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大手食品メーカーを辞め「妊婦向け寿司」を開発。31歳母が執念の起業

渡辺愛さんの写真

妊婦でも食べられる「加熱寿司」を開発し、ネット販売を始めた渡辺愛さん。

撮影:横山耕太郎

ホタテに、いか、ウニの乗ったノドグロに、サーモン……。

見た目も華やかなお寿司だが、実は、ネタに火を通して作られた「加熱寿司」だ。

免疫が低下するため、生ものを食べることに配慮を求められる妊婦向けに開発された商品で、2022年11月22日からネット販売が始まる

開発したのは現在1歳児の母でもある渡辺愛さん(31)。渡辺さんはもともと、大手食品メーカー・日清食品の社員だったが、会社を辞めて起業し、加熱寿司を事業化する道を選んだ。

渡辺さんは、なぜそこまで「加熱寿司」にこだわるのか?

加熱寿司の味と渡辺さんのインタビューについては、動画でもご覧いただけます。

撮影:山﨑拓実

「手術後、お寿司を食べられなかった母に」

加熱寿司の写真

海老、のどぐろ&ウニ、イカなど1人前計9貫。桐箱入りの「特別な日」のための寿司で、価格は税込6900円。

撮影:横山耕太郎

渡辺さんが加熱寿司を構想したのは、第1子の妊娠中だった。

妊娠中は免疫力が下がり食中毒のリスクが高くなるため、医師から生ものの摂取を控えるように指導されることがある。渡辺さん自身も医師から強く禁止されたという。

あらゆる食べ物や行動が制限されることが妊婦の大きなストレスにつながると感じた経験から、2021年5月の出産後に1人で加熱寿司の開発を始めたという。

協力してくれる寿司職人や食材探しから始まり、加熱法や安全性の検証を経て、2021年の冬、第1弾となる加熱寿司が完成。購入希望者にお寿司を送るクラウドファンディングを実施したところ249人が支援。目標額の10倍以上となる220万円が集まり加熱寿司第1弾は成功に終わった

クラウドファンディングのスクリーンショット

クラウドファンディングでは249人から寄付が集まった。

キャンプファイヤーのウェブサイトを編集部キャプチャ

クラウドファンディングの後、加熱寿司を事業化して続けるのか、それともこのまま1回で終わりにするのか、まだ決めてはいなかった。

しかし、クラウドファンディングで加熱寿司を食べた女性からのメールで、渡辺さんの心は動かされた。

「骨髄移植後で大好物のお寿司を食べることができない母に、加熱寿司をプレゼントしたという女性から連絡をいただきました。その方のお母様は先日亡くなってしまったのですが、『コロナで面会が制限され親孝行できなかったけど、最後に寿司を食べられて笑顔が見られました』と言ってくれました。

加熱寿司がこんなにも役に立てるなら、継続させたいと思うようになりました」

大企業ではできないこと

渡辺愛さんの写真

メディア向けの説明会を開いた渡辺さん。会場は過去に加熱寿司作りで協力してもらったという「やよい鮨」(江東区森下)。

撮影:横山耕太郎

ただ、加熱寿司を続けたいという思いは強かったものの、同時に、加熱寿司を続ける場合には日清食品での仕事を続けるのは無理だと感じていた。

「会社での仕事と育児を両立させるのだって、大変なこと。子供が熱を出したら夜通しの抱っこで寝られないですし、ウイルス性の病気にかかると仕事を何日も休まざるを得ないことも多い。さらにそこに新規事業となれば不確実なものがさらに増えてしまいます」

大企業に残るか、起業するのか ──。

決断するきっかけになったのも、子育てだった。

「子供が産まれてから、一層自分の時間がなくなりました。だったら自分が使える時間は、世の中に価値のあるものを届けることに使いたいと、本気で考えるようになりました」

慣れない子育てに追われる日々で渡辺さんは、「自分の経験を活かしながら、困っている人をどれだけ笑顔にできるかが大切なのかもしれない」と気がついたという。

大企業は多くの場合、投資対効果をマスの視点で考えないといけません。そうすると『生ものを避けている妊娠中の方』など限られた対象に向けたプロダクトは生まれにくい。リスクを避けるために、先行する他社事例が必要になる事も多い」

事業として軌道に乗るかどうか、全く保証はない加熱寿司だが、自分にしかできない道を選んだ。

「もし私が加熱寿司を続けなければ、きっと今困っている人は我慢を続けるしかない。自分の選択によっては消えてしまう価値を世に残すことに挑戦しようと決めました」

味と見た目の良さは「譲れない」

加熱寿司の写真

加熱寿司は冷凍して郵送する。食べる前にレンジで加熱し、そのまま数分置いてから食べる。

撮影:横山耕太郎

ただ新たな加熱寿司の開発は、またまた困難の連続だった。

クラウドファンディングで寄せられた意見には、「冷凍でも美味しかった」という肯定的な声が多い中で、「ご飯がパサパサしていた」という声もあった。

安定した品質で生産するためにはどうしたらいいのか?

ネタ選び・仕入れから、ネタの加熱方法、握り方、梱包、冷凍、郵送まで全ての方法を最初から再検討した。また新たな加熱寿司は、前回のような押し寿司ではなく、「握り寿司」に挑戦した。

加熱後に冷凍し、レンジで解凍して美味しいシャリの追求に加え、梱包方法一つをとっても、一筋縄ではいかなかった。

ネタに合わせてくぼみの大きさが違う特注トレーを作るため、40社を超える容器メーカーに連絡し、やっと大阪のメーカーがトレー作りを受注してくれたという。

「特別な日にふさわしい寿司にしたかったんです。美味しくて、見た目が美しい寿司であることは譲れませんでした」

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