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COP27閉幕、日本の「化石賞の妥当性」と「“損失と被害”基金」の行く末

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COP27(国連気候変動枠組条約締約国会議)のグリーンゾーンに設置されたCOP27のサイン(11月17日撮影)。

REUTERS/Emilie Madi/File Photo

11月20日、エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)が閉幕した。会期を2日間延期した今回のCOPでは、気象災害で「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設が決まり、これが最大の成果となった。一方で、温室効果ガスの排出削減目標は合意に至らなかった。

「損失と被害」(losses and damages)とは、COPがまだ交渉中だった1991年に島しょ部の国々が、海面上昇による被害を支援するための仕組みを求めたのが発端とされる。温暖化で海面上昇が生じて土地が消失したり、異常気象による災害で打撃を受けたりすることによる被害に対して、先進国が応分の支援をすべきだというわけだ。

これまで先進国は、この「損失と被害」を支援する仕組みができ上がることで、莫大な費用負担が発生することへの懸念が非常に強かった。今回の合意は歴史的なものといえる一方で、資金をどう調達し、配分するかなどの具体的な制度設計に関しては2023年にアラブ首長国連邦(UAE)の首都ドバイで開催されるCOP28で議論される見通しとなった。

2023年のCOPは「紛糾」する可能性大

基金の制度設計に関する議論は紛糾すると予想される。

先進国のみならず、途上国の中にも温室効果ガスを多く排出する国は存在する。こうした国々が本当に被害を受けた国に対する「損失と被害」に配慮し、応分の負担をするだろうか。それに支援する側はできるだけ費用負担を抑えようとする反面、支援を受ける側は巨額の支援を得ようとする。

いずれにせよ、一部の報道で「歴史的合意」とされた基金だが、その制度設計に関しては1年後のCOP28での大きな課題になる。紛糾が予想されるため、議論が本当にまとまるか分からない。COPには具体的な果実を直ぐに求める風潮があるが、実効力のある制度を構築し、その持続性を高めるためにも議論は慎重に行われるべきだろう。

石炭火力発電への回帰で揺れる「1.5度目標」

一方で、化石燃料の段階的な利用の削減に関しては、特に具体的な合意がなされなかった。

2021年のCOP26では、ヨーロッパ勢が途上国に対して、とりわけ温室効果ガスを多く排出する石炭火力発電の早急な利用停止を求めていた。そのヨーロッパ勢は今、ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて、石炭火力発電を再開させている。

あくまで一時的な措置とはしているものの、ヨーロッパ勢は石炭火力の再開について、その理由を明確かつ丁寧に説明してはいない。一方で、比較的クリーンな化石燃料とされる天然ガスに関して、ヨーロッパ勢はロシアからの調達を止め、アフリカでの調達を増やそうとしているが、そのことがアフリカの環境破壊につながるとの懸念も高まっている。

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ナイジェリアの石油拠点都市ポートハーコート近郊のガスパイプラインの上を歩く少女(2012年撮影)

REUTERS/Akintunde Akinleye

ロシアによるウクライナ侵攻で化石燃料の価格が急騰したことを受けて、比較的安価な石炭火力発電に回帰する途上国も少なくない。そのため、温室効果ガスの排出の削減は進まず、このままのペースでは、異常気象を一定程度に抑制する「1.5度目標」のために容認される温室効果ガスの総排出量を、2030年にも超過する見通しだ。

COP27の合意文書では「来年末までに目標を再検討して強化するように要請する」(日経新聞 11月21日掲載)という文言が織り込まれた模様だ。目標を高めに掲げること自体は悪いことではない。しかし、ロシアのウクライナ侵攻で化石燃料の価格が高騰し、これまで話し合われてきた気候変動対策の前提条件が大きく変わってしまったことも、紛れもない事実である。

「1.5度目標」を冬の登山に例えるなら、この登山は、荒天を受けて予期せぬビバーグ(フォーストビバーグ)を余儀なくされたようなものだろう。今後、気候が安定したとしても、雪崩が生じるリスクなども勘案しつつ、体制を整えた上で登山ルートを再考しなければ、登山が成功しないばかりか、不要な犠牲者を生みかねない。

今年も「化石賞」になった日本。妥当性は?

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COP27にて、報道陣の質問に答える西村明宏環境相。

REUTERS/Mohamed Abd El Ghany

ところでCOP27の期間中、2022年も日本が「化石賞」(fossil award)に選ばれた。この化石賞とは、国際環境NGO(非政府組織)の「気候行動ネットワーク(CAN)」が、気候変動対策に消極的な国を選ぶものだ。日本はこれまで3回連続でこの賞に選ばれており、日本の気候変動対策が不十分であることの論拠のように扱われている。

今年、CANが日本を「化石賞」の対象に選んだ主な理由は、2019年から2021年にかけて年間平均106 億ドル(約1.5兆円)の公的資金を化石燃料関連事業に拠出したことにある。しかしこの106億ドルという金額をどう算出したのだろうか。少なくとも、日本を化石賞に認定したことをアピールするサイトに算出根拠は書いていない。

そこで、経済協力開発機構(OECD)のデータベース(OECD Inventory of Support Measures for Fossil Fuel)より、日本が化石燃料関連事業(Fossil Fuel Support)にどの程度の公的資金を拠出したのか、確認してみたい。

このデータベースによると、2021年に日本が化石燃料関連事業に拠出した公的資金の額は、合計で32.5億ドルだった。

比較のために、同じデータベースより確認した2021年にドイツが化石燃料関連事業に拠出した公的資金の額は、78.6億ドルと日本の2倍以上だった。内訳を比較すると、ドイツは石炭事業に対する公的支援が多いが、日本は殆どない。またGDPの対比でもドイツのほうが規模は大きい(図1)。このように、OECDのデータベースで確認する限り、日本が「化石賞」に選ばれる理由はない。

図1日本とドイツの化石燃料関連事業に対する公的資金の支出額(2021年)

出典:OECD Inventory of Support Measures for Fossil Fuel/筆者作成

受益者別に内訳を確認すると、生産者向け支援は日本とドイツで全体の4割弱と変わらない一方で、ドイツが消費者向け支援(6割弱)に偏っている(図2)。こうした補助金は、原油高に伴う費用負担を軽減するため、原油高の局面で増える傾向がある。これがなければ、企業や家計にエネルギー高の影響が直撃する。

図2化石燃料関連事業に対する公的資金の支出額の受益者別内訳(2019~2021合計)

出典:OECD Inventory of Support Measures for Fossil Fuel

他方で、日本は一般サービス支援(6割)に偏っている。一般サービス支援とは将来の消費に関わる投資への支援だ。貯蔵施設の建設や研究・開発に関わる投資に対する支援を意味するもので、否定されるものではない。いずれにせよ、公的資金が増えたため気候変動対策は後退したという評価は、適当ではない。

多国間協調には時間を要する現実

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REUTERS/Mohamed Abd El Ghany/File Photo

化石賞の事例が端的に示す通り、一部のNGOの主張には、客観性を欠くものが少なくない。

彼らは結論を性急に求めるが、結局のところ各国の政府が気候変動対策の主体とならざるを得ないのだから、地球規模の議論については、時間を費やして各国の利害を調整するしか、他に方法がないのではないか。

冒頭で述べたように、確かに今回のCOP27で「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の創設が決まったことは成果と言える。

とはいえ、繰り返しとなるが、その具体的な制度設計を議論するのは次回のCOP28でのことになる。COP29以降も議論が継続する可能性も高く、場合によっては基金の創設が放棄される展開も否定できない。

気候変動対策は喫緊の課題だろうが、その地球規模という性格ゆえに、議論に時間を要するというジレンマがある。そのジレンマに業を煮やし、性急に結論を求めようとすると、かえって利害関係者たちの離反を生み、事態が空転することになりかねない。

今回のCOP27で、多国間協調の重要さと困難さが改めて浮き彫りになった。

※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。

(文・土田陽介)

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