厚切りジェイソン氏×さわかみ投信代表 澤上氏 ——なぜ日本人は「投機」と「投資」を正しく理解できないのか?

コロナ禍を経て、「投資」が日本人のあいだでも浸透し始めている。

そんななか、厚切りジェイソン氏の著書『ジェイソン流 お金の増やし方』が2022年、ベストセラーとなった。「Why Japanese people!?」というフレーズで一世風靡した芸人ジェイソン氏は、IT企業役員という顔も併せ持つ。そんな彼が説く、現代的な投資法が多くの人の共感を呼んだのだ。

しかし、そうはいってもまだ、多くの日本人の投資行動には「投機」的な行為が目立ち、正しい「投資」を理解している人は少ない

実際、さわかみ投信が実施した投資に対する意識調査結果にも、そうした傾向は顕著に表れている。20年以上の長期運用実績を持ち、日本の独立系投資信託のパイオニアとして知られるさわかみ投信の代表取締役社長 澤上 龍氏も、そうした不理解に対して警鐘を鳴らす。

厚切りジェイソン氏と澤上氏の対談から、現代の日本人がどのように投資と向き合うべきか、投資家と企業それぞれの視点を交えて探る。

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「投資」の本質はWin−Winの関係

澤上 龍(以下・澤上):著書『ジェイソン流 お金の増やし方』は、とても人気ですね。ジェイソンさんも投資関連のお仕事が増えているようで。ご自身のまわりの人たちの投資行動にも、なにか変化はありましたか?

厚切りジェイソン(以下・ジェイソン):うーん。実践してみたと言ってくれた人は数人いましたけど。でも、本が出てから、まだたったの1年くらい。投資は20年以上のスパンで見るものですから、まだ成果をどうこう言う段階じゃないですよね。

それよりも、本を書いてからは、自分の財産のことを聞かれてばっかりなんだよ!

澤上:(笑) たしかに。投資をやっていると話すと、持っている財産のことばかりに注目されがちです。

ジェイソン:でもそれって、投資の本質を理解していない人が多いからだと思うんですよね。そもそも投資って、企業にお金を預けて、その企業がその資金を使って社会のためになるサービスを世の中に送り出す仕組み。社会にとっても価値あることだし、株主にも利益が還元されてWin-Winだっていうのがあるべき姿なわけで。

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厚切りジェイソン氏

芸人・IT企業役員。1986年アメリカ・ミシガン州生まれ。17歳の時に、飛び級でミシガン州立大学へ入学。卒業後、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校へ進み、エンジニアリング学部コンピューターサイエンス学科修士課程修了。現在は3姉妹のイクメンパパながらIT企業の役員も務める二刀流芸人であり、NHK「えいごであそぼ with Orton」にレギュラー出演するほか、情報番組でコメンテーターを務め、ドラマや映画に出演するなど幅広く活動している。

澤上:ええ。ジェイソンさんがテレビ番組でその話をされているのを拝見して、「弊社が日頃お伝えしていることに、とても近いな」という感覚を持ちました。

実は、さわかみ投信では、日本人の投資に対する意識調査を行ったんです。そこからは、日本人に「投資の本質への理解」が足りないこと、そして、まだまだ投資が根付いていないことが読み取れました。制度の後押しなどで投資が広まった側面はありますが、それははたして本質的な意味での「投資」なのか? あえて極端に言うなら、それは「投機」に近いものではないのか? そこに我々は警鐘を鳴らしており、#投機よりも投資を プロジェクトを発足しました。

我々としては、投機とは、短期で売買を繰り返し、自己利益のみを追い求めること。投資とは、長い目で相手を応援することだと思っています。

ジェイソン:日本人だけじゃなくて、アメリカ人にも「イチかバチかの信用取引、人生を賭けてやってみよう!」みたいな人は少なからずいます。ボクなんかは「なんでだよ!」って思いますけど。でもね、アメリカでは最近の10年間はすべての資産価格が順調に上がっていたから、勘違いしたままものすごく成功してしまった人がいるんですよ。残念ながら。

澤上:日本ではなおさらですよね。我々のような投資信託委託会社は、企業さんに直接投資するので、企業の存在意義や、企業がその投資によってどういう考えや意識を持つだろうということまで考えています。しかし、日本の多くの投資家はそこまで理解がおよんでいなくて、自己利益の追及に偏った一方通行の投資をする。

ところで、ジェイソンさんには芸人だけではなく、IT企業のビジネスマンとしての側面もあります。そんなジェイソンさんが、投機的な株価の動きなどに思うところっていうのはありますか?

不健康な会社が生まれるケース

ジェイソン:上場したら、その後のビジネスがやりづらくなるというのはあるでしょうね。四半期ごと常に何らかの結果を出さないといけないプレッシャーがあるから、長期的な事業開発に力を入れづらくなるとか。

澤上:ですよね。その点が、私たちの意識調査でもはっきり浮き彫りになりました。上場企業経営層の60%が株主からのプレッシャーを感じたことがあり、さらにそのうち70%はこのことで中長期的な意思決定がしにくいと答えています。

ジェイソン:そこから不健康な会社が生まれるケースは多いだろうと思いますね。

澤上:何年かの長い時間をかけて新しいものを生み出そうとしている事業を、たった3カ月や半年という短期でレビューしたら、その時点で赤字になっている可能性は大いにある。なんでも短期視点が悪いとは思わないですけれど、それを意識しすぎる投資家が多いと、経営者が翻弄されてしまいます

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澤上龍(さわかみ・りょう)氏

さわかみ投信 代表取締役社長。1975年千葉県生まれ。2000年5月にさわかみ投信に入社後、ファンドマネージャー、取締役を歴任。2010年にソーシャルキャピタル・プロダクションを創業、2012年にウルソンシステムの経営再建を実行。2013年同年1月よりさわかみ投信代表取締役社長に就任。

ジェイソン:最近の例だとメタ(Meta:元フェイスブック[Facebook])が10年スパンで取り組んでいるメタバース事業がものすごく不調で、株価が暴落する原因にも繋がっていて。こういうときに「もうこの会社終わったな」みたいな見方をされる流れになっていったら、さらなる資金調達はできなくなる。まさに10年以上の長期スパンでの事業計画はできなくなるんですよね。

澤上:まさに、そうです。これは重要な話ですが、企業の株価と業績はまったく違う動きをするケースがありますよね。ジェイソンさん、どう思います?

ジェイソン:株価というものは乱暴に言うと、人々が勝手に「この会社は伸びるであろう」と、感情的に決めつけた結果とも言えますので、業績とまったく関係ないケースもあります。

澤上:そう。だから未来予測をしようとしても、株価についてはもうわからない。サイコロを振って何が出るのかと訊かれているのと同じです。でも、業績だったらある程度は見えるかもしれない。ただ、それも100%ではないですが。

一般投資家が投資でやるべきこと

ジェイソン:ふむ、一般投資家がこの状況に向き合っていくには、愚直に「長期」「積立」「分散」をやっていくしかないのかな?

澤上:「長期」「積立」は間違いないでしょう。「分散」は、投資信託などを利用すれば、無理に分散しなくても良いケースもあるので、少し誤解されがちなところもありますが。 長期で積み立てる投資を続けるとうまくいきやすい理由として、実は自分の収入の一部をずっと積み立て続けるから、という側面も大きいんですよ。例えば20万円収入をもらったら、1万円の積み立ては5%です。30万円に給料が上がったら、1万5000円を積み立て。これも5%。これをずっと30年やったら強いです。

ジェイソン:せやな。わかるわ。

澤上:これが強い理由は、自動的に収入の5%を節約できて、かつ株価や経済とは無関係に投資癖がつくということ。だから、マーケットの話だけじゃなくて、自分が投資をしやすい仕組み作りという意味でも、長期積み立て投資が有効なのです。

ジェイソン:ボクもだいたい同じ考え方なんですけど、収入の何割を投資に回すべきって考え方というより、まず決めたいのは自分がどんな人生を生きたいのか。その生活水準を決めたら、それ以上のお金を使う必要はないという発想で、いくら収入が増えたとしても、そこで余っているお金は全部投資に回していいと、個人的には思ってますけどね。

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澤上:ええ。結局、収入のベースが老後の生活を決めるので、多く投資に回している方が有利ですね。ただ、逆もしかりで、収入を見ないで闇雲に投資金額を増やし過ぎると、結局どこがゴールだったかわからなくなってしまうこともある。だから、一般の投資家はまずリズムを作るのが大事。投資をするリズム、毎月積み立てる癖を作ることです。

国民は自分で責任を取りなさい

ジェイソン:老後の生活って話が出たけど、去年から日本は岸田政権になったので、より「貯蓄から投資へ」という政策になっていくでしょう。これってつまり、国の福利厚生がもうどうにもならないから、国民は自分で自分の責任をとりなさい、「あとは任せた!」みたいなことじゃないの?

澤上:国民の自助努力を促すために、国が確定拠出年金だとか、NISAの制度を用意した。「あとは自分でやってね」って感じで。

ジェイソン:アメリカも昔からそういう考え方だけどね。アメリカでは国民全員の面倒を最後まで見られなくなったので、なにもしないなら人生の最後まで働き続けることになる。嫌だったら、ちゃんと自分で投資して資金を作ってくださいねって。

澤上:投資に限らず日本の悪いところは、なんでも人に頼りすぎるところです。自分でなんとかしようという思いがない。例えば、江戸時代などは40歳でリタイアして、子どもから仕送りをもらうという文化もありましたし、現在においても子どもへの教育は学校に任せっきりでいいといった文化もあると思います。人に頼りすぎて自分で考えようという気概が少ないので、そこは変えるべきでしょうね。

ジェイソン:子どもが自分の面倒を見てくれると思っているアメリカ人は多分いないと思う。それより子どもの負担になってはいけないと考える文化といえるかもしれない。これはきっと投資行動が増える後押しになっていますよね。日本だと「両親に迷惑をかけてはいけない」と思ってしまうんだけれど、アメリカは「子どもに迷惑をかけてはいけない」なんですよ。

“投資”詐欺という言葉の違和感

澤上:ところで、残念な話といえば最近、仮想通貨の投資詐欺なんてニュースがありました。それ以外にも、投資という言葉が使われた詐欺のニュースは多いですよね。

ジェイソン:そもそもボクは「仮想通貨は投資じゃない」と思っていたので、そこで投資という言葉を使われたことに違和感を覚えていました。さわかみ投信の意識調査でも、マスコミが“投資”詐欺という表現を使うことが「投資」を「投機」と勘違いしてしまうことに影響を与えるという調査が出ていましたね。

澤上:そうですね。詐欺の話題で、投資という言葉を使ってほしくない気持ちはあります。純粋な投資って、一番わかりやすい例えは「自己投資」じゃないですか。自分に投資をする。そこに詐欺はないんですよ。詐欺のようなところがあるとしたら、それは投資じゃないんです。投機、ギャンブル、ないしは金儲けです。「儲け話詐欺」みたいな感じかな。本来は。

ジェイソン:まあ、マスコミが悪いということでもないと思います。騙される方も悪いし、騙す方も悪いです。…みんな悪いですね(笑)。経済も法律もわかってない日本人が少なからずいることは、不思議だったし、驚きだったね。だから“投機”トラブルが後を絶たないのかもしれないし、本来の「投資」の意味を「投機」的に理解してしまうのかもしれない。

澤上:たしかに…。経済や法律への理解以前の問題として、例えば「投資」という名目で、履歴が残る銀行振込ではなく、直接現金のやり取りを要求された場合、そこですでに「おかしい」と思ったほうがいい。

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ジェイソン:おこがましいんですけど、僕の本が普及したことで、正しい投資をもっと理解してもらうことや、国民が理解できるような仕組み作りが進むことに繋がればいいと思っています。あらゆるところで投資の話をするような流れが1~2年ぐらい続けば、投機的でない投資家は増えていくと思うんですけどね。

「あなたはあと何年生きたいですか?」

澤上:あとは成功体験を語れる人を増やすしかないですよね。投機ではない、長期的視点を持った投資の成果が出るには、10年、20年の時間が必要になりますけれど。

ジェイソン:そうですね。アメリカではそういう成功体験を持っている人が結構いるんですよ。つまり30年前からインデックスファンドをずっとやっているような人たち。うちの父さんもそうで、リーマンショックの最中に売ってしまった失敗もあったけど、その体験を聞いていたから、ボクが今回のコロナショックで売らずに済んだというのもありますね。

澤上:もうひとつ。まだ投資を始めていない人に、こうやって問いかけることです。「あなたはあと何年生きたいですか」と。

ジェイソン:うん、じゃあ5年くらいで!

澤上:私の意図に合わせてくれてありがとうございます(笑)。5年だったら、もう投資なんかしなくていいんですよね。でも、その答えが30年、40年だったら、投資を考えるのが必然になってくることに気付いてもらえると思います。

ジェイソン:例えば「95歳まで生きるつもりで、95歳までずっと働き続けるつもりですか」っていう話ですよね。

澤上:ええ。そして「ずっと働き続けることは難しいですよね、いつまで働くんですか? 仕事をリタイアしてから死ぬまでの間の生活はどうやっていくつもりですか?」と問いかける。すると、「投機」ではなく長期的な視点に立った正しい「投資」の大事さに気付いてもらえると思います。


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