アメリカでは中流階級の人々が、最も確実に富を築くことができる不動産を手に入れることが難しくなっている。
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- 近年、裕福なアメリカ人はさらに裕福になり、低賃金労働者らはより高い賃金を求めて交渉している。
- しかし、中流階級の人々の給料は伸び悩んでいるだ、とエコノミストらは指摘。
- そして不動産市場の状況は、彼らにとって二重の痛手になっている。
パンデミック経済は、控えめに言っても波瀾万丈だ。
アメリカで最も裕福な人々に現金が流入し、低賃金労働者らはインフレが家計が圧迫しているが、交渉でどうにか、歴史的な賃上げを掴み取ることができた。
だが、中流階級の人々には明るい面がなく、収入は伸び悩んでいるとカリフォルニア大学バークレー校の経済学者3人が最近発表した論文に記されている。3人はリアルタイム・インイコーリティー(Realtime Inequality)というプロジェクトに取り組み、各所得層の成長の統計を追跡している。それに加えて不動産市場の問題が、中流階級を富を築く伝統的な手段から遠ざけている。
リアルタイム・インイコーリティーのウェブサイトによると、アメリカの所得者の下位50%は平均年収が2万ドル(約280万円)で、2019年9月から2022年9月までの所得の成長率は6.4%だった。なお、平均年収約42万ドル(約5900万円)の上位10%は同7.6%、年収9万2000ドル(約1300万円)の中位40%は同2.6%だった。
アメリカではパンデミックが始まって以来、下位50%の賃金が上がったことで、「下位99%の賃金格差が縮小した」と著者らは指摘している。これは1980年代初頭からのこの国の傾向とは異なっている。COVID-19が最初に襲撃した際、失業手当や給付金により下位50%の収入が一時的に上がったことに加えてこのような状況が訪れたのだ。
政府からの現金給付がなくなると、増収もピークを過ぎたがなおも上がり続けたと研究者は述べている。これは労働市場が好調であること、低賃金労働者が良い給料を確保していることの表れだ。インフレに勝る賃上げを交渉の上で実現したのは、レジャー業や接客業などの低賃金所得者だけだ。
アメリカは2023年に、比較的緩やかだと言われている景気後退へ向かう可能性があるが、グレート・リセッション(Great Recession)の時とはまったく違った賃金上昇にも直面している。あの景気後退から数年は、すべての階級で賃金が低迷していたが、今は逆だ。だが、こうした賃上げも、続く保証はない。アメリカ連邦準備制度理事会(FRB)は、物価上昇スパイラルを回避し、「持続可能で2%のインフレと整合的な」水準に昇給を合わせるため、賃金を下げようとしているとジェローム・パウエル(Jerome Powell)議長が11月初めに述べている。
アメリカの中流階級は富を増やす選択肢を失いつつある
プライメリカ(Primerica)が7月に1400人を対象に行った調査では、中流階級の4分の3は収入が生活費を賄うのに十分ではないと回答していることが分かった。
また、経済への懸念は引き続き大きなプレッシャーであり、約41%がインフレを最大の懸念事項としていることも分かった。食事や日用品の出費を賄えるかどうかも上位にランクインしており、これは3月に行なった調査を上回っている。
加えて、中流階級の人々は最も確実に富を築くことができる不動産を手に入れることが難しくなっている。過去10年間、中流階級家庭は持ち家から2兆ドル(約281兆円)以上の利益を得ていた。
だが現在、多くのアメリカ人が住宅を手に入れられないままでいる。白熱した市場で2年近く価格の上昇が続いた後なのでなおさらだ。何百万人もの住宅購入希望者が、今年は手を出せずにいるとエコノミストらは述べており、住宅価格の中央値は過去最高を記録した。だが今、住宅の価値は下がり始めており、住宅所有者たちの富を奪っている。さらに、不動産市場の右肩上がりが続く保証はないとイェール大学の経済学者、ジェームズ・チョイ(James Choi)は最近、Insiderに話している。
ピュー・リサーチ・センター(Pew Research Center)によると、アメリカの中流階級は1971年以来縮小しており、不動産価値の下落、インフレの拡大、賃金の停滞という障害に直面し続けている。