日中安保対話等による意思疎通の強化」で一致した。
また、両首脳はウクライナ情勢をめぐり「(ロシアによる核兵器への言及は)極めて憂慮すべき事態」「核兵器を使用してはならず、核戦争を行ってはならない」との見解を共有したという。
外務省は会談後に概要を公開した。外務省の発表をもとに岸田首相から習氏への発言、習氏から岸田首相への発言、両首脳の一致点をまとめた。
岸田首相▶習主席
・昨年10月の電話会談では「建設的かつ安定的な日中関係」の構築との大きな方向性で一致した。その後国交正常化50周年を迎える中、新型コロナはあるものの両国間交流は着実に回復している。
・現在、日中関係は様々な協力の可能性とともに多くの課題や懸案にも直面しているが、日中両国は地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有する大国である。
・課題や懸案があるからこそ率直な対話を重ね、国際的課題には共に責任ある大国として行動し、共通の諸課題について協力するという「建設的かつ安定的な日中関係」の構築という共通の方向性を双方の努力で加速していくことが重要。
・尖閣諸島をめぐる情勢を含む東シナ海情勢、8月の中国によるEEZを含む日本近海への弾道ミサイル発射など日本周辺における中国による軍事的活動について「深刻な懸念」を表明。
・台湾海峡の平和と安定の重要性を改めて強調。
・中国における人権や邦人拘束事案等について日本の立場に基づき改めて申し入れ。
・日本産食品に対する輸入規制の早期撤廃を強く求めた。
・中国が確立された国際ルールの下で国際社会に前向きな貢献を行うことを期待。
・透明・予見可能かつ公平なビジネス環境の確保を通じて日本企業の正当なビジネス活動が保障されることが重要。
・気候変動、開発金融等の国際的課題について、国際ルールに基づき共に責任ある大国として行動していく必要性を強調。
・ウクライナ情勢について。中国が国際の平和と安全の維持に責任ある役割を果たすよう求めた。
・北朝鮮の核・ミサイル活動の活発化について深刻な懸念。安保理を含め、中国が役割を果たすことを期待。
習主席▶岸田首相
・日中関係には幅広い共通利益や協力の可能性がある。
・日中関係の重要性は変わらない。
・岸田総理と共に新しい時代の要求に相応しい日中関係の構築していきたい。
両首脳の一致点
・日中防衛当局間の海空連絡メカニズムの下でのホットラインの早期運用開始。
・日中安保対話等による意思疎通の強化。
・経済や国民交流の具体的分野で互恵的協力は可能であること。
・環境・省エネを含むグリーン経済や医療・介護・ヘルスケアの分野等での協力を後押し。
・両国の未来を担う青少年を含む国民交流をともに再活性化させていく。
・日中ハイレベル経済対話及び日中ハイレベル人的・文化交流対話の早期開催。
・ロシアがウクライナにおいて核兵器の使用を示唆していることは極めて憂慮すべき事態であり、核兵器を使用してはならず、核戦争を行ってはならない。
・日本は拉致問題の即時解決に向けた理解と支持を求めた。両首脳は引き続き緊密に連携していくことを確認。
(文・吉川慧)