エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された第27回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP27)の会場入り口。
Catherine Boudreau/Insider
- 第27回国連気候変動枠組条約締約国会議において、途上国は気候災害による「損失と被害」基金の設立を勝ち取った。
- 一方、化石燃料は未だ広く利用されており、各国は温室効果ガスの排出を削減するための新たな計画を立てることはほぼなかった。
- 地球は今も、今世紀末までに壊滅的なレベルまで温暖化する方向に向かっている。
エジプトのシャルム・エル・シェイクで開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP27)では結局、誰も望んだものをすべて手に入れることはなかった。
気候変動問題を担当する外交官たちは、途上国が温暖化によって被っている損害を先進国が賠償するという30年越しの歴史的な合意を得て、この紅海沿いのリゾート地を後にした。しかし、彼らはこの気候変動危機を引き起こしている温室効果ガス排出を抑制するための、より積極的な計画を打ち出すことはできなかった。
約2週間の会期を終え、さらに閉会予定日から36時間が経過した11月20日、ようやく200カ国近くが「損失と被害」を受けた途上国を支援する基金の設立に合意した。途上国やアントニオ・グテーレス(António Guterres)国連事務総長は、このことがCOP27の成功を見極める試金石になると考えていた。というのも、気候変動に対して最も脆弱でありながら、世界の温室効果ガスの3%しか排出していないアフリカ大陸で今回のサミットが開催されたからだ。
グテーレス事務総長は「今回のCOPで正義に向けた重要な一歩を踏み出すことになった」と述べている。
「しかし、はっきりさせておこう。我々の地球はまだ緊急治療室にいる。今こそ(温室効果ガスの)排出量を大幅に削減する必要があるが、今回のCOPではこの問題に対処できていない。『損失と被害』のための基金は絶対に必要なものだが、気候危機によって小さな島国が地図から消え、アフリカの国々が砂漠に変わってしまったら、それは答えにはならない」
以下では、COP27で進展したこと、あるいは期待外れに終わったことについての概要を紹介する。
進展:途上国の勝利
アメリカと欧州連合(EU)は、災害に脆弱な国々を支援するための基金を設立すれば、莫大な金銭的負担を抱えることになるという懸念から、ほんの1年前までこのアイデアに反対していた。そのことからすると、今回、基金設立が合意に至ったことは大きな前進だと言える。
アメリカのバイデン政権はCOP27を前に立場を変え、この問題を正式な議題とすることを支持した。またヨーロッパは小規模島嶼国との最終合意の仲介役として重要な役割を果たした。
今回の合意は、「G77+中国」として知られる途上国の交渉グループによる長年にわたる働きかけを受けたものだ。今年このグループを率いたパキスタンは夏にモンスーンによる洪水で国土の3分の1が水没、1700人以上が死亡、被害額が推定300億ドル(約4兆円)となり、気候危機の影響を象徴する存在になった。
どの国が資金負担をするかという具体的な内容は、来年にかけてまだ詰める必要があり、アメリカのジョン・ケリー(John Kerry)気候問題担当大統領特使は、中国にも拠出するよう呼びかけている。というのも同国は世界最大の温室効果ガス排出国であるにもかかわらず、国際機関からは途上国と見なされているため、この基金への拠出が義務付けられていないからだ。
COP27の開催期間中に、ドイツ、ベルギー、オーストリア、スコットランドは、この基金に対して少なくとも合わせて2億ドル(約280億円)を拠出することを約束した。
期待外れ:「石油・天然ガス」の削減については言及なし
すべての化石燃料の「段階的削減」を求めるインド主導の取り組みは、これまで以上に多くの支持を集めているにもかかわらず、進まなかった。
2021年にイギリスのスコットランドで開催されたCOP26では、石炭火力発電の「段階的削減」が「グラスゴー気候合意」に盛り込まれたが、これは二酸化炭素回収・貯留技術を伴わない石炭火力発電のみを対象としていた。
COP27で「石油・天然ガス」を含むすべての化石燃料の削減について言及されていれば、グラスゴー気候合意よりも一歩進んだものになったかもしれないが、そうはならなかった。このような結果になったことも、COP27の会期中にサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)などの産油国の関係者が、必要な限り世界に石油を供給し続けると述べたことを考えれば、驚くにはあたらない。その上、化石燃料産業からCOP27に参加した関係者の数は、ドバイで2023年のCOP28を主催するUAEを除いて、どの国よりも多かった。また、アフリカの一部の国の指導者たちは、ヨーロッパに石油と天然ガスを供給することを強く望んでおり、ウクライナ侵攻で途絶えたロシアからの供給分を補おうとしている。
今回の決議で、再生可能エネルギーや「低排出エネルギー」の使用を増やすことを求める声が上がっているが、後者は天然ガスの増加につながるとして、環境活動家は懸念している。天然ガスの燃焼時の温室効果ガス排出量は石炭の約半分だが、その主成分であるメタンは、二酸化炭素ほど長くは大気中にとどまらないものの、排出されて最初の20年間は二酸化炭素の80倍の温室効果がある。
再生可能エネルギーの活用に関しては、COP27ではなくインドネシアで大きな前進が見られた。バリ島で開催された主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)で、世界第3位の石炭生産国であるインドネシアは、化石燃料から再生可能エネルギーへの転換を進めるために、アメリカ、日本、その他の先進国から200億ドル(約2兆8000億円)の支援を受ける「公正なエネルギー移行パートナーシップ(JETP)」を締結することになった。支援を受ける条件として、インドネシアは電力部門からの温室効果ガス排出量を2030年までに頭打ちにすることなどを約束した。
期待外れ:地球の温暖化が止まらない
国連は、各国が現在掲げている温室効果ガス排出削減目標を達成できたとしても、世界の平均気温は今世紀末までに産業革命前から摂氏2.4度上昇する恐れがあると発表している。これは、壊滅的な災害を避けるためには気温上昇を摂氏1.5度に抑える必要があるというCOP21で採択されたパリ協定での目標を吹き飛ばすほどのものだ。
COP27では、メキシコやエジプトなどの数カ国が、2030年までに排出量を削減するためのより積極的な目標を設定した。トルコも2030年の排出削減量をBAU比(対策を講じなかった場合の排出量との比較)で41%にすることを約束し、一見有効な目標と思われたが、実際にはこの計画でカーボンフットプリントを32%増加させることができるとブルームバーグが報じている。
どの約束も地球温暖化を抑制するのに十分なものではない。今後9年間、排出量が現在のレベルのままであれば「1.5度目標」を達成する可能性はないことが、調査によって明らかになっている。それによると石油とセメントの使用が、主にアメリカとインドでの2022年の排出量を前年より増加させたという。