大企業が「焚き火研修」に注目する理由。スノーピーク子会社が1泊7万円のプランも開始

焚火研修のイメージ

焚き火を囲みながら話し合う研修の一環。参加者は人事や研修担当者ら。2022年9月に撮影。

撮影:横山耕太郎

大手キャンプ用品メーカー「スノーピーク」の子会社「スノーピークビジネスソリューションズ」(愛知県岡崎市)が手掛ける「アウトドア研修」が注目されている。

焚き火を見ながら語りあったり、議論したりする「焚き火トーク」など、アウトドア研修についての相談件数は、2022年に入ってからは前年比1.5倍で増加。特にコロナ後は、新人研修や、チームビルディングのための研修、中間管理職向けの研修などのアウトドア研修の実施件数が1.2倍で推移している。

コロナでリモートワーク化が進み、大企業などを中心に社員のコミュニケーションを深める目的での利用が増えているという。

野村総研、NTTデータなど人事担当者が体験

焚火研修の写真

焚き火を見ながら会話する参加者ら。

撮影:横山耕太郎

神奈川県横須賀にある京急観音崎ホテルに併設されたキャンプ場。

初秋のある日、パチパチと音を立てて燃える焚き火をいくつかのグループに分かれて囲み、打ち解けた様子で会話する男女約30人の姿があった。

この日は平日の午後4時頃。まだ外が明るい中でリラックスして談笑する姿は、さながら休日のレジャー。だが、焚き火を囲んでいたのは、企業の人事担当者だ。

彼らは、焚き火を囲みながらのトークやテント設営などを組み入れた「アウトドア研修」の導入を検討する企業の担当者で、野村総合研究所やNTTデータ、電通国際サービスなどの大企業からの参加も多い。

この研修プログラムは、スノーピークビジネスソリューションズと、企業研修事業を手がけるチェンジ社(東京都港区)と共同開発したもの。「日帰り」の1日版、宿泊を伴う「1泊2日版」があり、1人あたりの料金は1日版で5万円〜、2日版で7万円〜。

実施場所は、御用邸もありリゾート地として知られる神奈川県葉山町や、茨城県常陸大宮市のゴルフ場に併設されたキャンプ場などで、開催場所や日程により費用は異なる。

キャンプ、アパレルに次ぐ売上高

決算説明資料

2022年1月〜9月の事業別の売上高。アウトドア研修などを手掛ける「ビジネスソリューションズ」も売り上げを伸ばしている。

出典:スノーピーク2022年12月期第3四半期・決算説明資料

スノーピークビジネスソリューションズは、テント泊や焚き火体験などを取り入れた野外での企業研修事業のほか、テントなどキャンプ用品をオフィス環境に取り入れる空間デザイン事業を展開している。

親会社スノーピークの2022年12月期第3四半期の連結決算によると、スノーピークビジネスソリューションズの2022年1月〜9月の売上高は、前年比20%増の8億5000万円だった(※)。

スノーピークグループの主力事業「アウトドア」の売上高(187億8000万円)や「アパレル」(22億2000万円)と比べると規模は小さいながら、グループ内で第3の収益源となっている。

※「決算におけるスノーピークビジネスソリューションズの売り上げについては、スノーピークグループ向けの売上を包括した数字」とされ、グループ内での売上高か、外部への売上高かは区別されていない。

2021年夏以降、ニーズが加熱

焚火研修のイメージ

アウトドア研修では、共同でのテント設営などの研修もある。

撮影:横山耕太郎

スノーピークビジネスソリューションズによると、キャンプ要素を取り入れた研修への問い合わせや受注が増えたのは、2021年の秋前後から。2020年春のコロナ禍当初は緊急事態宣言などの影響もあり、企業向けの研修事業は壊滅的な打撃を受けた。

コロナ後は研修の延期やキャンセルが相次ぎ、コロナ前と比較して研修の実施権巣は半数以下に減りました。それがキャンプシーズンを迎えた2021年の秋前後から企業研修の引き合いが一気に回復しました。

変化の激しいこれからの時代に、チームビルディングや価値観を共有するような研修はよりニーズが高まると見込んでいます」(スノーピークビジネスソリューションズ・事業戦略本部副本部長・榊原佑介氏)

「野外ならばコロナも安心」という企業のニーズもつかんだ。特に新人社員研修での利用が多いという。テント泊をする場合は、もちろん一人用のテントで宿泊する。

「コロナで関係性が薄くなってしまった」

オフィスのイメージ写真

リモートワークが普及し、従来のようなオフィスでのコミュニケーションの機会は減っている(写真はイメージです)。

REUTERS/Toomoshige Akira

アウトドア研修人気の背景にあるのが、「リモートワークで希薄になった社員同士のつながりを深めたい」という企業の研修ニーズだ。

取材した日の体験会の参加者に、なぜ野外での研修を導入を検討しているのか、その理由を聞いてみた。

NTTデータ・テクノロジーコンサルティング事業本部所属で、人材採用・育成の担当者は「チームメンバーの関係を再構築したい」と話す。

「コロナ後にテレワークに移行したため、新入社員や中途採用者がまだ直接顔を合わせていないという状況も生まれています。

関係性が薄くなってしまわないか危機意識があり、自然に囲まれて一緒の時間を過ごす研修は魅力的だと思う」

別の大手企業からの参加者も「知識を詰め込む研修はすでにたくさん実施しているが、コロナ後に入社した若手にとっては社員と繋がれないという課題を持っている。若手向けの研修として検討している」と話した。

1泊した場合7万を超える研修だが、外資系企業の担当者からは「費用対効果を把握しにくい研修だが、高いとは感じない」という声も聞かれた。

社員の離職を防ぐためにも、またリファラル採用を進めるためにも社員のエンゲージメント施策は大事だと考えています。今はキャンプブームですし、『焚き火研修』は会社に愛着を持ってもらうきっかけになると思います」

Popular

あわせて読みたい

BUSINESS INSIDER JAPAN PRESS RELEASE - 取材の依頼などはこちらから送付して下さい

広告のお問い合わせ・媒体資料のお申し込み