REUTERS/Marco Bello
※この記事は2022年11月25日初出です。
11月8日の米国中間選挙から1週間経った16日、連邦下院で共和党が多数派(218席)を制したことが報じられた。この原稿の執筆時点(アメリカ11月24日夜)では民主党213・共和党220となっており(総議席数435)、まだ下院における両党の議席が最終的にどういう数字に落ち着くかは分かっていないものの、かなり拮抗したものになることは見えてきている。
上院では民主党が多数派を維持することが確実であり、12月6日に行われるジョージア州の決選投票の結果次第では、むしろ議席を1つ増やすことになるかもしれない。これらの結果は、選挙前に広く予想されていた「赤い波(共和党圧勝の意)」とは程遠いものだった。共和党のリーダーたちもそう認めている。
中間選挙は、現職大統領の評価を問うレファレンダム(国民投票)とみなされており、歴史的に、与党が負けるのがデフォルトとされている。特に、経済がうまくいっていない時の中間選挙では、大負けすると言われている。例えば1994年のクリントン(下院で52席、上院で8席失った)、2010年のオバマ(下院で63席、上院で6席失った)などがそうだ。
現在アメリカで起きている歴史的インフレーション、大幅利上げ、経済の見通しに対する悲観的なムード、バイデン大統領の支持率の低さ(40%台)、上下院で両党が占める席数の僅差ぶりを鑑みて、選挙前には専門家たちの多くが「これほど共和党にとって条件の揃った中間選挙も珍しい」「共和党の赤い波が起き、上下院ともに多数派を奪還するだろう」と予測していた。
だが蓋を開けてみれば、そうはならなかった。選挙後、さまざまなメディアや専門家たちが結果を分析しているが、このたび共和党が当初目指していたほどに勝てなかった主な理由は、無党派、女性、若者の票がとれなかったことが大きかったとされている。
彼らは、経済だけではなく、民主主義の方向性、女性が中絶を決める権利、気候変動といったことについても懸念しており、それが民主党を支持する投票につながったと見られる。 特に無党派は、通常の中間選挙では野党に流れやすいといわれているので、これは興味深い現象だった。
「Trump Fatigue」(トランプ疲れ)という言葉も聞かれるようになってきた。2015年からの「トランプ劇場」に、世の中が疲れてきているという雰囲気は2020年の選挙の際にも始まっていたと思うが、この選挙でその色が一層濃くなった。「トランプ」というリアリティTVにはもう飽きたので、次の番組を見たいというような。
保守的なウォール・ストリート・ジャーナルは選挙翌日の社説で、「トランプは共和党の最大の敗者」とし、今回、本来ならば勝てたはずのレースでこれほどまでに共和党候補者が負けたのは、トランプのせいであったと述べている。さらに、「トランプのおかげで共和党は2018年の中間選挙で下院を失い、2020年の大統領選で負け、2021年1月のジョージア州での上院決選投票でも負け、2022年の中間選挙で上院の民主党支配継続を許してしまったのだ」と一刀両断にしている。
その意味では、今回の中間選挙は(選挙に直接出馬はしていない)トランプについての評価を問う国民投票という側面もあったと思う。トランプに対する「ノー」が、民主党を利したのだ。
トランプから主役奪った44歳の新星
失望感が共和党を支配する中、スポットライトを独占し、急激に注目を集めている人物がいる。フロリダ州知事として再選されたロン・デサンティスだ。44歳と若く、イエールとハーバード法科大学院を卒業したピカピカのエリート、大学時代は野球部で大活躍した。大学院時代には海軍の「シールズ」と呼ばれる精鋭部隊に所属し、イラクでの勤務も経験している。
日本でもこのたびの選挙を機に彼の名前を聞くことが増えたと思われるが、その人となり、政治的信条などについては、まだ広く知られていないのではないだろうか。アメリカでも、デサンティスは中間選挙の前から2024年大統領選の有力候補の一人と目されてはいたが、全国的に知名度の高いNational nameではなかった。それがこの11月8日を境にガラッと変わった。ステージの中央に躍り出てきたという感じだ。
ただ、デサンティスは昨日今日に出てきたわけではない。彼は今回の再選、そしておそらく2024年の大統領選を視野に入れて、この2年ちょっとの間、周到に準備を重ね、政治的資本を積み上げてきた。
仮に彼が大統領選に出ることになり(まだ出馬を表明してはいない)、勝利した場合、それが共和党、アメリカそして世界にとってどういう意味を持つのだろうか。彼は、トランプによる共和党の独占支配を終わらせ、新しい方向にアメリカを引っ張っていけるような政治家なのだろうか?
2018年のフロリダ州知事選では、デサンティス(左)はトランプへの忠誠心をアピールして当選を勝ち取った(2018年7月31日撮影)。
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ロン・デサンティスは、2012年に連邦下院議員として初当選、議員を3期務めたのち、2018年にフロリダ州知事に当選した。2018年の知事選ではトランプの支持を受け、「MAGA(アメリカを再び偉大に)派」のスターと見なされてきたが、今ではトランプとは距離を置き、伝統的な保守層も含めた幅広い層からの支持を固めようとしているように見える。
デサンティスは、中間選挙直後に行われたいくつかの保守派の世論調査で既にトランプを超える支持を得ている。例えばテキサス共和党による調査では、「2024年の大統領候補として、トランプを含む6人の候補者の予備選で誰を支持するか」という問いに対し、デサンティスと答えた人が43%、トランプ32%という結果が出ている。
中間選挙後に行われたYouGov Americaの調査でも、共和党支持者および共和党寄りの有権者の42%が次の大統領選の共和党候補にふさわしいのはフロリダ州のデサンティス知事だと回答しており、トランプと答えた人の割合(35%)を超えている。 トランプは当然これを面白く思っておらず、「デサンティスは忠誠心がなく、凡庸な知事である」「デサンティスが大統領選に出るとしたら、彼にとって打撃となりかねない情報を暴露する」などと、得意の「口撃」を始めている。
米国のメディアも、中間選挙を境にガラッと態度を変えた。ワシントン・ポストも指摘しているとおり、2016年の大統領選でトランプの“広報マシーン”状態になっていたフォックス・ニュースの変わり身の早さは特にあからさまだった。選挙翌日の段階で、コメンテーターたちは、「デサンティスは、次の大統領候補として先頭集団を走る一人、いや、一番先頭を走っていると言えるかもしれない」「トランプはもはや過去」と述べていた。
フォックスを傘下に持つニューズ・コーポレーションのルパート・マードックとトランプの不仲はこの数年で広く知られるようになっていたが、ここへ来てマードック側が決定的にトランプと決別し、新しい馬に乗り換えたという感がある。
同じくマードックの持つニューヨーク・ポストの選挙翌日の紙面は、極めつきだった。表紙にデカデカとデサンティスの勝利宣言の写真と「De FUTURE」というタイトルを載せている。「デサンティスこそが未来」というメッセージが明らかだ。この記事についてニューヨーク・タイムズがわざわざ記事を出し、「マードック帝国は、トランプを永久に切ったということなのだろうか?」と分析するほど、この手のひら返しぶりは注目を集めた。
フロリダはもはや紫ではない
激戦州フロリダで圧勝し、家族とともに支持者たちの声援に応えるデサンティス。
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デサンティスの地元フロリダ州は、大統領選の勝利に必要な選挙人の数のうち、全体の10分の1以上を占める大票田だ。「フロリダで勝たずに大統領選に勝つのは難しい」とまで言われる(2020年のバイデンは、フロリダで勝たずとも大統領選に勝てるということを示したが)。さらに、アメリカ最大のスイングステート、つまり「紫の州」で、選挙によって赤(共和党)にも青(民主党)にもなる場所だと長年見なされてきた。
例えば2000年の選挙では、ブッシュ(息子)とゴアのフロリダにおける得票数の差は、たったの537票だった。近年の大統領選では、オバマが2回フロリダを獲り、トランプも2回フロリダを獲っている。そのくらい激しくスイングするからこそ、選挙のたびに注目を集めてきたし、フロリダ州の知事が民主党か共和党かということは、大統領選にも影響を及ぼす大きなファクターと考えられてきた。
デサンティスが2018年にフロリダ州知事選に初出馬した時は、 0.4ポイント(3万5000票以下)の僅差での勝利だった。それがこのたびは一転し、民主党候補に20ポイント近い差をつけての余裕の再選、67郡のうち62郡で勝利した。フロリダ州知事としてこれほどの差をつけて勝ったのは1982年以来、つまり過去40年で初めてと言われている。
さらに話題になったのが、ヒスパニックと女性からの支持が強かったという事実だ。特に、ヒスパニックが大半を占め、民主党が握るとされてきたマイアミ・デイド郡を2桁のマージンで押さえた(2018年の選挙の際には、デサンティスはこの地域で大負けしている)。共和党の知事候補としては、2002年以来、20年ぶりの快挙だ。
また、彼は、伝統的に共和党支持者が多いキューバ系のみならず、民主党支持者が多いプエルトリコ系からも票を勝ち取っている。さらに言えば、黒人を除くほとんどの人種グループにおいて、デサンティスが民主党の候補を上回る支持率を得ているというCNNのデータもある。
知事選のみならず、フロリダ州の州議会も、上下院ともに共和党が多数派を勝ち取った。勝利宣言ではデサンティス自身も、「我々は選挙に勝っただけでなく、(フロリダの)政治的地図を塗り替えた」としている。
この圧倒的な勝利の背景には、デサンティス陣営の資金集めの強さがある。デサンティスを支援する政治行動委員会(Political Action Committee)「Friends of Ron DeSantis」は、大口小口の寄付などをすべて合わせると、今回2億ドル(約280億円)を集めたとされている。Politicoは、この数字は知事選における記録を更新するような額であるとし、デサンティスを「事実上、2024年選挙に向けてのフロントランナー」としている。
今回のデサンティスの圧倒的な勝ち方を見て、「フロリダ州は今や赤い州になった」とする見方は強い。彼が知事を務めてきたこの4年で、フロリダの政治的環境が一変したのだと。またこれらのデータは、デサンティス陣営の強さだけでなく、民主党がフロリダで力を失っているということを示しているのかもしれない。彼が出馬することになろうがなかろうが、これが2024年の大統領選に与える影響は大きい。
やっていることは「トランプ2.0」
デサンティスの名前を全国レベルのニュースで頻繁に見るようになったのは、コロナ危機が始まってからだ。フロリダでのコロナ感染者数が増加している時でも、デサンティスはフロリダ州知事としてしばしば米疾病対策センター(CDC)の方針に抵抗し、ロックダウンを拒否し、ワクチン義務化を拒否し、マスク着用の効果を否定するような発言を続けてきた。
例えば2020年の9月には、まだ感染者数が減っていないにもかかわらず、レストランやバーの収容人数制限を撤廃。2021年7月には、フロリダの感染者数が爆発的に増えている中、デサンティスは(証拠を示すことなく)マスク着用は子どもに害があるとし、公立学校がマスク着用を義務付けることを禁止する州知事令を発令した。
アメリカには、マスク着用義務を政府によって課されることを人権侵害のようにとらえ、抵抗を覚える層がいる。このように「マスクをつけない自由」を主張するのは、「小さな政府」を好む保守層やMAGA支持者に多い。
デサンティスは、ウイルスに対する強気な姿勢を前面に出し続け、そのたびにワシントンと対立することによって、フロリダの保守層からの人気を勝ち取っていった。同時に、「リベラル対保守」という文化戦争における共和党側の代表選手的な立場を、全国区レベルで確立した。
アトランティックは、なぜ民主党がフロリダで苦戦したかを分析する記事の中でこう述べている。
「デサンティスが描く『自由の州フロリダ』という楽園では、誰もあなたに何かを強制することがない。所得税納税も、ワクチン接種も、気候変動について心配することも、節水も、政府は一切強制しない。家を安全なところに建てろとも言わない。デサンティスがアイスクリームを約束する一方で、民主党はブロッコリーを勧めているようなものだ」
「文化戦争」の戦士としてのデサンティスの姿勢は、多くの面でトランプと重なっている。そして、彼のそのような姿勢は、最近始まったものではない。デサンティスは、下院議員だった2015年、House Freedom Caucus(フリーダム・コーカス:自由議員連盟)の共同設立者の一人として名を連ねている。このグループは、元Tea Party運動のメンバーたちを中心に組織されたもので、共和党の中でも最も右派(極右も含む)とみなされている。
例えば、移民問題。彼は、オバマ政権時代から、DACA(Deferred Action for Childhood Arrivals:若年移民に対する国外強制退去の延期措置)に反対するなど、移民に対して厳しい姿勢をとってきたが、デサンティスの知名度が一気に上がる出来事が、2022年9月中旬に起きた。中南米からの移民約50人を、チャーターした飛行機でマサチューセッツ州のマーサズヴィニヤード(高級避暑地で、リベラルが多い)に移送したのだ。
バイデン政権が今年4月、不法移民の即時送還措置を廃止すると発表すると、南部の諸州は反発し、それ以降、南部の州が民主党が地盤とする北東部に移民を送り込むケースが頻発している。デサンティス同様2024年の大統領選の候補の一人とみなされているテキサス州のアボット知事も、9月にハリス副大統領の公邸の前に移民約100人を送り込んだ。
これは明らかに、移民問題で民主党を批判し、共和党の有権者にアピールするためのショーだ。移民を政治の駒として使っているとして、バイデン大統領、民主党議員たちから非人道的だと批判を浴びた。CNNは、デサンティスが「移民たちはサインもしており、どこに行くかを知っていたし、すべては同意のもと自主的に行われたことだ」と言ったと報じている。
民主党を社会主義者として攻撃するのも、銃規制(フロリダでは、2018年にパークランドの高校での銃乱射事件が起き、17人が亡くなっているにもかかわらず)に反対するのも、気候変動について否定的なところもトランプと同じだ。デサンティスは、州の年金基金にESG関連のリスクを無視するよう命じ、金融大手から批判されている。
今話題の中絶問題についても、2022年春、妊娠15週以降の中絶を禁止する法案に署名して成立させている。「批判的人種理論」についても、学校で批判的人種理論を認めてしまえば、子どもたちに「米国が腐っていて、国の制度は正統性を欠いている」と教えることになると主張し、2021年6月、フロリダ州議会は、学校で批判的人種理論を教えることを禁じた。また2022年3月には、性的指向や性自認に関する教室での議論などを厳しく制限する「ゲイと言ってはいけない」法案に署名した。
ディズニー社がその方針に反対を唱え政治献金の停止を表明すると、それへの報復として、ディズニーを狙った懲罰的な法律(ウォルト・ディズニーが「ディズニーワールド」を自治区のように運営できる権利を廃止する法)まで制定した。これらはすべて、宗教右派はじめ保守層にはウケがいい動きだ。
米フロリダ州オーランドのディズニーワールド前では2022年4月、「ゲイと言ってはいけない」法案の支持者たちが集会を開いてアピールした。
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「トランプ疲れ」をしている私の周囲の人々の中には、デサンティスの浮上を見て「トランプでないならもう誰でも歓迎!」と言う声も少なくない。その気持ちも分からなくはないのだが、私は、デサンティスは「若くて見てくれのいいトランプ」ではないかという疑念を持っている。だからこそむしろ危険なのではないかと。
以前から、「本当に恐れるべきは、トランプよりも、もっとスマートで洗練されたトランプが出てくること」と警告している人たちはいた。「トランプ主義(Trumpism)」は、トランプという一個人が消えても続く。トランプ的なものを求める人々がいる限り、トランプ的な手法を応用して票に結びつけようとする政治家は出てくるからだ。デサンティスはまさに「トランプ2.0」「アップグレードされたトランプ」なのではないかという気がしてならないのだ。特に、国をまとめるのではなく、分断するという点において。
デサンティスはトランプよりもずっとスマートだ。どこから切ってもエリートで、元軍人で、押し出しがいい。見るからに下品ではないし、むしろ「爽やか」に見えなくもないくらいだ。ロースクールを出ているだけあって弁は立つし、政策についての考えも理路整然と述べる。攻撃的にもなるが、トランプほど毒舌ではないし、ボキャブラリーもはるかに知的だ。何より、カリスマがあって、若い。そういう意味では、ビル・クリントンやオバマが初めて出てきた時のような新鮮さすらある。
そして、彼の妻ケイシー・デサンティスの存在にも注目するべきだと思う。今42歳の彼女は、結婚前まではフロリダでは人気のあるテレビキャスターだった。癌のサバイバーであり、選挙キャンペーンでは、デサンティスがいかに素晴らしい人間・夫・父であるかという人間的側面をアピールする役割に徹している。夫の強力なアドバイザーであり、選挙戦におけるメディア戦略は彼女がリードしているとも報じられている。
インタビューやスピーチを見ると、さすが元キャスターだけあって喋りもうまいし、堂々としている。見かけはバービー人形のようで、2018年も今回も、勝利宣言の際、一昔前のミスコンに出てきそうな感じの派手なドレスを着ていた。良くも悪くも、強烈な存在感がある。大統領選に出馬するとなると、妻が背負う役割はとても大きいが、彼女であれば、キャンペーンにとって強力な武器になるだろうと思わせるものがある。
大統領選はもう始まっている
中間選挙のカウントはまだ終わっておらず、上院については12月6日のジョージア州の決選投票が終わるまで最終的な議席数が定まらないが、2024年の大統領選に向けてのキャンペーンは、事実上もう始まっているという感じがする。
11月15日の夜9時、トランプは前々からやると予告していた大統領選出馬宣言を行った。デサンティスは2023年5月の州議会の閉会後に正式に出馬を宣言すると見られており、今のところ質問されても「今は、中間選挙が終わったばかりじゃないか」などという答え方しかしない。でも、彼がこれまでやってきたこと、してきた発言は、すべて2024年を視野に入れた、計算し尽くされたものという感じがする。このたびの選挙の結果を見て、さっさとトランプからデサンティスに乗り変える共和党のスポンサーも少なくないだろう。
トランプとデサンティス以外で今のところ共和党の候補者になりうると見なされている人たちには、ペンス前副大統領、ポンペオ前国務長官、ヘイリー元国連大使、バージニア州のヤンキン知事、サウスダコタ州のノーム知事、テキサス州のアボット知事などが含まれる。まだ今後の展開は分からないが、現時点で考えるに、この中で共和党内の激しい分裂を招く可能性が一番高いのは、デサンティスとトランプが指名を争うことになった場合ではないだろうか。
トランプのパワーは落ちているように見えるが、彼はまだ完全に終わったわけではない。岩盤支持層も固い。2016年の大統領選の際、ジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオなど、選挙戦前半には「本命」と呼ばれていた候補者が、キャンペーンが本格化するにつれてトランプの舌鋒、中傷の前に次々と敗退した。今自信満々に見えるデサンティスも、ブッシュやルビオのように尻つぼみにならないとは限らない。あるいは、デサンティスが本気で反撃モードになった場合、トランプとの中傷合戦になるかもしれない。
ギャビン・ニューサムは2003年、36歳の若さでサンフランシスコ市長に初当選。2004年にはアメリカで初めて同性婚カップルに結婚証明書を発行したことが話題になった。その後カリフォルニア州副知事を2期務めた後、2019年に同知事に当選。
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今回の中間選挙の前後で、共和党側の流れは明らかに変化した。これからいろいろなことが変わっていくと思う。これを受け、2024年に向けての民主党の戦略にも影響が出るだろう。共和党側の候補者がトランプではなくデサンティスになりそうだとなった場合、「バイデンでは互角に戦えない」という声が党内で強まるのではないだろうか。
現在80歳のバイデンと44歳のデサンティスでは、親子ほどに年が違う。ただでさえバイデンの高齢は有権者から懸念材料と見られているところ、元気溌剌のデサンティスが相手では、余計にそれが際立ち、ニクソン対ケネディ、ブッシュ父対クリントンのようになってしまうのは目に見えている。
仮にバイデンが再選を目指さないとなった場合、民主党側からは誰が候補となるか。今の段階でよくのぼる名前は、カリフォルニア州のニューサム知事、イリノイ州のプリツカー知事、今回圧勝したミシガン州のウィットマー知事、ハリス副大統領、ピート・ブティジェッジなどだ。
この中で、「左(リベラル)のデサンティス」とみなされているのが、元サンフランシスコ市長ニューサムであり、この2人が対峙することになった場合、真っ向からの「文化戦争」、価値観と価値観の戦いが繰り広げられることになると思われる。この2人は同年代(ニューサムは55歳)で、スター性の面でも互いに匹敵するものがある。
ペロシの議長退任が象徴する世代交代
連邦議会議事堂の下院議場でスピーチをするナンシー・ペロシ下院議長(白いジャケット)。中間選挙で下院が共和党多数となることが確定的となり、下院民主党の指導部に立候補しない考えを明かした(2022年11月17日撮影)。
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下院多数派を共和党が奪還したことが明らかになった翌日、下院議長のナンシー・ペロシは、民主党内でのリーダーシップの役割を降りると発表した。現在82歳のペロシは、2007年に女性として史上初の下院議長に就任、2019年に再任した。
下院議長は、副大統領に次いで大統領継承順位第2位の重職であり、この役職を2度務めた人はアメリカ史上、彼女がたったの2人目だ。ペロシは、引退はせず、ただのカリフォルニア州選出の下院議員として連邦議会に残る。リーダーシップは、次の世代(40〜50代)にバトンタッチする。そのことについて彼女は、
「私は、キッチンで息子の妻に向かって『うちの子が好きな七面鳥の詰め物は、そういうのじゃないの。ウチではこうやって作るのよ』と口出しするような姑になるつもりはありません(“I have no intention of being the mother-in-law in the kitchen, saying: ‘My son doesn’t like the stuffing that way. This is the way we make it,’”)」
と、LAタイムスとのインタビューで述べている。彼女の賢さとウィットがよく表れた言葉だ。
共和党でも、選挙後、ミッチ・マコーネル(80歳)を(このたびの選挙の責任を問うという意味も含め)上院トップの院内総務から交代させるべきではないかという議論が出た。結果的には彼の続投となったが、交代を求める声が上がること自体はごく自然なことだと感じた。
今回の選挙、特にデサンティスの急浮上がきっかけとなって、共和党はもちろん民主党にも、もしかしたら世代交代が始まるのかもしれない……という期待を少し抱き始めている。もしそうなれば、デサンティスが政治家としてどうということを超えて、アメリカの政治にとっては健全な展開だろうと思う。
アメリカ社会の強みは、新陳代謝が激しく、ダイナミックなところにある。年齢がすべてではないとはいえ、2020年のように70代のおじいさん同士が戦うような大統領選は、アメリカらしいとは言えない。バイデンも(それにトランプも!)、ペロシの言葉を自分事として捉え、若手にバトンを渡すことを考えてもいいのではないだろうか。
渡邊裕子:ニューヨーク在住。ハーバード大学ケネディ・スクール大学院修了。ニューヨークのジャパン・ソサエティーで各種シンポジウム、人物交流などを企画運営。地政学リスク分析の米コンサルティング会社ユーラシア・グループで日本担当ディレクターを務める。2017年7月退社、11月までアドバイザー。約1年間の自主休業(サバティカル)を経て、2019年、中東北アフリカ諸国の政治情勢がビジネスに与える影響の分析を専門とするコンサルティング会社、HSWジャパンを設立。複数の企業の日本戦略アドバイザー、執筆活動も行う。株式会社サイボウズ社外取締役。Twitterは YukoWatanabe @ywny