コロナ禍においてリモートワークが加速したのはビジネスパーソンだけでなく、児童たちの授業スタイルにも及ぶ。全国の小学生に配布されたタブレットやPCは、授業カリキュラムに導入され日常的に活用が進んでいる。時折、地域差によるITリテラシー格差が問題視されているが、生活インフラにおいても心許ない印象がある離島ではどうか。
今回、福岡でIT×学童保育を提供する「TECH PARK(テックパーク)」がインテルのサポートの元、離島の小学生に向けてITに関する出張授業を実施した。そこでは一歩先ゆく教育方針を持つ小学校で学ぶ児童たちの姿を見ることができた。
島外からフェリー登校の児童も迎え入れる能古島小中学校
出張授業の対象となった学校は、福岡市立能古島(のこのしま)小中学校。
能古島は、福岡市の中心部から北側に開けている博多湾に浮かぶ人口約650人の島である。西区姪浜(めいのはま)の渡船場からフェリーで10分ほどで到着できるとあり、日帰り可能なおでかけスポットとしての人気も高い。
能古島小中学校は、長い歴史を持つ小学校と中学校それぞれの改築がきっかけとなり、2019年より小中一貫教育をスタートさせた学校だ。9年間の学校生活を連続的に行い、さらにICT教育や英語授業にも力を入れている。
その他の特徴として、島外からの通学児童が7割を占めているところからも人気のほどが伺える。
中休みが終わった3・4時間目。TECH PARKのスタッフは2チームに分かれ、隣り合う1年生と2年生のクラスに対して出張授業を行った。
前半では図形の色を変えたり、複数のイラストを選択して移動させたりといった操作の基本を習い、後半ではドット絵を描いてデータをプリントアウトしてキーホルダーを作成するといった内容。日ごろのオンライン授業や宿題のカリキュラムとはひと味ちがうTECH PARKオリジナルの授業がスタートした。
出張授業を提供したTECH PARKのみなさん。前段左からクリエイターの長谷川柚香(はせがわ・ゆか)氏、代表取締役会長の佐々木久美子(ささき・くみこ)氏、クリエイターの重松さとみ(しげまつ・さとみ)氏。左後ろから、ディレクターの赤星良輔(あかほし・りょうすけ)氏、クリエイターの田口甲斐(たぐち・かい)氏。
図形の色変更や移動などの基本操作に慣れ、ドット絵で個性を発揮
TECH PARKの講師のPCからGoogleスライドが共有され、クイズからはじまり、「四角を好きな色にぬろう!」「ドラッグ&ドロップでたまご(のイラスト)をす(巣)にかえそう!」などの基本操作をレッスン。
1コマ目の終わり頃には、10×7マスの方眼シートが表示され、ドット絵の説明があり休憩タイム。つまずいている児童には担任とTECH PARKスタッフが寄り添い、理解するまでわかりやすく説明する姿が印象的だった。
2コマ目は、いよいよ好きなドット絵をデザインしていく授業。完成データをプリントアウトし、アクリルキーホルダーに封入して、デジタルデザインのオリジナルキーホルダーが出来上がる。
裏表それぞれでデザインを変える児童もいて、色の配色に悩む姿も見受けられた。Googleスライド上で常時データが共有されていることから、児童の「できました!」の声に講師陣もすぐプリントアウトするといったスムーズさも感じられた。
教室前方の大型モニターには、続々と完成したデザインが並び、その個性に担任や講師陣も感心する様子が見てとれた。
最後は、プリントアウトしたデータをハサミで整え、キーホルダーにはめていく作業。児童たちは自分でデザインしたキーホルダーを見せて、こだわりのポイントなどを熱弁していた。
タブレット導入の数年前からデジタルデバイスを採用していた先進性
左から能古島小中学校の西田淳一校長、ICT担当教師である清水理教諭。
最後に、今回の出張授業についての印象、さらに能古島小中学校独自の取り組みなどを西田淳一校長とICT担当教師である清水理教諭に伺った。
「まず当校の大きな特徴として、小中一貫教育があります。
小中一貫は他にもありますが、当校は学校生活を9年間と捉えて、連続した学びで児童をじっくり見守っていく、中学校の先生が小学生に指導するなどシームレスな行き来がある教育を実施しています。
もう一つは『特別転入学制度』で、島外から通う児童も受け入れています。島の子供は3割といったところですね。1クラスの上限があり、地元の児童数を引いた人数の募集をします。
島内外の児童の交流によって、お互いに成長するところが多大にあると思います。毎日フェリーで通う児童は5時起床の子もいます。それを9年間続けることになります。
毎年多くの入学希望がありますが、親御さんには、原則徒歩通学(校舎は高台に位置していてフェリー乗り場から徒歩13分ほど)、クラス替えは無い(1学年1クラス)ことをお伝えして、本当に9年間通いきれるか最終的に決断していただきます」(西田校長)
「福岡市の児童には、1人1台タブレットPCが配布されていますが、当校の活用の特徴としては、調べたことを精査・要約・分析をして集約させるなどの協働学習を通して、情報活用能力の育成を目指しています。
2020年に福岡市全体でタブレットPCの配布がありましたが、当校は、それよりも2年早くWindowsタブレットPCを導入したため、先生も児童生徒もデジタル機器に早くから触れていたこともあり馴染んでいるようです」(清水先生)
「当時から先生たちも独自の授業プログラムを作っていました。
遠足で遠くの公園に行く場合も、自分たちで行き方や料金などをPCで調べます。それを紙にまとめる。PCの中だけで完結させず、書いて形にするところまでやっています。要約して書く行為は、自分で考える力をつけることに繋がると思っているからです。
今回のドット絵というテーマも“制限”があって、考える部分が多くて良かったですよね。
当校では、工作など手作業にも力を入れています。もしかしたら道具で怪我をするかもしれない、手が汚れて気持ちが悪い、そういった感覚を養うのも重要だと思います。
デジタルとアナログ両方が大事だと、先生たちとも話しています」(西田校長)
インテルからのビデオメッセージ
出張授業の冒頭では、教室の大型モニターから、インテル 執行役員 経営戦略室 室長の大野誠氏より動画メッセージが流された。
「パソコンによって、みなさんの未来の暮らしがどんどん便利になっていきます。パソコンは一見むずかしいように感じると思いますが、自転車と一緒で、一度コツを掴むと楽しくなります。この後の授業で、ぜひパソコンと仲良くなってください」と挨拶。
インテルはかねてから、「テクノロジーで世界を豊かにする」という信念を掲げてきた。全世界で1000万人以上の教員に研修プログラムを提供しており、日本でも文部科学省の推進するGIGAスクール構想の実現に尽力している。
その思いの根底にあるのは、テクノロジーが実際に社会のすみずみまで行き渡ること。
今回の出張授業と能古島小中学校の取り組みを通して、「離島」というロケーションであっても、ITを活用することで充実したカリキュラムを児童たちに提供できることは証明されたように思えた。