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Fortniteを「脳波」で操作。BMI活用で、健常者と障がい者の見えない境界崩せるか

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筋ジストロフィーの患者である清水猛留さんが、ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)を介してフォートナイトのアバターを動かしている様子。

撮影:三ツ村崇志

徐々に身体を動かせなくなっていく難病・筋ジストロフィーの患者である清水猛留(たける)さんが操作するアバターが動き出すと、会場からは自然と歓声と拍手があがっていた。

その歓声や拍手は、障がいがある中でイベントに参加したことに対する称賛の意味で送られたものではなく、一人の競技者のパフォーマンスに対する喝采にほかならなかった。

ダイバーシティ(D)、エクイティ(E)、インクルージョン(I)という言葉からなる「DE&I」という考え方は、昨今ビジネスの現場でも頻繁に目にするようになった。ただ「それが実現した社会」と言われても、なかなかイメージしにくいものだ。

「DE&Iって、もしかしたらこういうことなのかもしれない」

そんな未来の一つの可能性を感じさせるイベントが、11月19日、東京・渋谷で開催された。

イベントを主催したのは、慶應義塾大学理工学部でBMI(ブレイン・マシン・インターフェース)を研究する牛場潤一教授の研究室と、牛場教授らも参画する内閣府が主導する挑戦的な研究開発を進めるプログラムであるムーンショット型研究開発事業に参画する「Internet of Brains(IoB)」のチームだ。

「BMI」とは、「脳(Brain)」と「機械(Machine)」を機能的につなぎ合わせた装置だ。新たな技術が、健常者と障がい者の間にある見えない境界を崩していく未来がそこにはあった。

脳波でフォートナイトのアバターを操作

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イベント前、参加学生の脳波を検出できるか確かめている様子。頭に装着しているヘッドフォンが、BMIだ。

撮影:三ツ村崇志

イベントでは牛場研究室が開発しているヘッドフォン型のBMI「PLUG」を用いて装着者の脳波を読み取り、人気ゲーム・Fortnite(フォートナイト)のアバターを操作。事前に設計されたコースを走り切るタイムが競われた。

参加したのは、小学校から高校まで事前に申し込みがあった7校から選ばれた代表の生徒。加えて、バリアフリーeスポーツePARAの車椅子eサッカーチーム「ePARAユナイテッド」から、先天性脳性麻痺のある鱒渕羽飛(ますぶち・つばさ)さんと、冒頭に登場した筋ジストロフィーのある清水さんも参加した。

鱒渕さんと清水さんは、牛場教授の研究に協力する形で、BMIの操作方法について事前にトレーニングを積んでいたという。

イベントでBMIを装着してアバターを動かすことを体験した早稲田高等学校2年生の柾祐有さんは、

「頭の中で『動け〜!』と念じていたら動くようになりました。ただ『曲がれ』と思ってもなかなか曲がらず、難しかった。ゲームの場合はコントローラーをうまく動かせないとなかなか思い通りに動きませんが、将来、頭で考えた通りに動くようになると面白いのでは」

とBusiness Insider Japanに感想を語った。

牛場教授らが開発したヘッドフォン型のBMIには、頭頂部と左右の1点ずつの合計3点に脳波を読み取るセンサーが設置されている。加えて、ヘッドフォンには加速度センサーも取り付けられており、これら複数の情報をもとに、体を動かそうとする「思念」を読み取りアバターの動きへと反映する。

通常、医療レベルで使える脳波を計測しようとすると、どうしても直接皮膚に接触させたり、侵襲性の高いセンサーを使ったりする必要があった。牛場教授らは、AIなどを駆使して脳波をうまく抽出する技術を確立。さらに、ヘッドフォン型という一般的に受け入れられやすい形態かつ、髪の毛などに邪魔されても医療品質の脳波を計測できる装置を実現したという。

牛場教授は、

「BMIでコントロールされたアバター制御が、どんな社会を作っていくのか。障がいの有無、脳や体の制約の有無に関わらず、みんなが同じプラットフォームでどんな風に楽しめるのかを体験してもらいたい。ダイバーシティやエクイティ、インクルージョン…いわゆるDE&Iと言われていますが、BMIによってそれがどう実現するのかということを、楽しみながら体験してもらいたいと思ってイベントを開催しました」

とこのイベントにかける思いを語った。

VR空間をBMIのトレーニングセンターに

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慶應義塾大学の牛場潤一教授。「DE&Iってこういうことなのでは。中高生や障害のある人が別け隔てなく楽しんでいるのを見ると希望を感じます」とBusiness Insider Japanに話した。

撮影:三ツ村崇志

BMIは、ここ数年で一気に注目されるようになったメタバース(VR)との相性も良い。

牛場教授は、フォートナイトのようなVR空間をBMI操作をトレーニングする、いわば自動車の「運転免許試験場」のように活用することで、実社会のデバイスへとBMIを拡張する助けになるのではないかと語る。

「脳波は慣れないとなかなか思い通りに出てこない。でも、バーチャルワールドで念じて動かせば、失敗しても怪我をすることはない。楽しみながらトレーニングできるというメリットもあります」(牛場教授)

実際、イベントではうまく脳波が検出されずにアバターを前進させることができなかったり、まっすぐ進もうと思ってもどうしても曲がってしまったりする参加者が多かった。トレーニングを積んだ鱒渕さんや清水さんでも、まだまだ「思い描いた通り」の動きを完全に再現するには壁があることもよく分かった。

「やっぱり脳波を計測することは簡単じゃない。こういう普通の環境の中で、誰にでも使えるようにする工夫をするには、いろんな能力が必要になります。ただ、こうやって楽しめるぐらいにはなってきた。

産業化するには、まだまだ大きなチャレンジになります。そういう意味では、まだ1合目、2合目という感じです。でも、ゼロから1歩踏み出すことが非常に重要だと思います。その立ち位置を、みんなで共有できると思っています」(牛場教授)

(文・三ツ村崇志

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