「男性のHPVワクチン接種を無料で」大学生が1万5343人分の署名を厚生労働省に提出

厚生労働省の担当者に署名を渡すVoice Up JapanICU支部のメンバーと服部さん。一番右は、厚生労働省の担当者。

厚生労働省の担当者に署名を渡すVoice Up JapanICU支部のメンバーと服部さん。一番右は、厚生労働省の担当者。

撮影:三ツ村崇志

HPVワクチンを打ちたいけど打てないという男子大学生は多くいると思います。HPVの関連疾患は、ワクチンで防ぐことができるものです。それを放置してHPVによって苦しむ状況が起き続けることは、どこかで誰かが防がないといけない」(Voice Up Japan ICU支部、元共同代表・服部翼さん)

HPVワクチンを男性にも無料で接種できるようにして欲しい

2021年11月からオンラインで署名活動を進めていた国際基督教大学(ICU)の団体・Voice Up Japan ICU支部(現共同代表:川上詩子さん)らは、11月17日、1年間の活動で集まった1万5343人分の署名を厚生労働省に提出した。

署名を受け取った厚生労働省で予防接種対策推進官を務める西嶋康浩氏は、

「まずは当事者である女性の接種率を上げていくことが大事だと思っています。その上で男性へ範囲を広げていければ。行政が発信することと学生の発信することには、それぞれ得手・不得手があると思います。一緒にやっていければ」

前向きに検討したいと語った

男性への接種「女性守るため」だけではない

撮影:三ツ村崇志

川上さんは、

「何らかの形で金銭的負担をサポートすることができたら、HPVワクチンの接種率が高くなる未来があるのではないかと思っています。男性へのワクチン接種の議論は始まっていますが、できるだけ早いタイミングで実現して欲しいという念押しという意味合いもあります」

と今回署名を提出した意味を語る。

HPV(ヒトパピローマウイルス)は、女性の子宮頸がんの大半の原因だとされているウイルスだ。ただ、HPVワクチンの接種によって子宮頸がんは予防することができる。

HPVは性交渉を介して感染が広がっていく。そのため、女性だけではなく男性もワクチンを接種することで、パートナー間での感染を予防し、社会的に感染の広がりを防ぐことが可能だと考えられている。10代という若いうちにワクチン接種が推奨されているのも、性的な接触を経験する前にワクチンを接種しておくためだ(20代以降にワクチンを接種しても一定の効果はある)。

また、HPVワクチンは男性でも発症する中咽頭がんや肛門がん、尖圭コンジローマなどの病気を予防することができることから、オーストラリアやアメリカなど、海外では男性への接種も進められているのが現状だ。

日本では、2021年11月に開かれた厚生労働省での審議を経て、9年ぶりに小学校6年生〜高校1年生の女性を対象に積極的にワクチン接種を呼びかける「積極的勧奨」が再開された。また、ワクチン接種の積極的勧奨を差し控えていた時期(2013〜2022年)に本来接種対象となっていた1997~2005年度生まれの女性を対象に、無料での接種(キャッチアップ接種)も実施している。

一方、男性へのワクチンの接種は2020年12月に4価のHPVワクチンが承認された。ただ、基本は自費。接種するには全3回の接種で少なくとも5〜6万円のお金がかかるが、大学生にとっては大きな負担になる。

服部さんらが署名活動を始めたのも、いざHPVワクチンを接種しようとした際に、金銭的な負担が大きく断念した経験があったからだ。

専門家「男性への接種促進で認知拡大も」

署名と共に提出した要望書について話す、Voice Up Japan ICU支部共同代表の川上さん(左)と、服部さん(右)。

署名と共に提出した要望書について話す、Voice Up Japan ICU支部共同代表の川上さん(左)と、服部さん(右)。

撮影:三ツ村崇志

今回、川上さんらは署名と共に、以下の2点について厚生労働省に要望書を提出している。

  • HPVワクチンの男性定期接種化を早急かつ確実に開始すること。
  • 1997年度から2005年度生まれの男性のHPVワクチン接種への公費補助を検討すること。

署名の提出に同席した、HPVワクチンの接種を呼びかける医師らによる有志団体「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」の代表理事を務める稲葉可奈子医師は、

男性の接種の意義は明らかです。ただなぜ女性から始まるのか。それは子宮頸がんのインパクトが大きいからです。今、厚生労働省でも男性接種に関する議論が始まっているので、今後進んでいくことを期待しています」

と記者会見でさらなる接種の拡大に対する期待を語った。

みんパピ!代表理事にの稲葉可奈子医師。

みんパピ!代表理事にの稲葉可奈子医師。

撮影:三ツ村崇志

また、世界各国で進められてきたように、まずは女性の接種率を上げてから、段階を経て男性への接種を進めていきたいという厚生労働省の考え方については、「日本では海外と異なり、女性への積極的勧奨が再開してもなかなか接種率が上がらない現状があります。接種率が上がっていないからこそ、希望する男性への接種を進めていくことで認知が広がるきっかけになり、女性の接種率も上がっていくのではないか」と違った考え方もできると語る。

HPVワクチンの認知を広げることは、大きな課題だ。川上さんや服部さんも、

「署名提出は私たちにとって大きなマイルストーンではあるのですが、まだまだHPVワクチンの認知度の問題が解消しているわけではありません。これからも活動を続けていきたい」(川上さん)


「これで一区切りではあるのですが、まだ署名活動を続けていきます。来年には、これから増えた分を厚生労働大臣にも届けたい」(服部さん)

と今後も活動を続けていくと語った。

(文・三ツ村崇志

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