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東大で出会った水処理システムの同志。ぶつかった壁の転機は「西日本豪雨」【WOTA CEO・前田瑶介3】

第3回サムネイル

撮影:伊藤圭

世界の水インフラを変えるテクノロジーで、持ち運び可能な水浄化システムを実現したWOTA(ウォータ)代表取締役CEOの前田瑶介(30)は、阿波踊りの本場、徳島県の生まれだ。

東京大学工学部建築学科に進んだ前田は、「都会版の阿波踊り」のつもりで競技ダンス部に入部したのだと、にこやかに言う。

「私の場合は踊ること自体が楽しいし、自分の踊りを誰かに見せるよりも、誰かとの調和を楽しむために踊る、みたいなところにウェイトがある。そこは、人とのコミュニケーションとしての阿波踊りと一緒だなと思ったんです」

その姿勢は、ビジネスにおいても変わらない。前田は大学院時代に、建築物の省エネ制御のためのアルゴリズムを始め、住宅設備関連でさまざまなシステムを開発する会社を起業していたにもかかわらず、後にその会社の事業を売却。その資金も活用して、同じ大学の先輩らが立ち上げていたWOTAと合流する道を選んだのだ。

複雑すぎる分業…非効率な都市の水インフラ

下水管

都市にはいたるところに水道管が張り巡らされている(写真はイメージです)。

Vladimir Zapletin / Getty Images

建築・都市インフラに目を向けた前田は、大学と大学院を通じて、衛生工学、建築設備、スラムの生活環境、都市の形成史など、さまざまな角度から「水」への洞察を深めていった。次第に、大きな疑問が沸いた。

「都市には水道が街中に張り巡らされ、そこに巨大な水処理施設が組み込まれている。建築を建てる際には水回り設備や建物内配管を設置する。

しかし、前者は土木や衛生工学で、後者は建築や住宅設備で、それぞれ研究されている。水を使う、という非常にシンプルな目的に対し、複数の分野に跨って複雑な分業がなされており、この分業の構造自体が今の時代においては非効率になってきていると思ったんです」

こうした水利用やそれを実現する水インフラへの問題意識から、前田は新しい発想を得る。

水利用と水処理の距離が離れているから複雑な分業が必要となる。水回り設備の隣に同じぐらいの超コンパクトな水処理システムをつくるのは、論理的には可能なはず。それが実現すれば、水道管につなぐ必要もなくなり、配管工事もなくなり、建築も都市もシンプルかつ自由になるのでは——。

そこで手始めに、水処理も含めた全てのライフラインが搭載された移動可能な家を開発し始めた。要は、中古のマイクロバスを改造したキャンピングカー。その「家」は水道管につなげず、分散型の水処理設備を組み込んだ。

すると、住宅の水回り設備の個別対応が要らなくなり、極端な話、バスを量産すれば一軒の家ができることになる。つまりは「製造業型」の家なのだ。

周囲にそのことを話して回ると、別々の人から同時に、「前田くんと同じようなことやろうとしている人がいる」という噂を聞きつけた。大学院の先輩で、WOTAの前身であるHOTARUの創業メンバーの一人だった。

実際、前田が実践しようとしていた分散型の水処理システムのアイデアと、彼らが構想していた水処理システムと、アプローチこそは違ったが「目指すところが一致していた」と前田は言う。

「人生の中で、とんでもない出会いだなと思った。目指すところが同じなら、手を組んで早く成果に結び付け、ともに人類に新しい水インフラをもたらすチャレンジをしたい。この人たちと一緒に事業をやりたいなと思ったんです」

製品の仕様決まらないジレンマ

キャンプのイメージ

当初はアウトドア用の水インフラ製品として販売する構想もあったという(写真はイメージです)。

chachamal / Getty Images

2014年に設立されたWOTAの前身HOTARUは、スタッフが10人に満たない小さな会社だった。前田が彼らと出会ったのは、まさに水再生システムの実験を行っている段階であり、意気投合した。そこから同社の開発や会社運営をリードするようになる。

その時の一番の課題は、製品の仕様が一向に決まらないことだった。いきなり「世界の水問題を解決する製品」を作っても、モノと構想があるだけでは、誰にも見向きもされない。実際に身近な課題を解決して初めて、その価値が伝わる。

ただ身近な課題にフォーカスしすぎると、世界の水問題を解決するというスケールが表現しきれない。仕様が決まらなければ、モノづくりはできないし、モノづくりが進まなければ資金も集まらない。

「水循環を活用してキャンピングを趣味とする人たち向けの製品を作ることもできそうだ」とレジャー向けの水インフラ製品として仕様を検討したこともあった。

ただし暮らしを便利にする製品へと範囲を狭めれば、もともとの志とは裏腹に、身近なニーズにマッチする商品仕様で用途が限られ、供給先も狭まってしまう。自分たちの技術を活かして、もっとクリティカルな課題を解決したいという気持ちも働いた。

「具体的な水問題の解決から遠ざかってしまい、最終ゴールに向けたロードマップが描ききれない時期が長く続いていました」

転機になった西日本豪雨

西日本豪雨の様子

2018年7月8日、岡山県倉敷市で自衛隊に救出される高齢者。9日までに派遣された自衛隊員は2万9000人に達した。

Carl Court / Getty Images

そんなジレンマを抱えたWOTAに転機が訪れる。2018年に発生した西日本豪雨だ。「被災地でライフラインが止まっている」と聞きつけた前田は同年7月、スタッフらと水浄化装置とシャワーボックス機材を携え、被災地である岡山県倉敷市に入った。

そこで被災した人が、2週間も入浴できていない状況を目の当たりにする。現場を見渡せば、水道は止まっていたものの、小学校のプールには水が張ってあった。自分達の技術があれば、プールの水を浄化しつつ住民がシャワーを浴びるのに役立てられると考えた。

避難所へのシャワーの提供を始めると、それまで沈んだ表情だった子どもたちの顔がパッと明るくなった。前田は「WOTAが目指す究極のところは、世界の水問題の解決。安全で衛生的な水を提供する必要性が高く、それが難しい状況においてそれを実現することこそ、自分たちのやるべきことだ」と確信した。

そこで、災害時の断水状況下において「上下水道の補完」として応急的な水利用を実現する、連載第1回で伝えたポータブルな水再生処理プラント「WOTA BOX」を開発、発表した。

その後も、同年9月の北海道胆振東部地震など災害のたびに被災地でシャワー入浴の提供を行った。災害現場での経験を生かしながら試作機の改良を重ね、2019年11月に「WOTA BOX」の販売を実現した。

コロナ禍には循環型の手洗いスタンドが活躍

WOSH

WOTAが開発した、循環型の手洗いスタンド「WOSH(ウォッシュ)」。

撮影:伊藤圭

新型コロナウイルス感染症が流行し、人々の不安が一気に高まった2020年には、新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトとして手洗いに特化した製品「WOSH(ウォッシュ)」を開発し、同年秋に発表。

既存のドラム缶を活用した、高さ1mほどの水循環型の手洗いスタンドで、電源さえ確保できればどこにでも設置できる。先行の「WOTA BOX」と同じ水の再生循環技術を使い、使用した水の98%以上を循環させられる。

「水と衛生は、歴史的に共に発展をしてきた。危機的な社会状況の中で、公衆衛生に貢献できるプロダクトを出そうと考えた」と前田は言う。

前田がもう一つ、WOSHというプロダクトの長期的な視点での意義として挙げたのは、さまざまな場所にWOSHが置かれることで、洗剤が多く含まれる原水の水処理データが数多く手に入ること。

それによってより厳しい条件下での水再生のノウハウが蓄積されたり、水処理を自律制御するアルゴリズムの精度が上がり、将来的に水処理コストが下がることにつながる。

「私たちが目指すのは、水を通じて環境問題の解決に一人ひとりが参加できるようになるあり方です。WOTAの事業自体が人類にとっての参加型プロジェクトだと思っているんです。

普及が進んでいくと、WOTAのプロダクトで水を使うことが社会を前進させていく、そのリアリティが増していくと考えています」

次々と製品化が進む中、WOTAは2021年5月にソフトバンクをはじめとする大手事業会社との資本・業務提携を結び、2022年11月には日本政策投資銀行をリード投資家としたシリーズBラウンドの資金調達も行った。

最終回は、前田が目指す「持続可能な循環型社会」への将来ビジョンを紹介する。

(敬称略・明日に続く)

(文・古川雅子、写真・伊藤圭)

古川雅子:上智大学文学部卒業。ニュース週刊誌の編集に携わった後、フリーランスに。科学・テクノロジー・医療・介護・社会保障など幅広く取材。著書に、『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)がある。

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