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日本発で世界の上下水道を代替する。生活排水の98%を再利用できる家を実現【WOTA CEO・前田瑶介4】

第4回サムネイル

撮影:伊藤圭

長野県軽井沢市の緑まばゆい森林の中腹に、山小屋風の別荘が立つ。ソーラーパネル付きで、台所、シャワー、手洗い、トイレという全ての生活排水を住宅単位で再生・循環しながら利用できる。この小さな建物こそが、実は世界の水問題解決への希望の光になるかもしれないのだ。

何よりの特徴は、上下水道につながっていない「水のオフグリッド」を実現している点。生活排水の98%を再生・循環利用しており、わずかに減る2%分は雨水などで補っている。

この実証実験を主導する水事業のスタートアップ「WOTA(ウォータ)」代表取締役CEOの前田瑶介(30)は、

「いわば『一家に1台の水インフラ』という将来構想の、第一歩となる試みです」

と期待を膨らませる。

目指すは「水の世界のAndroid OS」

WOTA・軽井沢オフグリッド住宅プロジェクト

軽井沢に位置する、水のオフグリッドハウス。

WOTA公式サイトよりキャプチャ

住宅は、建て主が利用。実際に人間がそこで暮らして、生活負荷をかけた状態で同社が実証を実施。「オフグリッド」で十分生活できることを証明した。

上水と下水の処理機能が、超コンパクトなユニットに収まっている。実際の水処理施設の約十万分の一の大きさだ。自治体からの問合せもあり、今後は地域の実情に合わせて各自治体とともに実証を進めていくという。

WOTAの事業は、今まで「大規模集中型」だった水インフラを「小規模分散型」に、しかも「循環型」にしていくことを目指している。

2030年には人類の水需要量に対して世界の淡水資源量が40%不足するとの予測もある。国内においては人口減少社会に突入しており、巨大なインフラを敷設・維持する水道事業自体が赤字に陥っているのが実情だ。

同社は地球規模の課題解決のためのマイルストーンとして、まずは中山間地域や島嶼地域など、特定の地域での水問題の解決に尽力していく。山奥では水道のパイプラインも長くせざるを得ない上、人口も少ないため、単位水量あたりの水処理コストが高くなりがちだ。また、島嶼部など水源が少ない地域もある。

こうした場所では、コストメリットが出しやすく、また水利用を地域の実情に合わせられる「小規模分散型」「循環型」のシステムが有効だ。

前田は、この住宅用の水処理ユニットを活用した実証実験を現時点で水に困っている地域から実施し、向こう3年間以内に、国内外のさまざまな条件下で対応できるだけの実証データを蓄積していきたいと話す。

「将来的にはあらゆるニーズに応える形で、世界の上下水道を代替していく未来を見据えています。

WOTAが展開するプロダクトや仕組みが、水の世界でのAndroid OS(Operating System・基本ソフトウェア)のような存在になれたら。人類が水を自在にコントロールし、水問題を解決するためのプラットフォームになりたいと思っているんですよ」

経験と勘による「職人的」水処理をDX

水処理のイメージ図

WOTA BOXにおける水処理のイメージ図。

WOTA公式サイトよりキャプチャ

WOTAのプロダクトを支えるコア技術は、水処理の「自律制御」。経験工学になっている水処理を科学し原理を追究する。IoTを活用して安定的な水処理運用の再現性を高める。

元々、WOTAのテクノロジーを支えていたのは、前田をはじめ水や科学に関わってきたメンバーが中心だった。最近はソニーやホンダをはじめ、製造業出身者が集まっているという。こうした人材配置もまた、同社が製造業型で事業を進めてきた証でもある。

なぜ、水処理に製造業的なアプローチやデジタル化が必要だったのか? 前田はこう指摘する。

「例えば下水処理場には、微生物で排水の有機物を分解するプロセスがある。水槽の表面の色や泡の出方で『今日の微生物はどれくらい元気かな』とチェックする。

一方、濾過に使う膜が詰まってくると、『どのタイミングで膜を洗浄すべきか』と水処理のオペレーターがさじ加減で決めていく。酒造りの杜氏のような、職人的な運用なんです」

そもそも水処理は、流れ込む水の水質も、量も、水処理の部材の状態も、常に変動する複雑系の世界。担い手も高齢化し、運用のノウハウが継承しづらい業界の構造を変えられないか——。

WOTAは、業界の構造的課題に向き合い続け、経験と勘に支えられていた水処理にセンシング技術やデータ・サイエンスを取り入れ、自律制御に取り組んできた。

この、デジタル化のイノベーションこそが水処理のOS。計測とコンピュータ科学の力を借りることで、それまで経験則に基づいていた水処理を再現できるようになった。前田はこう語る。

「一言で言えば、水処理のデジタル化。水処理産業の構造やプロセスを、土木建設業型から、製造業型、あるいはソフトウェア型に変えるというチャレンジなんです」

食糧やエネルギーの構造も変わるべき

石油採掘

noomcpk / Shutterstock.com

前田は10代で経験した米国留学でアル・ゴア元副大統領のスピーチを直に聞き、環境分野に関心を抱いた。大学入学と同時に体験した東日本大震災を機に、「自分が人生を懸けるべきなのは、水問題の解決」だと位置づけた。

今、30歳の節目を迎えて、理想に向けた思考のギアをさらに上げる。もし水問題が人生の早い段階で解決に目途をつけられるとしたら、次に実現したいのは真の意味での持続可能な社会の実現だという。

「資源循環をなるべくコンパクトな形で世界中にゆき渡らせたら、一人ひとりが生き生きとしている状態になる。

私が目指すのは、部分の最適が全体最適につながる世界です。資源が個々にゆき渡り、かつ環境問題もよくなるのが最も理想的な状態です」

水のみにとどまらず、現代社会で影響力を増している食糧やエネルギー、素材などの他の資源を担うライフラインの構造も変わる必要があるというのが、前田の考えだ。

「これらは、いまだに多くが大規模集中型の資源循環を行っていますが、私はそれらすべてを小規模分散型の資源循環にしていけるといいなと思っているんです」

そんな理想を実現するためにも、まずは自身がライフワークとして、水問題の構造的解決に挑む。

「私たちの事業を入り口に、2030年までに水の循環利用を当たり前にしていきます。水問題を人類みんなで協働して解決することができたら、それを担ったコミュニティは、他の問題も解決していけるんじゃないかと思う。

水問題が解決できるという成功体験を積むことは、人類が人類全体の問題を協力して解決するという、次なる成功への大きな試金石になると思っているんです」

「水の課題をやり遂げて死ねたら本望」

前向きで、ひたむきで、行動力もある。非の打ち所がないようにも見えた前田に、あえて自身の短所を聞いた。その答えもまた、前田らしかった。

WOTA CEO・前田瑶介

撮影:伊藤圭

「自分の短所は、難しい問題が降ってきたという時に、深刻になるよりも、楽しみを感じてしまうところなんです。『よし、解いてやるぞ』と。私は結構、楽観的に考えがちなところがありまして。

しかし、本当の難局においては、もっと深刻さをひしひしと受け止めながら対応すべき場合があると思っています。だからこれからは、しっかり苦しむところもやっていきたいと思っているところです」

とかく、環境問題は強い危機感や未来を憂える悲観のモードで語られがちだ。近年の世界経済フォーラムでも、水問題が解決すべきグローバルなリスクとして常に上位に上ってくる。

いみじくも2022年11月のCOP27(気候変動に関する国際会議)では、イエメン代表が「我が国は常に干ばつに最も脅かされている国の一つであり、それが水を巡る内戦の理由になっている」と発言している。

人類規模の課題に対して、上から降ってくる「変えるべき」のモードで立ち向かうか。自分の内側から「変えたい」のモードで立ち向かうか。その違いは大きいと、私は思う。前田の楽観のモードは、長期的なモチベーション維持が必要条件となるインフラ事業家には、むしろ歓迎すべき特質なのではないかと思った。

未来を志向する前田の熱は、何より次の言葉に表れていた。

「私は水の課題をやり遂げて死ねたら、本望だなと思っているんです」

(敬称略・完)

(文・古川雅子、写真・伊藤圭)

古川雅子:上智大学文学部卒業。ニュース週刊誌の編集に携わった後、フリーランスに。科学・テクノロジー・医療・介護・社会保障など幅広く取材。著書に、『「気づき」のがん患者学』(NHK出版新書)がある。

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